押本龍一－私の出会う光景－第169回：モントレー湾北の冬

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

港の玄関口に建つ灯台の周辺は、サンセットを見に来た人の姿がシルエットになり動いていた。私は太陽が灯台の後ろに隠れる位置を探して砂浜を歩き、温暖な冬の日の終りをカメラに収めた。

モントレー湾の真ん中付近から太平洋岸沿いを南下したことは何度かあったが、湾の北はあまり馴染みがなかったので、街がクリスマス一色になった12月、モントレー湾の北を散策してみた。ロサンゼルスからインターステーツ・ハイウェイ5（I-5）を北上し、標高1300m近いテホン峠を越え、カリフォルニア州の中央部に広がるセントラル・ヴァレーに下ると霧に覆われていた。霧の中、平坦な道を1時間ほど北上しI-5から州道46号を西へ走る。州道を1時間近く走り、ワイナリーで知られるパソ・ロブレスでハイウェイ101に入り北上した。ハイウェイ沿いには、スペインのカトリック教会の宣教活動に使われた道、旧エル・カミノ・レアルの跡を走っていることを示す鐘が幾つも立っていた。

州道46号を西へ向かって走ると、バックミラーに明るいものが見えた。切れかけてきた霧の中に太陽が見え出したのだ。道から少し逸れ東に向かって撮影。

鐘は高い位置にあり手で触ることはできなかったが、写真を見ると手で鐘に触れて来たような気になる。

朝10時過ぎ、モントレー湾の北、シークリフ・ステート・ビーチに到着した。このビーチでの目的は、廃船となったSS Palo Altoを見ることだった。SS Palo Altoは、1919年にカリフォルニア州オークランドで軍事用の油送船として造船されたが、戦争（第一次世界大戦）に出すには時が遅すぎた。船は1929年にシークリフ・アミューズメント社に買収され、シークリフ・ステート・ビーチに移された後、カジノ、ダンスフロア、スイミングプール、カフェなどを備えたアミューズメント船として再建され、船に続く桟橋も掛けられた。しかし、同社は2年後に破産してしまい、船の中央部にはヒビが入った。その後も損傷し続けたが、釣り橋として人々に利用された。しかし、現在は安全性が確保できなくなり、桟橋から船に渡ることはできない。

シークリフ・ステート・ビーチまで木の階段を下りる。見たかったSS Palo Altoが、快晴の海に見えた。

ビーチに下り、長さ130mのSS Palo Altoにレンズを向ける。

超望遠ズームレンズで朽ちたSS Palo Altoに迫る。何種類かの鳥の中でペリカンが一番目立っていた。

肉眼では気づかなかったが、アザラシらしき動物がいた。

桟橋の下。この日は波が穏やかだった。

桟橋に上がってみたが、SS Palo Altoには近づけない。

SS Palo Altoを見た後は、少し西のキャピトラ・ビーチへ移動した。洒落たレストランが建ち並ぶ西海岸で最も古いリゾートビーチは、クリスマスシーズンのため路上駐車はフリーだった。キャピトラという地名は、19世紀に出版された小説シリーズに出てくる女主人公に因んでいるようだが、ビーチ沿いの色鮮やかな建物の壁とよく似合う名前だと思った。

手前の2列の色鮮やかな建物は個人の持ち物のようで、バケーションレンタルとしても貸し出されているようだ。

橋を渡り色鮮やかな建物に近づいてみた。ビーチはさほど大きくはなく、その向こうに桟橋が見える。

アメリカらしくない狭い路地も楽しい。

壁のディテールを狙い、レンズを向けた。

見ているだけで明るくなる色合いだった。

桟橋に置いてあったガーベラの花。

快晴の澄んだ空気が感じられる光景だった。

海と空の青に少し染まったCAPITOLA WHARFの黒い文字にフォーカスしていると、桟橋から元気よく少女が走って来た。

キャピトラ・ビーチからは少し西へ移動し、アミューズメント・パーク（Santa Cruz Beach Boardwalk）があるサンタクルーズのメインビーチへ行った。パークの中に入ることは出来たが、乗り物は動かず休園のようだった。大きな駐車場には車はなく、路上のコインパーキングに車は数台停まっているだけで、本当にシーズンオフなんだなと思った。

人が少ないビーチで遊ぶ人々。のんびりとした午後だった。

何も動かないアミューズメント・パークに遅い午後の光が当たっていた。克明に描かれた絵や模様は撮影意欲を掻き立てる。

アミューズメント・パークの東には海へ突き出した崖があり、そこから撮影。潮が満ちてきて、右手のサン・ロレンソ川に海水が流れ込む。

アミューズメント・パークの東を流れるサン・ロレンソ川に鉄橋が掛かり、人が歩いていた。かつては木材を運んだが、現在は観光用の電車が走る。

サン・ロレンソ川の東、サーファーが波に乗って海に付き出した崖に向かってくる。

海へ突き出した崖から少し東へ移動し、ツインレイク・ステートビーチで日没を待った。小型船の港（Santa Cruz Small Craft Harbor）に戻るヨットや、ウォルトン灯台周辺でサンセットを眺める人影に、平和で温暖な冬の夕暮れを感じた。

港に戻って来たヨットが堤防で写真を撮る人の前を通リ過ぎる時、ヨットの帆が夕陽に染まった。

クリスマスのイルミネーションに飾られた高さ12.6mの灯台を狙い、シャッターを押す寸前、ビーチで若者たちが焚き火を始めた。

陽が沈んだ後、ビーチを去ろうと少し東へ移動した時、灯台にクリスマスのイルミネーションが飾られていたことに気づいた。いつライトが点灯されたのか分からなかったが、この日撮った最後の光景が一番印象的だった。モントレー湾は夏がシーズンだが、冬は海岸線の混雑がなく気軽に動き回れるのがいいのと、宿泊代が夏よりだいぶ安いのも嬉しい。この夜、海岸から遠くない宿に予約なしで泊まれたのは冬の恩恵だった思う。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。