押本龍一－私の出会う光景－第180回：Carroll Avenue周辺

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

キャロル・アベニューに建ち並ぶビクトリア様式の家々に夕方の光が当たる。マイケル・ジャクソンのミュージック・ビデオ「スリラー」で、少女が逃げ込む空き家が建つこの通りには歴史があり、他の住宅地にはない独特の雰囲気があった。

ダウンタウンLAからほんの少し北、古いコミュニティのアンジェリーノ・ハイツにはビクトリア様式の建物が並んでいる。その中でもキャロル・アベニューは特殊な通りで、数多くの映画やテレビドラマが撮影された。通りの半分に当たる1300番台のブロックは国の歴史登録財に、キャロル通り沿いのいくつかの個人邸宅はロサンゼルス市の歴史文化遺産に指定されている。LAに住んで22年の私は、6月中旬の平日、キャロル・アベニューへはじめて行ってみた。ダウンタウンから少し北へ走り、イースト・エッジウェアロードでハリウッド・フリーウェイの上を越えるとそこからはアンジェリーノ・ハイツだ。私はキャロル・アベニューに車を停め、300mほどの通りを散策した。

1329 Carroll Avenueに建つ家はテレビドラマ「Charmed」で撮影された家。ドラマ上ではサンフランシスコだったようだ。

ビクトリア様式の家は見どころが多い。

アドレスの1329の最後の数字9が取れていて、後で書かれたのが撮影した写真を見て分かった。

白鳥だろうか？通称Charmed House前の歩道で見かけたが馬でも繋げそうだ。

キャロル・アベニューで一番見たかった家は、マイケル・ジャクソンのミュージック・ビデオ「スリラー」に使われたスリラーハウスで、エンディングで少女が逃げ込む空き家の前に立ったのは昼食時だった。スリラーハウスは現在も空き家のようで、時折観光客が訪れる以外に人影はなく、通りも静かで周囲に目立った動きはなかった。

Charmed Houseの2軒隣（1345 Carroll Ave）には、通称Thriller Houseが建っている。

玄関前のステップ。家は通りから少し高い位置に建っている。

玄関前からキャロル・アベニューを見下ろす。ダウンタウンに建つビルの頭が少し見える。

スリラーハウスの玄関横のディテール。

Charmed HouseとThriller House以外にも一見の価値がある家が何軒も建っている。

キャロル・アベニューを散策するカップル。

キャロル・アベニューを散策した後、ほんの少し東に位置し、通りが交差する場所にあるマリオン・パークに立ち寄った。周辺はキャロル・アベニューより少し低い土地になり、古いグロサリー・ストアーが建ち、そこにいると距離的にはすぐのキャロル・アベニューが別世界に思えてきた。そこから私は、アンジェリーノ・ハイツ西のエコー・パーク・レイクへ移動し、ハリウッド・フリーウェイの出入り口がすぐそばにあるパーク沿いに車を停めた。フリーウェイに出入りする車のクラクションの音や、パーク沿いで電線の修理作業をする作業員達の汚い言葉も混じる掛け声が聞こえてくる。静かなキャロル・アベニューから一転して都会の喧騒の中に来た気がしたが、いったんパーク内に入るとそこは正に都会のオアシスだった。

小さな緑地帯（Marion Park）に立つ高いパームツリーの影に入る。右手に見える古いグロサリー・ストアー（Bob's Market）は市の歴史文化遺産に指定されている。

エコー・パーク沿いで威勢のいい声を上げる作業員達。

本とバイブルの持ち主はトイレにでも行ったのだろうか。エコー・パーク内は日陰も多く、フリーウェイから離れるにつれ車の音も気にならなくなった。

エコー・パーク・レイクのハスの花は有名で、毎年夏にハス祭りが開かれる。

老若男女を問わないパークには様々な光景があった。

アガパンサスの花にレンズを向けると、木陰でメキシコ人のおじさんが携帯電話を見ていた。どこに行っても携帯電話を欠かせない人々が増えたと思う。

パークでは植物がしっかりと保護されている。

パークの北から湖を見る。ダウンタウンの高層ビルが見えなければどこかのリゾート地に見えると思う。

ブルーのハンモックの鮮やかさに惹かれて撮影。本の文字が克明に、ハンモックの質感がとてもしつかりと写っていた。

レイクの東岸から。フローリングボートを漕ぐ人が楽しそうだった。

アイスクリーム、冷たいドリンク、スナック等を売るカートを幾つか見かけた。

エコー・パークからアンジェリーノ・ハイツに戻り、ハリウッド・フリーウェイを越えて帰宅した。

ハリウッド・フリーウェイを渡る橋からダウンタウン方向を見る。すぐそばのバス停でバスから下りてきた女性が、橋をわたる前しばらくフリーウェイを眺めていた。

数日後、私は時間帯を変え、夕方キャロル・アベニューへ再訪問した。ビクトリア様式の家々に夕方の光が差し込み、犬と散歩をする女性の影が通りの歩道に長く伸びている。帰宅ラッシュのハリウッド・フリーウェイから下りて来た私には、キャロル・アベニューは静まり返った山奥のタウンに思えてきた。

ミュージック・ビデオ「スリラー」の空き家の怖さはないが、古めかしさは感じられるよう、夕方の光で見るスリラーハウスをモノクロの温黒調にした。

夕方でも空はまだまだ明るかった。周辺は静かで、ダウンタウンとフリーウェイが近いとは思えなかった。

キャロル・アベニューは、Charmed HouseとThriller Houseが、この通りに人を惹き付けている。しかし、この2軒の家を知らなくても、訪れてみるには十分価値がある通りだ。そして、もし私がアンジェリーノ・ハイツに住んだら、エコー・パークを犬の散歩コースにするだろう。ダウンタウンは目と鼻の先だが、落ち着きがあり静かだ。それに大きな公園も控えているから、住むには魅力的な地区だ。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。