第179回:原油で栄えたゴーストタウンMentryville
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第179回:原油で栄えたゴーストタウンMentryville

ダウンタウンLAから北へ55km、サンタクラリタの山間にあるゴーストタウン、メントリービルは強い陽射しが照りつけ、トレイル歩きには暑すぎた。1876年、チャールズ・アレキサンダー・メントリーが油脈を掘り当て誕生したオイルタウンは、現在はメントリービル・パークとなり当時の建物が保護されている。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 12-24mm F4 DG HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:モノクローム | シャッター速度:1/250 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:12mm

5月最後の日曜日、私はメントリービル・パークへ向かった。インターステーツハイウェイ5を下り、ピコ・キャニオン・ロードを西へ走って行く。ある地点から住宅がなくなり乾いた西部の風景になった。そして、その先へ進むと道が二股になっていて、右へ行く道はゲートが閉まっていた。左へ行く道から歩いて来た4人家族の母親に「ゴーストタウンに行きたいのですが」と伝えると、「メントリービルね、私達が今歩いて来た方にありますよ」と教えてくれた。道が二股に分かれた広場には5台の車が停まり、その家族も車を停めゴーストタウンまで歩いていた。「ここに車を停めるなら、貴重品は置かないように」と書かれたサインが立っていた。私は車でゴーストタウンの駐車場まで進んだ。駐車場で、小さな封筒に日付、名前、ライセンス・プレート・ナンバーを書き込み、駐車代5ドルを入れ、鉄パイプのような入れ物に封筒を落とし込んだ。領収書代わりになっている封筒の一部を車のダッシュボードに置き、ピコ・キャニオン・サービスロードを歩き出した。

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駐車場から出ると、原油で栄えたメントリービルの面影が残る光景があった。左手の建物は1885年に開校したフェルトン・スクール。1932年、生徒の数が5人以下になって閉校した。

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ピコ・キャニオン・サービスロードに錆びたパイプが続いている。油井から原油を流したパイプかどうか分からなかったが、存在感があった。

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この日は非常に暑く、ハイカーがどこからともなく漏れていた水を浴びていた。

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舗装されたピコ・キャニオン・サービスロードを西へ歩いて行くと、原油を汲み上げた木造のデリックが見えてきた。パンプ#4と呼ばれるデリックは、実際に原油を汲み上げていた少し西の油井から移動させて保管されている。地図上でそこはジョンソン・パークと示され、その先を歩いて行く前の休憩地点となり、私が到着した時も2人の女性ハイカーが休憩をしていた。この日はとても暑くてハエと虫が多く出てきたので、他のハイカーと同じように、私もその先には行かずに歩いて来た道を引き返した。

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100年以上も原油を汲み上げたデリックが山中に見えた。

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1990年までオイルを汲み上げた油井はここではなかった。

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錆びたデリックの蒸気エンジン部分。

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被写体の重量感が写し出された1枚だった。

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大きなピクニックテーブル。ここはメントリービルで働く人々の休憩地だったようだ。

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バーベキューグリルもある小屋から撮影。強い陽射しを避け、オイル・タウンの労働者もここに集まった。

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ジョンソン・パークの先のゲートが開いていたが、ここから引き返した。

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春先は緑だった斜面の草は暑さで枯れていた。

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何のタンクなのか分からなかったが、ピコ・キャニオンに見かけた古いタンクと新しいタンクは異質の存在感があり、過去と現在が同居している光景だった。

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油脈を掘り当てたチャールズ・アレキサンダー・メントリーの住居はビッグハウスと呼ばれパークに残っていると聞いていたが、その建物を見ていないと思い、歩き始めた場所に戻った。駐車場手前に建つ家がメントリーの住居であることは家の前のサインを見て気がついた。ビッグハウスと呼ばれているので、私はもっと大きな家をイメージしていたのだ。この日は非常に暑くハエも虫も多く飛んでいて、パークに長居はしなかった。後日知ったのだが、メントリーは虫刺されに悩んでいた。1900年に50歳代前半で亡くなったが、睡眠中、唇を虫に刺されたのが死因だったようだ。

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歩き始めたポイントに戻ると陽射しが変わり、フェルトン・スクールの後ろの枯れた小山の天辺が輝いていた。

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ある資料によるとゲストハウスとされていたが、映画撮影にも使用された小さな家がメントリー家の前に残されムービーハウスと呼ばれている。

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映画用にしてはしっかりとした家だと思ったが、ゲストハウスとして建てられたのなら納得がいく建物だ。

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白いフェンスは比較的新しい。

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メントリー家の庭先に建つ納屋。何の変哲もない建物だが、白いペンキで塗られたドアが目を引いた。

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1889年に建てられた13室ある家は当時ピコハウスと呼ばれ、その後、ビッグハウスと呼ばれるようになった。1994年、ノースリッジの地震でかなりのダメージを受けたが補修作業が行われた。

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家の中には入れないので、窓ガラス越しに家の内部を撮影した。

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大きなポーチからピコ・キャニオンを見る。

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この日は非常に暑く、木の陰になった駐車場のトイレ脇で一休みをした。

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パークの入口付近で見かけたパンプジャック。

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セントラル・バレーには、昼夜を通して動き続けるパンプジャクをよく見かけるが、カリフォルニアで最初のオイル・タウンはLAのダウンタウンから北へ約55kmの山中に存在した。チャールズ・アレキサンダー・メントリーは、1875年から原油を求めて3個の油井を掘っていたが、1876年9月26日、地下120mに本物の油脈を掘り当てた。4番目の油井は1年後170mの深さまで掘られ、蒸気エンジンで原油を汲み上げる高さ20mのデリックが建てられ、オイルタウンはメントリービルと呼ばれた。ブーム時の人口は資料によっても違うが、少なくても120人がホームタウンにしたと思われる。1920年代にブームは終わったが、原油の汲み上げは1990年まで続いた。メントリーはアルコールや騒ぎ事を嫌い、タウンにバーがなかったので、酒を飲んで騒ぎたい労働者は8km東のタウンまで歩かねばならなかった。オイルタウンでの生活は、鉱山で栄えたタウンより質素で静かだったようだ。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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