東から昇った太陽がフロントガラスに眩しく差し込む11月下旬の朝、私はハイウェイ10を東へ走り、ロサンゼルスのダウンタウンから100マイル(160km)ほど走った辺りの休憩所で一休みした。
ピクニックテーブルではメキシコ系の家族が、持参したランチボックスをテーブルいっぱいにひろげている。トラック専用のパーキングには赤いトラックが朝の強い太陽光を受け、その存在感を示している。後方のハイウェイ10にはカラフルで大きなトラックが頻繁に走っている。
その向うの北の山にはこの辺りを通過する人が避けては通れない光景、ウインドタービンの群れが見えている。
殺伐としている休憩場のパーキングだったが、背景のハイウェイに赤と青のトラックが左右に交差するように通り抜け、色鮮やかでこの辺りのトラックの交通量の多さも物語る写真になった。
使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:A-絞り優先オート | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm
休憩所を出てからハイウェイ10を東に少し行き、すぐにハイウェイ62(トゥエンティナイン・パームス・ハイウェイ)に乗り換える。この周辺だけで3218機(2008年1月時点)あると言われている白いウインドタービンがどの方向にも見えている。
ウインドタービンが設置されているエリアをウインドファームと呼び、サン・ゴルゴニオ・パス・ウインドファームと呼ばれるこの辺りを通過する度に、一度は風力タービンの側まで近づきたいと思っていた私は、ハイウェイ62から横道に少し入り、夏場は暑く歩く気がしない荒野の中を歩き出していた。
有刺鉄線の柵に囲まれた風力タービンに近づくと、それは巨大な装置だった。ほとんど無風のこの日、ゆっくりと回転するもの、まったく動かないもの、そのどれもが白く眩しく、乾いた砂漠地帯に強烈な存在感を示していた。
巨大な物体をいくつかのアングルから撮るためには、柔らかい砂地の上を広範囲に動く必要があった。
薄いジャケットを羽織る程度の気持ちのいい気温だったが、ウォーターボトルも持たずに車から勢いよく砂漠の中に飛び出した私は、強い日差しの下、すぐに疲れてしまった。
思考能力の低下も感じ撮影半場でその場から車に戻り、乾いた喉に水を一気に流し込む。一息ついた私に小さいもので25メートル、大きいもので50メートル近い高さがあるウインドタービンへの撮影意欲はもう残ってはいなかった。
しかし、ハイウェイから逸れ荒野に足を踏み入れ、人間が造った巨大な物体にレンズを向けて立ち振る回った満足感は、汗ばんだ背中に感じていた。
フィッシュアイレンズで下からウインドタービンを見上げるように撮った。
超広角の画角は、荒涼とした荒野の大きさと、そこにそびえたつウインドタービンの群にレンズを向ける小さな私の存在も同時に捉えた。
使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:10 mm
強い太陽光下では眩しい白い物体にしか見えないウインドタービンだったが、パネルのつなぎ目と厳しい自然環境下でできた汚れまでも写し出していた。
使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 30mm F1.4 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:30 mm
ウインドタービンに魅せられ踊らされた後、この先急な上り坂になるハイウェイ62を北に走った。
その道は上りきると右にカーブして東に続いていた。ユッカ・ヴァレーを通り過ぎると、廃墟になった家、放置された古い車を時折見かける。荒涼とした風景に囲まれた道をゆっくり走り、商店の壁等に描かれた壁画アートが目に付く以外、印象に残りそうもない小さな町トゥエンティナイン・パームスに到着する。
気温も上がりジャケットも要らなくなっていた砂漠の町のファーストフード店でハンバーガーを頬張り、今夜、必需品となる薪をガス・ステーションで買う。砂漠の夜の冷え込みを知っていたので、無造作にビニール紐で結わかれた数本の薪に心強い味方を得たような気がした。
放置された昔のキャンピングカーの塗装の剥がれた表面がリアルに写しだされ、シャッターを切ったその瞬間の空気も感じるようだ。
使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F9.0 | 焦点距離:24.2 mm
商店の壁にこの辺りの昔の生活を描いた壁画が描かれていた。
砂地のパーキング場、道の向こうに見える赤いモーテルのサイン、この町を物語っている。
使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F10.0 | 焦点距離:24.2 mm
トゥエンティナイン・パームスの町を出てハイウェイ62を少しだけ東へ走り、ユタ・トレイルという道を南に入ると、砂漠らしい名前の白い教会が左手にぽつんと建っている。教会の看板の塗装がだいぶ剥げている。その激しい剥がれ具合に、ここは砂漠だと確信する。
塗装の剥がれをシャープな写真で表現したかった。
後で見ると塗装の剥がれも実に味わいのある物だと思った。
使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F10.0 | 焦点距離:24.2 mm
1本道のユタ・トレイルをさらに南に走ると1994年に国立公園に制定された面積3,196平方キロメートルのジョシュア・ツリー国立公園のノースエントランスに誘導されるように着く。
オートバイに乗る二人が国立公園から出てきたところを公園のエントランスを背にし、どこまでも長く伸びた1本道を望遠ズームレンズで撮った。
使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA APO 50-150mm F2.8 ⅡEX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/320秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:109 mm
いかにも自然が好きそうな40代の白人男性のパークレンジャーが、出迎えてくれた。そこで7日間有効のパス、15ドルを払い公園に入り、ジャンボ・ロックスと呼ばれる公園内で一番大きなキャンプ場に直行し、テントを張った。キャンプ目的でこの公園を訪れたこの年の3月、どこのキャンプ場もいっぱいで、トイレもない公園外の砂漠地帯にテントを張った経験があったが、シーズンオフの日曜日、昨日からのキャンパーはほとんど立ち去り、新しいキャンパーもあまり見かけなかった。
岩に囲まれた砂漠に小さなテントを張り終えた後、カメラバックを肩からかけ、地球の表面とは思えない巨大な岩の上に立った。
そこには身軽に動き回る子供やロッククライミングの練習をする人の姿があった。岩の上を歩いていると、大きさがひとつひとつ違う岩は、色も微妙に違うことに気がつく。しばらく岩と遊んだ後、テントに戻り今晩の寝心地を確認するためテントの中でごろりとした。砂地なので今晩の寝心地はよさそうだと思った。
大きな岩にロッククライミングのロープが垂れ下がっていた。
岩肌はその肌触りも感じられるほど鮮明に表現された。
使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F9.0 | 焦点距離:24.2 mm
岩の上に登ってみるとロッククライミングの練習をしている親子が見えた。
手前のぼけた植物は、大きな空を背景にシルエットになった小さく写る親子の存在感を強めた。
使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA APO 50-150mm F2.8 ⅡEX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/400秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:77 mm
フレンドリーに話しかけてきた男の子の赤いTシャツは、自然の中に違和感なく写っていた。
使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm
フィシュアイレンズでテント内と景色を撮った。
長く伸びたテントの影に砂漠の午後を感じる。
使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/60秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:10 mm
キャンプ場を出て公園を走る道を西にゆっくりとドライブすると、山火事のためだろう、焦げて倒れているジョシュア・ツリーをたくさん見かける。気がつくと砂漠の枯れた植物はゴールデン・カラーに染まり、冬を感じ始めた砂漠は、穏やかな遅い午後になっていた。 (後編へつづく)
半分焼け焦げている1本のジョシュア・ツリー。
横からの太陽の光でツリーは半分シルエットになり、明るい昼の荒野に存在感を示していた。
使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm
枯れて色がないツリーが切なく眩しかった。
適度にぼけた背景は、その存在感を強めた。
使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm
フォーカスした枯れた植物が、太陽の光で暖かい色に染まった背景の植物の中に美しく浮いて見えた。
使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA APO 50-150mm F2.8 ⅡEX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/200秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:70 mm
※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。


押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。
84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、
広告写真スタジオで働き始める。
91年フォトグラファーとして独立。
95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。
エンターテインメント関係の撮影中心。
近年はライフワークである旅写真に力を入れている。
趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/