押本龍一－私の出会う光景－第172回：エルマーズ・ボトル・ツリー・ランチ（Elmer's Bottle Tree Ranch）

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

カリフォルニア州サンバーナディーノ郡の街バストーの南40km、周囲に見るべきものがほとんどない砂漠地帯のルート66沿いに空き瓶がキラキラと輝いている。空き瓶は鉄のパイプから伸びた鉄の枝に差し込まれ、この場所の名の通り正にボトル・ツリーだ。

快晴の冬の日、ロサンゼルスからフリーウェイ15号線を北上し、ラスベガスの帰り道、給油のために立ち寄ったことはあるものの馴染みのないビクタービルでフリーウェイを下り、殺風景なルート66を北上する。左手にピザ屋を含む数軒の店並を通過し、線路の下を潜ると大きなセメント工場が右手に現れる。乾燥した砂漠地帯に何とも味気のない風景が続くが、線路を左手に見ながらさらに北上すると、空き瓶がキラキラと光るエルマーズ・ボトル・ツリー・ランチが道路左に見えてくる。フェンスに囲まれた敷地内には空き瓶だけでなく、古い物が沢山置かれていた。

フェンスに囲まれた砂漠地帯の一角。ただのジャンクヤードではない。

フェンスに囲まれた敷地内には誰でも入ることができる。

強い陽光に空き瓶が輝いていた。

木の板に書かれた古き良き時代のレストランメニューは、正面から標準レンズでしっかりと撮影したかった。

バスタブのような小さなボートに空瓶が重ねられている。瓶よりボートのほうに存在感があった。

レンズに入り込む光に注意し、逆光で美しく見える空瓶を撮影。

空瓶が側にないタイプライター。

これはアート作品なのだろうか。

青空を背景に透明な瓶が美しく輝いていた。

牛の頭蓋骨だろうか。青い空にボトル・ツリー・ランチで一番目立っていたかもしれない。強い光で明暗の差があったが、頭蓋骨の質感がしっかりと写っていた。

時々走り抜ける貨物列車の大きな音が辺りに響き渡る以外、静かなボトル・ツリー・ランチには被写体が多すぎ、何に向かって撮ったらいいのか迷ってしまった。決して優しくない撮影状況もあったが、失敗を恐れず、私は目についた物から素直にレンズを向けシャッターを押し続けた。

ミニチュアの貨物列車が鉄のパイプの上に据え付けられていた。本物の貨物列車が来る音が聞こえたので、慌ててこの場所に戻り撮影した。

行ったことがある地名を見ると嬉しくなる。空瓶に囲まれた感じを出すのに長めのレンズで撮影してみた。

錆びたフライパンが、吊り下げてあった。キラキラと光る瓶とは全く違った存在感があった。

ボトル・ツリー・ランチはいつまで居ても切りがないように思えてきた。私は敷地内から一度出て車に戻り水を飲んで一息ついたが、まだ撮り足らないなと思い、ランチ内に戻り目についた物に再びレンズを向けた。

ボトル・ツリー・ランチの外に出て撮影。この時、訪問客はなく路肩にも車はなかった。

ランチ内に戻り、再び撮影開始。空瓶は逆光気味の青空バックが一番美しく見えた。

大口径マクロレンズを望遠レンズとして使い、目についた光景を素直に切り取る。

快晴だったのでアップでも引きでも絵になる光景だ。

完全な逆光。太陽に向かい鳥のオブジェの影に隠れて撮影。

雨風にさらされてきたサクスホーンが輝いていた。何でも絵になってしまう不思議な所だ。

コカ・コーラの空瓶だけが鉄のパイプの枝に刺さっている。

手前の空き瓶にフォーカスし、古いジープの上に乗った若い女性をぼかした。

普段見かけるサインもここでは存在感が増して見える。

この日、ボトル・ツリー・ランチに訪れた人の中で私が一番長居をしたと思う。2時間半の滞在だったが、大抵の訪問客は10分から長くても30分だった。カリフォルニアではガラクタ集めが好きな人は多いし、要らなくなった家具などは道端に置いておけばすぐに誰かが持って行く。荒野には大きなジャンクヤードをよく見かけ、少し手を加えれば使えそうな物もあり、実際にそれを商売にしている人もいる。しかし、この日訪れたエルマーズ・ボトル・ツリー・ランチは商売とは無縁だ。オーナーのエルマー・ロングさんは、子供の頃、父親と砂漠地帯へキャンプによく出かけた。父親は砂漠で色々な物を見つけ家に持ち帰り、その中に空き瓶があり父親の空き瓶のコレクションは長く続いた。エルマーさんはその空き瓶を中心にして、このランチに空き瓶を飾りはじめたようだ。この日エルマーさんには会えなかったが、キラキラと光る空き瓶を見ていると、彼の明るい人柄が想像できた。帰り道、ボトル・ツリー・ランチからルート66を南下してすぐ現れる数軒の店並に立ち寄った。

色鮮やかなボトル・ツリー・ランチから来ると、色調は温かめモノクロームに仕上げたくなる光景だった。

北には大きな街バストーが控えているから、イリノイ州シカゴとカリフォルニア州サンタモニカ間の全長3,755kmを結び、映画、音楽、小説等に多く登場したルート66がメジャーなハイウェイだった時代も、この辺りには見るものがなく殺風景だったかもしれない。今日この辺りのルート66を走る人々にとって、ボトル・ツリー・ランチは疲れを癒やしてくれる憩いの場所になっていると思う。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。