押本龍一 ― 私の出会う光景 ― 第18回:シダー・ブレイクス・ナショナル・モニュメントの夏 (Cedar Breaks National Monument)

ネバダ州ラスベガスから国道15号を1時間あまり北上すると、国道はアリゾナ州北東部の一部を走りユタ州に入る。
ユタに入る直前、それまで快晴の空とは打って変わり、黒い雲が空を多い、雷を伴う雨が降り出した。雨はすぐに止み、西の雲の切れ目から日没寸前の陽の光が、北の空を覆う黒い雲を照らし出した。日没後、ユタ州に入いると辺りはすっかり暗くなった。娯楽の街ラスベガスから北東に約170mi(272km)、2時間半走り、シダー・シティーのホテルに着いたのは夜9時近くだった。海岸近くに住む私は、標高10000ft(3,050m)のシダー・ブレイクスにテントを張り歩き回る前日の夜、体を慣らすため標高5,846ft(1,782m)の街シダー・シティーに宿泊した。

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アリゾナ州とユタ州の州境。北の空を覆う雨雲にこの日最後の陽の光が当たり、雨雲は炎のような色に染まった。フィッシュアイレンズで、大空と大地のドラマを大きく写しこむ。

使用機材:SIGMA SD15 + 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/80秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:10 mm

シダー・シティーからシダー・ブレイクス・ナショナル・モニュメントへ繋がる州道14号(シダー・キャニオン)は、迷うことなく見つかった。ホテルのフロントデスクの女性が、キャニオン・ロードと呼んでいた道に入るとすぐに、「8パーセントの勾配、この先15mi(24km)」と、書かれたた黄色い看板が目に入る。坂道をどんどん上って行くと、気温は下がり始め小雨交じりの曇り空になった。前日、雷を伴う雨と強風だったシダー・ブレイクス、この日の天気予報は、降水確率40パーセント、突風50mi(80km)の注意報が出ていた。街を出て約18mi(29km)を走り上がり州道14号から州道148号に入ると、雲は切れ青空が見え出す。風は強く雲は速く流れ、一瞬たりとも同じ形に留まってはいない。街から約22mi(35km)を上りシダー・ブレイクスに到着すると、1年の内3ヶ月(6月中旬から9月中旬)だけオープンしているキャンプ場(Point Supreme Campground)に直行した。私は3箇所のサイトにテントを張り、風の影響が1番少ないサイト選んだ。10年前の夏にテントを張った際は、ほぼ無風で日中は半袖1枚で過ごせたが、この日は冷たく強い風がザーザーと音をたて、木々の間を吹き抜けていた。

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上り始めのキャニオン・ロードに、雲の合間から漏れた陽の光が差し込み、爽やかな空気の中、二人の女性が力強く走っていた。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:オート | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:93 mm

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標高3000mの地に羊が放牧されていた。
石の上にいた羊は私に気が付き、しばらく私を見て動かなかった。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:178 mm

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花もなくなる寒い時期が迫る8月下旬のメドゥ。
超広角ズームレンズで大きく写し込む。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm

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サイト数28の小さなキャンプ場。
夏でも夜は必需品のファイアーウッドは使い放題。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:110 mm

テントを張り終えた私は、キャンプ場からわずか0.5mi(800km)の距離にあるビジターセンターまで車で移動した。
ビジターセンター横のPoint Supremeから見下ろすAmphitheater (円形劇場)と呼ばれる峡谷に、雲の合間から陽の光がドラマチックに差し込む。雲の流れが速く、深い2000ft(610m)岩壁は、忙しくその表情を変えていた。
円形劇場は、コロラド高原(Colorado Plateau)の西の終わり近くに位置し、ザイオン国立公園の地域を形成する同じ台地(Markagunt Plateau)の西側を覆っている。何百万年もの堆積、隆起、浸食により、巨大な峡谷は切り開かれた。
1年の内250日は氷点下になる天候は、シダー・ブレイクスの侵食をさらに深める。ナショナルパークサービスのサイトに、「標高10,000フィート以上のコロラド台地の上で休憩をすると、息をのむような展望が待ちうけている」とある通り、その眺めは壮大でしばし言葉を失う。

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標高10000ftのコロラド台地にしっかりと建つ小さなビジターセンター。 後ろは、グランドキャニオンに引けを取らない巨大な岩壁。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm

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Point Supreme10350ft( 3155m)から眺めるCedar Breaks Amphitheater。向こう側の岩壁まで3mi(4.8km)。
雲の動きは、早送りをして観る動画のように活発だった。

使用機材:SIGMA SD15 + 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:23 mm

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かつてこの地に住んでいたサザン・パイユート族(Piute)は、“u-map-wich,”(岩が常に転がり落ちる場所)と呼んだ。
上から覗き込むように眺めていると、フードゥー (Hoodoo)と呼ばれる細長い岩に向かって転がり落ちそうに感じる。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:76 mm

シダー・ブレイクスには二つのトレールがあり、私はビジターセンターのパーキング場からスタートし巨大な岩壁の南の淵を歩くトレール(Ramparts Trail)を歩いた。怖さと崖下を覗き込みたくなる好奇心をそそる標高10000ftのトレールは、数十メートル歩くと息が切れ、続けて歩くことは困難だった。トレールはいったん崖の淵から少し離れ小さな林の中を通り抜け、白い土(石灰岩)の上に出た。そこにはこの地球上において最も長く生きる生物で、5000年近く生存できると考えられている木(Bristlecone Pine)が、白い土の上、四方八方に根を伸ばし力強く存在していた。高く成長する木ではないが、その姿は立派で堂々としていて、神聖な空気に包まれていた。Spectra Pointで引き返した往復2mi(3.2km)の短い崖淵を歩くトレールは、3倍4倍の長さに感じた。キャンプ場に戻り、すばやく火をおこし簡単な夕食を済ませた後、サンセット・ビューと呼ばれるポイントに出かけた。そこからはその名の通り、崖の淵から沈みゆく太陽とシダー・ブレイクスが見渡せた。
しかし、東から北の空には黒い雲がかかっていて、いつ雨が降るか分からなかった。冷たい風が崖の下から吹き上げてきて、そこには長いはしなかった。
キャンプ場に戻ると風は強さを増し、空気は冷え込んできた。少し頭痛がしていた私は、楽しみにしていたワインボトルのふたを開けることなく寝袋に潜り込んだ。雷が多く発生するシダー・ブレイクス、その夜は雨も降らず雷も落ちなかったが、風は強く木々の間を吹きぬける風の音は、強い雨の降る音に聞こえ、風でテントの一部は破損した。治まる気配がない頭痛は、標高も考えずペースを落とさず動き回った結果の軽い高山病だった。私は、思い切って山を降り、前日宿泊したホテルに戻ったのは夜の11時だった。

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巨大な崖を眺める若者たちがシルエットになり、西の空に溶け込んでいた。
大きな雲は、その形を常に変えながら流れていた。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:81 mm

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息を切らし立ち止まった私の目の前に、崖の淵を動き回る小動物が現れた。キバラマーモット(yellow-bellied marmot)と思われる。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:200 mm

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Amphitheaterの南側の淵を歩くトレールの折り返し点(Spectra Point)で、景色を眺める人々が遠くに見える。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:70 mm

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トレールには、崖淵からは離れた木々の間を通り抜ける林があった。

使用機材:SIGMA SD15 + 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:18 mm

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トレールに柵はない。超広角レンズに写しこまれた光景は、滑り落ちそうな恐怖を感じるほど、リアルでシャープに記録されていた。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm

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シダー・ブレイクス・ナショナルモニュメントで、最も古い木(Bristlecone Pine)。 樹齢1600年の木を、言葉では表現できないクリアーな空気感と共に切り取る。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm

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夕陽が直撃し、峡谷は暗い陰の世界に見えたが、デジタルカメラは、夕陽に染まった峡谷をしっかりと捉えていた。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/40秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:24.2 mm

翌朝、頭痛も治まりキャンプ場まで戻ると、昨夜宿泊していた5,6個のグループのほとんどは既に去った後だった。
冷たい風が吹いていたが、朝日が気持ちのいい快晴のキャンプ場は、もう少し滞在したい気持にさせた。
私は、残していた荷物を車に積み、シダー・ブレイクスから北へ少し走り、さらに標高の高いブライアン・ヘッド・ピーク11,307ft(3,450m)に向かった。ダート道を上がり車から外に出ると、Markagunt Plateau(Markagunt は、パイユート族の言葉で、木の高地の意)と呼ばれる台地の西の淵は、私が陸上で体験した最も強い風が吹いていた。

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爽やかな朝、キャンプ場に咲く薄い紫色のfleabane(ノミヨケ草)。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:24.2 mm

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朝日に輝く標高10000ftの草原に、羊の群れが鮮明に見えていた。風が強く、レンズをしっかりホールドしシャッターを切る。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:332 mm

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ブライアン・ヘッドへの入り口。
雲ひとつない青い空の下、濁りのないクリアーな空気感を切り取る。

使用機材:SIGMA SD15 + 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:23 mm

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ブライアン・ヘッド・ピーク。
1935年に建てられた小屋までは短い距離だったが、強く冷たい風に吹き飛ばされそうになる。
DP2sをしっかりと持ち、速いシャッタースピードで撮影した。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:24.2 mm

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ブライアン・ヘッド・ピークから下りてくると、イーグルと思われる大きな鳥が空を横切るのが車の窓から見えた。高倍率超望遠ズームレンズをすばやく掴み、その早い飛びを捉えた。
彩度を落とすし、色がない鳥のかたちを強調してみた。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:244 mm

シダー・ブレイクス・ナショナル・モニュメントは、フランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領によって、1933年8月22日にナショナルモニュメントに制定された。 ナショナル・パークは米国連邦議会、ナショナルモニュメントは大統領が制定する。 夏の観光シーズンは、ナショナル・パークが大人気だが、比較的人の少ないナショナルモニュメントを訪れるのも、またいいものである。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

押本 龍一
プロフィール

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。
84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、 広告写真スタジオで働き始める。
91年フォトグラファーとして独立。
95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。
エンターテインメント関係の撮影中心。
近年はライフワークである旅写真に力を入れている。
趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

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