押本龍一 ― 私の出会う光景 ― 第22回:秋のカナディアンロッキー 中編(クートネイ、ヨ-ホー、バンフ国立公園Kootenay,Yoho, Banff National Park)

10月に入ったばかりのこの日、私は欲張って、3つの国立公園を渡り歩くつもりでいた。バンフ国立公園を走るボウ・バレー・パークウェイのキャッスル・ジャンクションから南西に走り、ボウ川を渡り国道1号線を通り抜けるとクートネイ・パークウェイ(93号線)となり、道を上って行くと標高1640メートルのバーミリオン峠(Vermilion Pass)に達した。
キャッスル・ジャンクションから7キロメートル離れた峠は、西は太平洋へ東はハドソン湾から大西洋へと、水が東西に分かれて流れ始める大陸分水嶺(Continental divide)になっている。また、バンフ国立公園とクートネイ国立公園の公園境であり、さらにアルバータ州とブリティッシュコロンビア州の州境でもある。バーミリオン峠から南西にさらに7 キロメートルを走り、山火事で木が枯れて葉がない山に囲まれたマーブル・キャニオン(Marble Canyon) に立ち寄る。
この辺りの亜高山帯針葉樹林(Subalpine Forest)は、200年から300年ごとに山火事が起き、植物も動物も自然の騒動と共に生きてきた。

thumbnail-01

2003年の暑く乾燥した夏の日に、雷によって起きた山火事は、ブリティッシュコロンビア州のクートネイ国立公園の12%のあたる170 km²を40日間で焼き尽くした。
まだ小さな針葉樹の緑を失わない程度まで彩度を落とし、山火事跡の色のない世界を表現した。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:24.2 mm

焼け焦げた木が何本も倒れ、2003年の山火事の激しさを容易に想像させる風景の中、マーブル・キャニオン沿いの遊歩道を独り歩く。ドラマチックなカナディアンロッキーの風景の多くは、氷河の働きが強く影響している。
長さ600メートル、深さは40メートル近いこの渓谷も、氷河から解け出した激しい水の侵食によるもので、渓谷壁は石灰石(limestone)と白雲石(dolomite)から成り、その一部は白くて大理石(marble)に似ていることから、マーブル・キャニオンと呼ばれている。

thumbnail-02

渓谷を歩く遊歩道のスタート付近から、クリークを見る。
片道800mの遊歩道には橋が掛けられ、渓谷を縫うように歩いた。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:30 mm

thumbnail-03

ひんやりとした空気が、渓谷から吹き上がってくるのはとても神秘的だ。
午後の陽の光は、幅が狭く深い渓谷には届かないが、デジタルカメラは渓谷の底を流れるクリークもリアルに写し出す。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/5秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:28 mm

thumbnail-04

遊歩道の折り返し地点付近から、氷河から解け出た水が激しく流れるクリーク(Tokumm Creek)を見る。
陰になった渓谷壁の暗部は、陽の光が当たる部分と比べると暗かったが、潰れることもなく質感もしっかりと描写されていた。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:10 mm

8000年の侵食活動で創られ、その侵食活動がまだ進んでいるマーブル・キャニオンを激しく流れてきたクリークは、穏やかな流れになり、青に少し緑が混ざったように見え、トルコ石の色、ターコイズ(Turquoise)のような、何とも美しい色をしていた。 マーブル・キャニオンから約90キロメートル南に位置する有名な温泉、ラジウム・ホットスプリングス(Radium Hot Springs )にも心が惹かれたが、この日、クートネイ国立公園の北西に位置しているヨ-ホー国立公園にも足を伸ばしたかった私は、93号線を北東へ引き返し、バンフ国立公園に戻り国道1号線を北西に走った。

thumbnail-05

美しいクリーク(Tokumm Creek)沿いで、大きな自然を相手に子供が遊んでいた。
流れる水の音が心地よく響き渡り、ピクチャーパーフェクト(Picture Perfect)の光景だった。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:21 mm

ルイーズ湖周辺(レイクルイーズ・ジャンクション)で、ハイウェイは北のジャスパー国立公園(93号線)に繋がる道と、西のヨ-ホー国立公園に繋がる道(国道1号線)に分かれた。私は国道1号線をそのまま西へ走った。 午後の西日が眩しいヨ-ホー国立公園内に入ると、同時にブリティッシュコロンビア州に再び戻っていた。2つの国立公園と州の境目である大陸分水嶺(Continental divide)を走り抜けると、国道1号線の横を流れるキッキング・ホース川(Kicking Horse River)の向こうに、小さなタウン、フィールド(Field)が見えた。私は川を渡り、岩壁がすぐ側まで迫る静かな集落を少し歩いた。
今日、様々なアウトドア・アクティビティの拠点であるタウンは、一時期、重要な鉄道の町だった。カナダ太平洋鉄道(Canadian Pacific Railway)の完成当時(1885年)、大陸分水嶺の付近のキッキング・ホース峠からフィールドの区間は、北米で最も急な勾配(4.5%)だった。The Big Hillとして知られたこの勾配は、死亡者が出る事故も起こった大変危険な区間だった。その急な勾配を上るための補助機関車(Pusher Engine)を準備する中継所(Depot)として、フィールドは重要な役目を果たしていた。また、当時の機関車には重たい食堂車をつなげてはおらず、旅行者に食事を提供する施設もフィールドに設けられていた。その後、スパイラル・トンネル(Spiral Tunnel)が、1909年9月1日に開通し、勾配は2.2%になり列車は安全に通過できるようになった。

thumbnail-06

大きな山脈の中を走る勾配2.2%のスパイラル・トンネル(写真中央)を望める場所が、国道1号線沿いにある。
急な山の斜面にとげとげしく生息する木々を強調し、山脈の深く掘られたトンネルの存在感も同時に強調した。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:26 mm

thumbnail-07

人口300人の小さなタウンを、キッキング・ホース川越しに見る。
黄葉した木が、傾きかけた午後の陽の光に見事に輝き、小さな集落に色を添える。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:24.2 mm

thumbnail-08

フィールドに建つ小さな教会の白い壁と、険しく力強く聳え立つ標高3,199 m (10,495 feet) のステファンン山(Mount Stephen) は、この小さなタウンを護っているように見える。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:33 mm

thumbnail-09

国道1号線沿いの小さな池の水面に、反射した景色が映る。
小さな魚が生息しているようだった。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:17 mm

フィールドからは、国道1号線を少し南西に走り、エメラルド湖に向った。湖に到着すると、山に囲まれた湖水にはもう陽の光は届いてはいなかったが、日没前の暖かい光を受けた山の景色が鮮明に映りこんでいた。湖水に浮かぶデッキの上に出ると、あまりの静けさに、私はしばらくその場に立ち尽くした。

thumbnail-10

エメラルド湖(Emerald Lake)に向う道。
陽の光は、あとわずかしか残されていなかった。
セピア色にして、一日の終りが近づく時間帯を表現した。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:24.2 mm

thumbnail-11

エメラルド湖。この日の夕方は、青い空が映り込み、エメラルド色と言うよりブルーが強かった。
周囲の風景を鏡のように写しだす湖の水面は、静止しているように穏やかだった。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/30秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm

thumbnail-12

標高2,599 m (8,527 feet)のバージェス山(Mount Burgess )とエメラルド湖。
1954年から1971年の間、カナダ10ドル札の裏の絵になったことから、今でも the "Ten Dollar Mountain"と呼ばれることがある。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/20秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:20 mm

翌朝、2泊したバンフの町に別れを告げて北に走った。国道1号線から93号線に乗換える。ここからは、北のジャスパーまで230キロメートル (143 マイル) の、アイスフィールドパークウェイ(The Icefields Parkway)と呼ばれるハイウェイになる。
国立公園の入り口で渡された案内書には、ルイーズ湖を境に、バンフ国立公園を2つに分けて説明している。その北の部分に私は足を踏み入れた。様々な形の山があり、その山々を映し出すいくつもの湖が存在する雄大な風景は、カナディアンロッキーを象徴しているように思う。

thumbnail-13

アイスフィールドパークウェイに入り、最初立ち寄った ハーバート湖(Herbert Lake)。
湖に反射する景色もすばらしいが、透き通るような湖の水にも感動する。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:10 mm

thumbnail-14

ボウ湖(Bow lake)。水面の標高は、1,920 m (6,300 feet)。
クロウフット山(Crowfoot Mountain)標高3050 m(10007 feet)が、湖の向こうに見える。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:13 mm

thumbnail-15

オリジナルには、ピラミッド・マウンテンと呼ばれた標高3,307 m (10,850 feet) のシェフレン山(Mount Chephren)に目を惹かれて立ち止まった。
2つ湖から成るウォーターフォウル湖(Waterfowl Lakes)。
Waterfowlは水鳥の意味だが、この朝、水鳥は見なかった。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:S-シャッター速度優先オート | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm

thumbnail-16

秋の終り、もうすぐ雪景色になるアイスフィールドパークウェイ。
大きな景色の中を独り走っていると、夢の世界にいるように感じる。
X3 Fill Lightを下げて得られる独自の効果で、夢のような風景を表現。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:70 mm

ハイウェイは、ノース・サスカチュサン・リバー・(North Saskatchewan River)を渡り、大きくカーブして上りになった。

thumbnail-17

かつて毛皮商人は、ノース・サスカチュサン・リバーをカヌーで渡った。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:17 mm

thumbnail-18

アイスフィールドパークウェイが、大きくカーブしている地点。
彩度を落し、コントラストとシャープネスを大きく上げ、草が枯れ冬を待つ山岳地帯を表現した。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F13.0 | 焦点距離:17 mm

ジャスパー国立公園にあと少しと迫ると、数台の車が停まりそこからハイキングをする人を見かけた。青い空の下、私も元気に山を歩きだした。トレール(Parker Ridge Trail)のスタート地点に生息していた樹木は、少し登ると周りに見なくなった。カナディアンロッキーの森林限界線(Forest Line)の2200メートルを超えていたようだ。

thumbnail-19

トレールを下る人の向こうに、標高3491 m(11,453 feet)のアサバスカ山(Mount Athabasca)が、クリアーに見えた。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:26 mm

thumbnail-20

陽の光が眩しいパーカー・リッジ・トレール。
風と光をさえぎる物は何もない。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F20.0 | 焦点距離:50 mm

thumbnail-21

若い女性2人が、サスカチュワン氷河(Saskatchewan Glacier )を眺めていた。
強い陽の光がレンズに入り込む半逆光も気にしなかった。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:17 mm

トレールは、樹木が生息しない山の尾根に出た。太陽がいっそう眩しく、それまで感じなかった冷たい風が強く吹き抜けている。遠くには氷河が見えた。そして、カナディアンロッキーは、まだまだ先へ続いていた。(秋のカナディアンロッキー 後編に続く)

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

押本 龍一
プロフィール

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。
84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、 広告写真スタジオで働き始める。
91年フォトグラファーとして独立。
95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。
エンターテインメント関係の撮影中心。
近年はライフワークである旅写真に力を入れている。
趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

Page Top