キングス・キャニオン国立公園内のグラント・グローブ・ビレッジの側にある標高6500 ft(1980m)のキャンプ場の夜は、気温もあまり落ちず、小さなテント内は快適だった。一度も目を覚ますこともなく、ぐっすりと眠り朝5時過ぎにテントから出ると、大きな木々に囲まれたキャンプ場はまだ薄暗かった。トイレの冷たい水で顔を洗い、コーヒーを沸かしパンをかじる。
昨夜、焚き火にあたりながらビールを飲んでいた私の目の前で、開けたままの後ろのドアから車の中に堂々と入ろうとした大きな猫、ボブ・キャットは、椅子から立ち上がる私を見ると、仕方なさそうにゆっくりと立ち去った。森に住む動物にとって、人間は迷惑な存在なのか、それとも時には餌にありつけることもある悪くない訪問者なのであろうか、そんなことを考えながら、昨夜の焚き火の跡に水をかけると白い煙が少し上がった。テントをたたみ終わる頃、鳥の鳴き声が激しくなり、森はどんどん明るくなった。6時半ごろキャンプ場を出て、州道180(キングス・キャニオン景観道路)を南へ走りだし、キングス・キャニオン国立公園からセコイア国立公園(Sequoia National Park)を走り抜ける道(Generals Highway)に入る。
まだすれ違う車がほとんどない森をしばらく走り、ホース・コーラル・メドウ(Horse Corral Meadow)まで繋がる道に入ってみる。この道は数年前この地を訪れた時に走ったが、雪が積もっていて途中で引き返したことがあり、この朝、少し奥まで走ってみたくなる。朝日が差し込む森は美しく、何度か車を路肩に停めて写真を撮っていると、馬を運ぶワゴン車を引いたトラックが数台通り過ぎ、この道は、馬好きな人のものだと感じだ。
使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA APO MACRO 150mm F2.8mm EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:150 mm
使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA APO MACRO 150mm F2.8mm EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:150 mm
使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm
馬と共にキャンプができるHorse campと大きな草地Big Meadowsを通り抜け、クリークを過ぎると道は狭くなった。
対向車とすれ違うことができそうもない狭い道には、ところどころに対向車をよける場がつくられていた。そんな山道を少し走ると、森の中にたくさんの馬が見えるHorse Corral Park Stationに行き当たる。
小学生の男の子と女の子を連れた家族が、馬にまたがり、山の中へホース・ライドに出かけようとしている。元気な馬を眺めている私に、「馬に乗る準備は?」と、カウボーイ・ハットをかぶった人のよさそうな50代の男が声をかけてくる。「今日はやめときますが、また今度お願いします」と返す私に、「人生は短いから、今乗らないと」と、丸顔の彼は笑顔で言った。
素直に馬に乗るべきだったかもしれない。少し後悔しながら、この先には進まず、ガソリンの少なくなっていた車で、来た道を引き返えす。森は昼の光に包まれ気温も上がり、ジャケットを脱ぐ。
使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:118 mm
使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:40 mm
Generals Highwayに戻り、南へ走りストーニー・クリーク・ビレッジ(Stony Creek Village)で給油をして、そこから少し走るとセコイア国立公園内に入った。公園に入るとすぐにLost Groveと呼ばれる巨木の森が、迎えてくれた。
使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/100秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:24 mm
Lost Groveから、公園内で一番大きなビジターセンター、ロッジポール・ビジターセンター(Lodgepole Visitor Center)で、ランチブレイクを取った後、ロッジポール・ロードを進み、大きな駐車場に車を停め、川沿いから始まるトレールを歩き出す。
森を抜けると、石ころだらけの山の向こうに白い滝が見える。気温はさほど高くなかったが、強い夏の日差しの下は暑かった。陰のない石ころだらけの上を歩くのは体力を消耗したが、滝まで到達すると激しく流れ落ちる水に疲れは癒された。
トレールの帰り道、すれ違った女性パークレンジャーの飾らない笑顔にも励まされ、足取りも軽く感じた。
使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:28 mm
使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:95 mm
トレールを歩き終えた後、公園内で最も人気があり、世界で最も大きな木、シャーマン将軍の木(General Sherman tree)が生息しているジャイアント・フォレスト(Giant Forest)に向かった。
シャーマン将軍の木は、セコイアデンドロン(Sequoiadendron giganteum)、別名ジャイアントセコイア(Giant Sequoia)という世界一体積が大きくなる種の木である。
この日、巨木の森には、小さな子供から2メートル以上の長身の男も含め、たくさんの人が遊びに来ていたが、巨木からは見れば、皆小さな存在に見えるに違いなかった。ジャイアントセコイアの大きさに圧倒され、歩き疲れた私は、しばらく森の石に座っていた。見上げると、巨木の森からは空が遠く感じた。
使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm
使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:70 mm
使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/100秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm
使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:24.2 mm
ジャイアント・フォレスト・ミュージアムに立ち寄り、展示されている資料からセコイアの大きさを改めて確認した後、美しい湿原、クレセント・メドウ(Crescent Meadow)に向かう。メドウに行く途中、森は、鎮火したばかりの山火事で焦げ臭いにおいに包まれていた。メドウの駐車場に着くと、嬉しそうにカメラを持った男が、私に近寄ってきた。男のカメラのモニターには、ブラック・ベアーが写っていた。熊に出会える期待感と望遠レンズを持って、私もクレセント・メドウの周りを歩き回ったが、この日、私には熊との縁がなかった。
使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/80秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:18 mm
使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/80秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:24.2 mm
使用機材:SIGMA SD15 + 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/100秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:23 mm
熊に出会えなかった私は、帰り道、モロ・ロック(Moro Rock)と呼ばれる大きな岩に立ち寄った。数年前の春、この岩に登った時は、霧が掛かって何も見えなかったが、この日の夕方、大きな岩からは大きな風景が見渡せた。森から出る山火事の煙が漂って、東の山が少しだけかすんで見える。西日を浴び、雪をかぶった山の上から空に向かって、かすかに光が放たれたように見える。煙の仕業なのかもしれないが、自然が起こすドラマに無駄がないはずだと思った。
国立公園のサイトに 「山火事は、シェラの森の生態にとって不可欠なもの。動物も植物も、自然に発生する定期的な低度の山火事を受け入れてきた。実際、実を開いて種を解放すため、セコイアには山火事も必要なことで、山火事によって残された灰は、セコイアの芽が出て成長するのにベストな環境なのだ。」とある。近年、セコイアの森に多くの人間が足を踏み入れるようになった。森は、今後も人間を受け入れてくれるのだろうか。
使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:24.2 mm
使用機材:SIGMA SD15 + SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm
※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。
押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。
84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、
広告写真スタジオで働き始める。
91年フォトグラファーとして独立。
95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。
エンターテインメント関係の撮影中心。
近年はライフワークである旅写真に力を入れている。
趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/