押本龍一－私の出会う光景－第173回：桜咲く河津川へ

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

2月中旬、静岡県賀茂郡河津町の河津川河口付近は、早咲きの桜「河津桜」が満開だった。平日にもかかわらず桜のトンネルは大変な人出で、誰もがカメラを桜に向けていた。

知人女性から河津桜が見頃だと連絡があり、行くなら週末はとても混むから平日がいいと教えてくれた。私は駅に貼られた桜祭りのポスターを思い出し、数日後河津へ向かった。伊豆急行線の河津駅に朝8時半に到着すると、駅のホームは下車した乗客で一杯になった。

伊豆急行線の伊豆熱川駅に着くと湯けむりが上がっていた。電車の窓から、新しい超広角ズームレンズをさっそく向けた。

河津駅に近づくと線路脇に桜が咲いていた。ここも電車の中から超広角ズームレンズで切り取った。

河津駅で下車した人々を追って線路脇を歩いて行くと河津川に突き当った。川沿いの桜は満開で、河口に向かって館橋を渡るとそこは桜のトンネルだった。訪問客から「満開だ、きれいだー」との声が聞こえてくる。2月10日〜3月10日まで「河津桜まつり」の開催中、夜6時から9時までライトアップされる区間だ。河津桜は6〜8分咲きが花に勢いがあり見頃だと情報サイトにあったが、私にはその差は分からず、満開でも丁度見頃だと思った。伊豆急行線の線路下を潜って北へ1500mほど歩き赤い豊泉橋を過ぎると、見物人の数が減り、桜を静かに眺める気分になれた。

桜のトンネルから川を見ると、河津川西岸に咲く桜と周辺の建物が映り込んでいた。

桜並木の下、僧がお経を唱えていた。ポートレート用レンズとして楽しみにしていた新レンズが活きた光景だった。桜の様子もある程度見せたかったので、ボカし過ぎないようにF値を決めた。

北へ歩いて行くと桜見物をする人が減り、一組の家族が桜並木沿いを歩く頬笑ましい光景があった。

桜越しに対岸の桜を撮る。

ウメの花も少し咲いていた。

桜の見物客がほとんどいなくなったところで、やっと桜と向き合えた。

河津川の河口付近、館橋と浜橋間の人が最も多かった所から3.5km北へ歩くと、桜並木を歩く遊歩道は終わり、通称かっぱ橋と呼ばれる小さな橋を渡り河津川の対岸へ出た。そして、近くの筏場（いかたば）停留所からバスに乗り、河津川の上流付近である河津七滝（かわづななだる）へ向かった。私が乗った11時台は2本のバスがあり、30分ほどの待ちでバスに乗れたが、時刻表では1時間に1本しかない時間帯も多かった。

桜の下に河童を見つけ、超広角ズームレンズでかなり寄って撮影した。

地元で収穫された果物が売られていた。超広角ズームレンズにしかない被写体との距離感を楽しんでシャッターを押す。

時刻表より15分遅れで来たバスに乗り、乗客の少ないバスはカーブの多い道を揺れながら上って行った。観光客は河津七滝の駐車場で下りるのが普通のようだったが、私は一つ手前で下りて歩いた。この日、一番大きな「大滝」は見ることが出来ず、「出会滝」からスタートし「釜滝」まで上り引き返した。どの滝も個性があったが、印象的だったのは、「初景滝」にあるブロンズ像「踊り子と私」の前で記念写真を撮る人が多かったことだ。観光局の滝紹介では、白い流れと「踊り子と私」のブロンズ像が自然の中で調和し、伊豆の踊り子の敘情をかもしだしている滝とあるが、ブロンズ像が置かれてから観光客にとって「初景滝」はバックグラウンドになったのかもしれない。

天城峠西の斜面から流れてきた荻ノ入川が出会滝となる。この周辺が河津川のはじまりとするようだ。

天城連山を水源とする本谷川が、荻ノ入川と合流する前の激しい流れ。

大きな石が祀られていた。背景に見えるのは初景滝。

ブロンズ像「踊り子と私」と初景滝。記念写真を撮る人がいない時間は限られていた。

初景滝の手前、竹の筒から流れ出る水にフォーカスした。

玄武岩が蛇のウロコのように見え、蛇滝と呼ばれているようだ。超広角ズームレンズは玄武岩のディテールをリアルに写し出した。

高さ22mの釜滝は、「滝らしい滝」と感じた。

激しく流れ落ちる釜滝に迫リ、モノクロームにした。

河津七滝の駐車場で帰りのバス時刻を確認した私は、上って来た時に下りた停留所付近まで戻り、周辺の景色を眺めて時間を潰した。河津駅行きのバスは大きなカーブを下り、遠足気分で河津川の河口付近へ戻った。

資料では、全長1064 m、高低差45 m、直径80 mの二重ループ橋とある河津七滝ループ橋。私が乗ったバスはここを通らなかったが、車高の高いバスの窓からの景色はかなり迫力はありそうだ。

この辺りの河津川は渓谷を流れる感じで、斜面の桜も満開に見えた。

バスの中から道路沿いに咲く桜が見えた。超広角ズームレンズだからこそ撮る気になった光景だ。

朝歩いた河津川の河口付近へ戻ると、川の東岸になる桜並木は午後の遅い光が西から差し、元気な朝の光とは違った雰囲気だった。そして、朝と同じように大勢の人が桜の並木道にいて、感動の声が上がっていた。

桜と伊豆急行線。逆光気味が桜の花をより美しく見せていた。

光を失いはじめた河口付近の桜並木と館橋。浜橋から撮影。

河津川の河口付近の館橋と浜橋間では、誰もが写真を撮らずにはいられない。女性のヘアーラインが夕方の光で輝き、写真を撮る女性にフォーカスした。ポートレート用レンズとして期待していた85mmは様々な光景に威力を発揮した。

桜並木が美しい河口付近からスタートし、川の始まりである河津七滝付近を散策した後、再び河口付近に戻り、日没の少し前に河津駅構内に入った。河津駅は桜見物帰りの人々でごったがえしていた。平日でもこの混みようだから週末はさぞかし多くの人出があるに違いない。急行には乗らず普通電車に乗った私は、この日が平日で良かったと思った。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。