押本龍一－私の出会う光景－第218回：大雪のセドナ（SEDONA）

押本龍一、東京品川生まれ。
1982年、2年の留学予定で渡米。1984年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更し広告写真スタジオで働き始める。1991年フォトグラファーとして独立。1995年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移しエンターテインメント関係の撮影中心に活動。2018年より日本とアメリカの二重生活。近年は旅写真にも力を入れている。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

アリゾナ州中北部に位置するセドナのエアポート・メサが降雪で霞む。そしてセドナの街は全面車両通行止めとなり雪に閉ざされた。

最近日本でも知られるようになったアリゾナ州セドナで年末年始を過ごすことになった。朝9時にLAを出て800kmを走りセドナに到着するともう日が暮れていた。セドナの景色と言えば赤い岩だが、壮大な景色は翌朝までお預けとなった。翌朝、借りた一軒屋で朝遅く目を覚ますと雪がぱらつき、少し前の天気予報では快晴続きのはずだったのでびっくりだ。「この日は同行した親類と何もしないでのんびりとー」と思っていたが、20年前から見たかったセドナの雪に予定を変更、私はセドナの４大ボルテックス（強いエネルギーが大地から渦巻き状に放出されている場所）のひとつであるエアポート・メサへ歩いた。セドナの雪は降っても昼頃までに溶けてしまうことが多いと聞いていたが、降り出した雪は止むどころか激しさを増してくる。エアポート・メサへ登った後、セドナエアポートへ向かうトレイルを歩いたが、あまりの大雪でエアポート手前にあるロッジのロビーへ避難した。受付の男性が「自由にコーヒーを飲んでいいよ」と言うので、彼の言葉に甘えてしばらく暖を取っている間、「街に下る道は通行止めとなり、今朝チェツクアウトする宿泊客はしばらくここからでられないよ」と外から戻った従業員が告げに来た。大晦日の日、セドナにしては大雪となり、「車を出さずに歩こう！」という心の声に従って大正解だった。

男性エネルギーが強いといわれるエアポート・メサ。雪に薄っすらとカバーされ始めたが、この時点では積もる程の雪だとは思わなかった。

トレイルを歩きだすと降雪は強まり始めた。

犬の散歩をするロッジの客。この頃までに本当に雪が積もり始めた。

エアポートは完全閉鎖、セドナは白銀の世界となった。

エアポートからは登ったトレイルでなく、車両通行止となった車道を下った。車内にいる人はただひたすら道が開通するのを待つのみ。

降雪はさらに激しくなり、車を街に置いて戻って来たロッジの宿泊客とすれ違う。

360度のパノラマが魅力のエアポート・メサに再び登ったが、赤い岩山はどこにも見えない。

すぐにいっぱいになるエアポート・メサのパーキングに一台の車もなく、除雪車だけが見える。

なかなか出会えない雪をかぶったサボテン。

借りた家に戻るとテレビのニュースでセドナの街全体が車両通行止めになったと伝え、朝から車で移動している人はその場で待機するしかない状況だった。雪は午後3時頃に止み大きな窓から車が動き出したのが見えたので、近くのストアーで調達したチェーンをタイヤに装填し、セドナの4大ボルテックスのひとつカテドラルロック（Cathedral Rock）の眺めが美しいレッド・ロック・クロッシング（Red Rock Crossing）へゆっくりと向かった。目指すポイントはクレセント・ムーン・ランチ（Crescent Moon Ranch）という公園内にあるが、公園は雪のためゲートは閉まっていたので路肩に車を停めた。陽が落ちないうちに撮影したかった私は、冷たく澄んだ空気を吸い込み必死に雪の上を移動した。

州道89Aを西へ行き、（Upper Red Rock Loop Rd）を南下し、カテドラルロックがよく見える（Lover's Knoll）と呼ばれる高台に立ち寄る。ねじれ具合でそこのパワーが分かるといわれるジャニパー・ツリー越しに霞んだカテドラルロックを撮影。

雲が少しだけ切れ、ほんの少しだけ光が差したカテドラルロック。

夏場は水遊びをする人々で賑わうオーク・クリーク周辺に人影はなかった。

オーク・クリークの広い河岸という感じの場所も雪にカバーされ、カテドラルロックは濃霧に包まれた。ここもかなりパワーがあるボルテックスだといわれているが、エネルギシュに動け回れたのはここのパワーのお陰だったかもしれない。

3億5千万年の時を経て現在の景観となったセドナで最も写真が撮られた風景。水の精霊が住むといわれるクリーク周辺に人影はなく、神秘的な雪景色を独り占め。

この日は雪のため赤い岩は見られなかったが、レッド・ロック・クロッシングと呼ばれる所以はオーク・クリークが赤い岩の上を横切って流れるからだ。

レッド・ロック・クロッシングから事故が多発した大雪のセドナの街をゆっくりと走り無事宿泊先に戻った。帰り道、氷結した雪で僅かな傾斜の坂を上れず車を置き去りにする人々を見かけた。借りた一軒家はエアポート・メサまで近く、翌朝の元旦、初日の出を拝みに歩いて登った。人気のパワースポットはパーキンスペースに限りがあり、路肩に車を停めていた車にポリスがチケットを切って置いて行く光景がエアポート・メサから見えた。

非常に寒い元旦だった。南のベル・ロックに朝日が当たっても東の山が邪魔をしてエアポート・メサまでなかなか朝日が届かない。

朝日が届いたサンダーマウンテンとセドナの街。

ようやくエアポート・メサで朝日が浴びられた。冷え込みは半端なかったが待った甲斐があった。

鉄分が酸化して赤い色をつくりだすレッド・ロックに朝日が当たりさらに赤くなる。

雪を被ったジャニパー・ツリーを初めて見た。

初日の出を迎え宿泊先に戻り朝食を摂った後、街の北西にある有名ではないトレイルを少し歩いた。国の予算が決まらず国立公園が機能していない分、国立公園から流れて来たハイカーで人気のトレイルは混雑していたが、私の歩いたトレイルは数グループのハイカーしか出会わず、雪のセドナハイキングを静かに楽しむことが出来た。

雪のセドナハイキング。澄んだ空気に身も心も癒やされる。

厚い雲が出てきて冷え込んできた。

陽が当たらない部分は氷結して滑りやすかったので、スノースパイクを用意すべきだったかもしれない。

セドナには3泊した後、LAに帰る道中、セドナから西に50kmに位置し、かつて豊かな銅鉱山のタウンとして栄えたジェローム（Jerome）に立ち寄った。ジェロームは1929年のピーク時は人口1万5,000人に達したが、銅の需要低下で1953年に鉱山は閉鎖されゴーストタウン化した。1965年には州立の博物館と公園が作られ国のヒストリカル・ランドマークに指定され、現在、芸術家が暮らす独自の雰囲気を持ったタウンに生まれ変わり、訪れる観光客も多い。幽霊が出ると言われているホテルも人気で、私は一度宿泊してみたいと思っている。

山の斜面にあるジェロームはヨーロッパの山岳地帯の洒落たタウンの様で、町角でタバコを吸う女性も独自の雰囲気があった。

20年近く前から見たかった雪のセドナ。今回の旅は日本から訪問した親戚（高齢者も含む）を持て成すことが優先で車に積む荷物にも制限がありカメラ機材は最小限にしたが、機材をいかにコンパクトにまとめるか、又いかに悪天候下に備えるか、今後の私の課題だ。そして、身に付ける物も再確認しなければならいなと思った。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。