押本龍一 ― 私の出会う光景 ― 第13回:カチューマ湖(Cachuma Lake)

ロサンゼルスからハイウェイ101を北西に走り、美しい海岸線の街サンタバーバラに着くとすぐに、街の中心から少し離れた辺りで州道154に乗り継ぐ。ロス・パドレス国立森林公園(Los Padres National Forest)に入ると、よく整備された道は急な上り坂になった。左手の西側には太平洋も遠くに望め、車をしばらく停めて眺めたくなる景色が広がっている。6月中旬の土曜日、路肩に車を停めることが禁止されている道には、対向車も多く、そのうちの半分の車にはサーフボードが積まれていた。景色のいい道だったが、私はどこにも停まらず州道154を走り上った。ハイウェイ101から15マイルほど走った辺りに、Vista Point(展望点)と書かれたサインが右手に見え、迷わずそこに車を寄せた。黄色い花が競うように咲く山の斜面を州道154沿いに見ながら、松の香りが漂う小道を少し歩き、サンタ・イネス盆地(Santa Ynes Valley )が見渡せるポイントに立つ。Vista Pointから、州道154をさらに数マイル北西に進むと、カチューマ湖保養地(Cachuma Lake Recreation Area)の入り口に到着する。私は保養地に入らず、ダムが見えるVista Pointまで走り、車を停めてそこから湖に向かって短いトレールを歩いた。誰もいない静かな湖岸に出ると、空より青い湖が、小波を立てていた。

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雲ひとつない快晴のサンタ・イネス盆地。
フォーカスを無限遠にして撮影。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

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絵の具で塗ったような黄色い花に覆われたサンタ・
イネス山脈の山の斜面。
望遠効果で、斜面を凝縮して切り取る。

使用機材:SIGMA SD14 | APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:154 mm

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1953年につくられたBradbury Dam。
ダムの無数の石とアクセスできないアスファルトの
道が、陽の光の反射する光景が目に焼きつく。
湖の青をかすかに残す程度まで彩度を落とし
コントラストを上げ、その光景を強調した。

使用機材:SIGMA SD14 | APO 120-400mm F4.5-5.6 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:131 mm

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静かな湖岸に出ると、枯れた花を見かけた。
どんな色の花を咲かせていたのか分からない
植物は、この風景によく溶け込んでいた。

使用機材:SIGMA SD14 | 30mm F1.4 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/2500秒 | 絞り値:F2.0 | 焦点距離:30 mm

カチューマ湖は、北のサン・ラファエル山脈と南のサンタ・イネス山脈に挟まれたサンタ・イネス・バレーを東から西へ、そして、太平洋まで流れ込んでいるサンタ・イネス川にダム(Bradbury Dam)をつくり、川の水をせき止めた貯水湖(Reservoir)である。湖の大きさは3,100 acres (1,300 ha)で、その水は、サンタ・イネス山脈の下を通したトンネルを流れて、サンタバーバラ市をはじめとしたサンタバーバラ・カウンティーのいくつかの市に提供されている。湖の水は、飲料水としても使用され、泳ぐことなど体を水の中に浸すことは禁じられ、湖には自由なアクセスがないように思えた。私は、通り越したカチューマ湖保養地に戻り、一日の施設使用料8ドルを払い、湖畔を楽しむことにした。湖の南岸から北に伸びた小さな半島一体を中心とした保養地には、キャンプ場、プール、ボートレンタル、グロサリー・ストアーの横にはガソリン・ポンプまであり、ちょっとした村に着いた気がする。この日は土曜日ということもあり、既に夏休み気分の家族が、様々のかたちのテントを張りくつろいでいる。ボート・デッキは、出て行くボートと戻ってくるボートで、ここで働く大学生らしき若者は忙しい。カリフォルニア州立サンタバーバラ大学のボート部がこの湖で練習をする、とある資料にあったが、彼らもボート部員かもしれない。

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湖畔のキャンプ場は、平和そのものだった。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

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木の上に寝そべり、日に当たる若者。
太陽光が眩しく反射する湖の水面にレンズを向け
て撮影。
湖からの風が通り抜ける場所でレンズを構えると、
風で体が揺れ、手ブレ補正が心強く感じる。

使用機材:SIGMA SD14 | APO 120-400mm F4.5-5.6 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:251 mm

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木に登り、楽しそうに会話するカップル。
X3 Fill Lightを下げ、彩度を落とし、好みの色に
調整し、白い帽子の女性の存在を強調してみた。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:24.2 mm

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ボート・デッキには、派手な色はなかったが、
木のポールの下の部分に塗られた赤いペイントと、
上の部分の白いペイントが目を惹いた。
彩度を少し落とすと、その赤と白が自然に強調された。
のんびりとした湖の雰囲気を表現するため、大口径標準レンズのF値を開放近くに設定し、周辺を大胆にぼかした。

使用機材:SIGMA SD14 | 30mm F1.4 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/4000秒 | 絞り値:F2.2 | 焦点距離:30 mm

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救命用のブイだろうか、その年季を感じる。
70mmマクロレンズで、ブイとボート・デッキを
切り取る。

使用機材:SIGMA SD14 | MACRO 70mm F2.8 EX DG | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:70 mm

湖の小さな半島を歩いてひと回りした私は、半島の北の先から歩くと30分近くはかかりそうな距離に位置する東側のモホーク(Mohawk)と呼ばれるキャンプサイトに車で移動した。グロサリー・ストアーがある中心から離れているが、その分人も少ない。私ならここにテントを張り、湖畔の短いトレールや、フィッシュング・ピアで、のんびりとした時間を過ごすだろう。
そこから、再び保養地の中心に戻り、グロサリー・ストアーでコーヒーを買うと、半島の西側に車で移動した。西日を浴びたフィッシング・ピアと湖の岸辺には、釣り糸を垂らす14,5人ほどの姿を見かけた。その年齢層は幅広く、私は、釣りというと男性のイメージがするのだが、若い女性も数人見かけた。

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湖畔の短いトレールを歩く。
木の枝の間から見える湖とフィッシング・ピア。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:24.2 mm

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フィッシング・ピアに出てみると、
水面に浮いていて、ボートのように揺れていた。
何かわからなかった錆びた物体と手すりの錆を、
彩度を落とし色合いを調整して、その存在感を
強めてみた。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:16.6 mm

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浮いているフィッシング・ピアが流されないように
ワイヤーで留めてあった。
その存在は、見るアングルによって濃い緑色に
写る水面に力強く存在していた。
開放近くで撮影し神秘的な水の反射と、彩度を
落とし緑色を加えた色調整で、この光景を
表現した。

使用機材:SIGMA SD14 | APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:200 mm

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釣りを楽しんだ少年が、キャンプサイトに戻ってきた。
湖の水面が眩しい背景に、手前の少年の赤い帽子が強く映えていた。
コントラストを上げ、少年二人をシルエットにした。

使用機材:SIGMA SD14 | APO 120-400mm F4.5-5.6 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:232 mm

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西側にあるフィッシング・ピアは固定され動かなかった。
彩度を落としほとんどセピア色にすると、ピアの木の質感がリアルに表現され、西日を浴びた木の匂いも感じる。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

日が長くなった6月、まだどこかに移動する時間が残されていたので、私は保養地から出ることにした。「湖の北側には行けないけど、州道154を南に7マイルほど走り、左手に見えるパラダイス・ロードを東に行くと、サンタ・イネス川沿いはきれいで、川では泳ぐこともできるよ」と、保養地の入り口で働く若者が教えてくれた。私は彼から聞いた方向に車を走らせた。
パラダイス・ロードに入るとすぐに、走る鹿を道沿いに見かけた。夕方の柔らかい陽の光で、木々が美しく輝いているが、光が届かない森の中を走る道は既に暗くなり始めていた。道沿いにはキャンプ場があり、夕食の支度をする大家族の姿を見かけた後、その先の道は、水浸しになっていた。サンタ・イネス川を渡るその道には、橋はなく、川は道の上を流れている感じだった。対向車線から、車が水の中に入り川を渡ってきたので、私も川を渡り先へ走った。道は二つに分かれていたが、川沿いを走る道を進んだ。
その後も2箇所、川を道は横断したが、水の量は少なく何の問題もなかった。レッド・ロックというトレールの入り口で、道はゲートで閉ざされ、その先には進めなかった。途中から道の名前が、ジブラルタル・ロードとなっていた。そして、その先にはジブラルタル貯水湖(Gibraltar Reservoir)、さらにその東にはジェームソン湖(Jameson Lake)の2つの貯水湖が、サンタ・イネス川に存在することを地図は示していた。レッド・ロック・トレイル入り口から、走って来た道を西に引き返す。陽の光が届かなくなった道は、もうすれ違う車は1台もなかった。そして、サンタ・イネス山脈の向こうの西の空は、赤く染まり、穏やかな日没を迎えた。

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道に飛び出してこないように柵があった森に、カリフォルニア・ムール・ディアを見た。
車を停め、助手席に置いてあったカメラを持ち、車の中からすばやく撮影。

使用機材:SIGMA SD14 | APO 120-400mm F4.5-5.6 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:171 mm

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一度は渡るのをあきらめかけた道。
黄色いポールがなければ道から逸れて、川にはまってしまいそうだった。

使用機材:SIGMA SD14 | 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:50 mm

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草が生える川に、夕方の光が当たる。
70mmマクロレンズは、この光景にぴったりの焦点距離だった。

使用機材:SIGMA SD14 | MACRO 70mm F2.8 EX DG | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F4.5 | 焦点距離:70 mm

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小さな渓谷に夕陽が差し込む。
美しく輝く緑多き渓谷を、深みのある描写力で記録。

使用機材:SIGMA SD14 | 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:35 mm

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渓谷から山と空を見上げる。
ロス・パドレス国立森林公園らしい穏やかで
やさしい森。

使用機材:SIGMA SD14 | APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:110 mm

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まるくなり始めた月。
ホワイトバランスをモノクロームに変換し、
シアン(cyan)を加えて、青み掛かった空を
表現した。

使用機材:SIGMA SD14 | APO 120-400mm F4.5-5.6 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:251 mm

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サンタ・イネス山脈に沈む太陽に向けてシャッターを切る。

使用機材:SIGMA SD14 | APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F4.5 | 焦点距離:178 mm

なだらかな山の間を流れるサンタ・イネス川にダムをつくり、水をせき止め生まれたカチューマ湖。湖の名前の由来であり、この辺り一帯に暮らしていた先住民族カチューマ・インデアンは、西暦400年から800年の間にポリネシアまで航海したという説もあり、独自のカヌーで水上の移動を得意としていた。彼らの目に、人工湖であるカチューマ・レイクは、どのように写るのだろうか。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

押本 龍一
プロフィール

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。
84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、 広告写真スタジオで働き始める。
91年フォトグラファーとして独立。
95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。
エンターテインメント関係の撮影中心。
近年はライフワークである旅写真に力を入れている。
趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

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