押本龍一－私の出会う光景－第233回：アリゾナ州セリグマンの朝・The Morning at Seligman,Arizona

押本龍一、東京品川生まれ。
1982年、2年の留学予定で渡米。1984年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更し広告写真スタジオで働き始める。1991年フォトグラファーとして独立。1995年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移しエンターテインメント関係の撮影中心に活動。2018年より日本とアメリカの二重生活。近年は旅写真にも力を入れている。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

アリゾナ州ヤヴァパイ郡（Yavapai County）にある標高1,598ｍの町セリグマン（Seligman）のギフトショップが朝陽に照らされ、舞台か映画のセットように見える。セリグマンは、オリジナルのルート66沿いにあり中継地として栄えた。南に並行している州間高速道路40号線が主要道路になり、ヒストリカル・ルート66となった今でも、モーテル、レストラン、ギフトショップは閉店することはなく立ち寄る人も多い。

ロサンゼルスへ向かい州間高速道路40号線を西へ走っていた私は、アリゾナ州のセリグマンで給油を兼ねた休憩のため高速道路を下りた。セリグマンには何度か立ち寄ったことはあったが、宿泊したことはなかった。この日も給油後、ロサンゼルスまで640kmを一気に走って帰宅するつもりでいたが、セリグマンの町並みが近づくと、早めにビールでも飲んでゆっくりとしたくなってきた。ヒストリカル・ルート66を西から東までゆっくりと走り、モーテルを一通り車から見た後、町の東にある小さなモーテルで部屋を見せてもらった。テレビとエアコン付き冷蔵庫なしの部屋は問題がなく宿泊代はリーズナブル、私は泊まることにした。商売っ気のなさそうな先住民族の血を引く70代の女性オーナーに宿代を前払いし、部屋の鍵を受け取り、ガソリンスタンドでビール、チップス、サンドイッチを買い、シンプルなモーテルの部屋に入った。旅先で日没前にシャワーを浴びてビールが飲めるのは、私にとってかなり贅沢なことでベッドも丁度良い硬さだった。10室ほどのモーテルは、私を入れて3室に宿泊客がいて（部屋の前に車を停めるので分かる）、物音一つせず、時折聞こえてくるルート66に並行して走る貨物列車の程よい音が心地よく響き、静かな夜を過ごすことができた。

モーテルの部屋のドアを開けたまま、夕方の日差しが当たる壁を見ながら古き良き時代のアメリカを偲び、独りビールを飲む。

翌朝、夜明け前に車で町から少し離れた西へ行きそこで日の出を迎えた。日が昇るとルート66と並行して走る貨物列車が朝陽に輝いた。1926年にルート66（U.S. Route 66）が国道として指定される40年前まで、セリグマンはプレスコット・ジャンクション（Prescott Junction）と呼ばれ、サンタフェ鉄道（Santa Fe Railway）の主要線と、プレスコット・アンド・アリゾナセントラル鉄道会社（Prescott and Arizona Central Railway Company）の支線が連結する鉄道の駅だった。1882年、アッチソン・トピカ・アンド・サンタフェ鉄道（Topeka and Santa Fe Railway）通称(AT&SF)がセリグマンまで延長され、1886年、実業家のジェシー・セリグマン（Jesse Seligman）が、この地域の鉄道資金調達に支援したことからセリグマン（Seligman）と改名された。比較的平坦な土地のため、列車の入れ替え場となり、乗組員の交代も行われ、周辺の牧場へ家畜を運ぶ配送センターにもなった。

東の山から太陽が昇る。この土地はグランドキャニオンにかけて長い間ハヴァスパイ族（Havasupai people）のものだったが、1882年に連邦政府によりほとんどの土地を放棄させられた。

今日、バーリントン・ノーザン・サンタフェ鉄道（Burlington Northern Santa Fe Railway）通州 (BNSF)となった貨物列車が朝陽を浴びて走って来た。

宿泊したモーテル近くからも貨物列車がよく見えた。

町に戻ると朝陽が注ぐ町並みはとても色鮮やかで、人影が全くなく通過する車もほとんどなかった。私はモーテルに戻り部屋の鍵を返却した後、そのままロサンゼルスに向かうつもりでいたが、2005年2月、アメリカ合衆国国家歴史登録財（National Register of Historic Places）に登録された町並みを撮影することにした。