押本龍一 ― 私の出会う光景 ― 第11回:白い花が咲き始めた5月のサワロ国立公園(Saguaro National Park)

5月の中旬、アリゾナ州フェニックスからインターステート・ハイウェイ10 (通称I-10)を南東に走ると、灰色の雲の切れ目から太陽が顔を出す。朝から時より小雨混じりの曇り空の下、ロサンゼルスから車を飛ばして来た私は、例年、4月の後半から6月のはじめにかけて咲くサワロサボテンの白い花を見るために、アリゾナ州のツーソンにあるサワロ国立公園に向かっていた。フェニックスから約100マイル(160km)ほど走ると、サワロ国立公園へのサインが見え、そのサインに従ってハイウェイ10を出る。この日は風が強く、トラクターが土煙を上げている農場を見ながら、アブラ・バレー・ロード(Avra Valley Rd)を西に少し行くと右手に小さな飛行場が見える。そこから、サワロ国立公園と書かれたサインに誘導されるままに左に曲がり、ノース・サンダリオ・ロード(N.Sandario Rd)をまっすぐ走り公園内に入いると、ビジターセンターまでの道は工事中で、20分以上も道で待たされる。雲が多く強い日差しは照りつけていないが、気温は華氏90度(32.2℃)を超え、道路工事のストップサインを持つ若者は、暑さで顔が真っ赤になっていた。車の中でただ待つのに飽きた私は、車から外に出てそばに見えていた白いサワロの花にカメラを向けた。カリフォルニア州からアリゾナ州に入ってすぐに所々に生息しているいくつかのサワロに白い花を見ていたが、今年は花を見るのにまだ少し早いかもしいれないという情報もあったので、近くで白い花を見られたことにまずは満足する。

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公園内に入ると道路工事のため、車を停めてしばらく待たされる。車の窓を開けて撮影した。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

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雲の切れ目から差し込んだ陽の光に輝いていた大きさ3インチ(7.5cm)のサワロの花。
夜中に咲き出し、昼過ぎにはその花は閉じてしまう。
マクロレンズで撮影した白い花は、光の反射を捉え、影になった枝のディテールも失うことなくシャープに写し出した。

使用機材:SIGMA SD14 + MACRO 70mm F2.8 EX DG | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/320秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:70 mm

米国のカリフォルニア州の南東部とアリゾナ州の南西部、メキシコのソノラ州にサワロサボテンは生息している。成長は遅く、はじめの8年で1インチから1.5インチ(25.4mmから38.1mm)ほどしか伸びず、生息している環境にもよるが、50年から70年で人間の腕のような枝が出はじめ、125年で成熟したサボテンになると考えられている。平均寿命は150年から175年の間で、200年以上も生息することもある。大きいものでは、重さは6トン、高さは50フィート(15m)にまでになるサワロ。35年目ぐらいで白い花が咲き始め、生涯、その花は咲き続ける。
1933年にナショナル・モニュメントに指定され1994年に国立公園となったサワロサボテンが密集しているサワロ国立公園は、ツーソンの街を挟んで東と西の地区に分かれている。私がこの日訪れた地区は、北のフェニックスから来ると近い方の西側に位置するツーソン・マウンテン・ディストリクトで、生息しているサワロサボテンは、こちらの方が密集しているとビジターセンターのパークレンジャーが教えてくれた。ビジターセンター (Red Hills Visitor Center) に到着したのは午後2時だった。今日の午後から日が暮れるまで西の公園を探索するつもりだと、私の行動予定をパークレンジャーに告げると、6マイル (9.7 km)のバハダ・ループ・ドライブ(Bajada Loop Drive)を車で走ることを勧めてくれた。勧められたループは、ホホカム・ロード(Hohokam Rd)という道からはじまり、サワロサボテンが密集して生息し、アメリカンウエストならではの大きな風景の中を走るダート道だった。道沿いにはよく整備された幾つかのトレールの入り口があり、私はワイルド・ドッグ(Wild Dog)というトレールを少しだけ歩いてみた。多くの資料に、サワロ国立公園での夏のハイキングは薦められないと書いてあるが、サワロが密集していても日陰はほとんどない。曇りぎみの5月のこの日でも歩き出すとすぐに汗が出てきてすぐに水を喉から流し込んだ私には、夏のハイキングはとても無理だと感じた。

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バハダ・ループ・ドライブのはじまり。シャープに写し出された写真を見ると、ダート道を走り出した瞬間の空気も蘇る。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/250秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

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トレールのサインにフォーカスすると、目立たないサインの存在をあらためて認識する。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/800秒 | 絞り:F2.8 | 焦点距離:24.2 mm

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サワロを見ながら歩く砂漠のトレールはよく整備され迷うことはない。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F9.0 | 焦点距離:24.2 mm

ダート道をゆっくり車で進むと、ゴールデン・ゲイト・ロード(Golden Gate Rd)に突き当たりループの通りに左へ曲がり少し走り、シグナルヒル・ピクニックエリア(Signal Hill Picnic Area)に立ち寄る。バーベキュー設備もあり、公園内のピクニックエリアはよく整備されている。そこからジグザグに緩やかに上っている短いトレール(Signal Hill Petroglyphs Trail)を歩き、サワロが生息している光景が一望できる丘に立ってみる。そこには、ホホカム族によって500年から1300年前に描かれたと考えられているペトログリフ(岩絵)が、その存在を岩で覆われている丘に示していた。

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眺めていると目が回るような気がしたペトログリフ。
不思議なロックアートを見ていると、時のたつのを忘れる。

使用機材:SIGMA SD14 + 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/320秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:29 mm

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ピクニックエリア(Ez-Kim-In-Zin Picnic Area)の小高い丘にある小屋。ひとり座ってサワロの生息する山を眺めると、風が気持ちよく吹き抜けていった。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/100秒 | 絞り:F5.0 | 焦点距離:16.6 mm

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雲が多い午後だったが、雲の切れ目から時より射す西日がサワロの輪郭を描写する。
モノクロにして、神秘的なサワロの存在をシンプルに強調してみた。

使用機材:SIGMA SD14 + APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/320秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:118 mm

この土地にかつて住んだホホカム族の生活様式を想像しながら、たくさんのペトログリフを岩の丘に目にした後、引き返すようにゴールデン・ゲイト・ロードを走りループから抜けてさらに先に進むと、サワロに囲まれたピクニックエリア(Ez-Kim-In-Zin Picnic Area)が左手に見えてくる。自然の中にいる感覚を肌で感じられるように、よく整備されているこのピクニックエリアに立ち寄ることは、この道を走る者にとって自然な流れだった。小高い丘に建てられ小屋にはテーブルと椅子があり、大きく開いた窓を風が通り抜けていくのを感じ、そこにしばらく動かず休憩をする。ピクニックエリアからさらに先に進むとダート道はかなりのデコボコ道になり、サワロも少なくなったので、再びループに引き返した。シグナルヒル・ピクニックエリアに戻った頃、それまで雲に阻まれていた陽の光が直接射しはじめ、あまり期待していなかった夕焼けを背景にしたサワロの姿を見ることができた。

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枯れたサワロ。200年以上生存することも稀でない植物にも終りがある。そのはかない生命、彩度を抑えて表現した。

使用機材:SIGMA SD14 + 30mm F1.4 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/320秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:30 mm

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曇りがちだった日の終り、雲が切れて陽が当たるとサワロの森が急に明るく輝いた。
デジタルカメラは、コントラストの増した美しい光景を逃さずシャープに捉えてくれた。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:16.6 mm

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大口径望遠ズームレンズをしっかり手で持ち太陽に向けて撮影すると、沈む太陽を背にした大きなサワロがしっかりと写っていた。

使用機材:SIGMA SD14 + APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/1000秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:209 mm

その後、公園に来た道を引き返しハイウェイ10に乗り、ツーソンに向けて少し走ると、大きなサインを掲げた宿屋がハイウェイから数多く見え、宿泊先を探すのは難しいことではなかった。泊まった宿の夜は5月だったが、冷房を入れないと少し暑かった。翌朝、西のツーソン・マウンテン・ディストリクトから約30マイル(48 km)離れたサワロ国立公園の東の地区、リンコン・マウンテン・ディスリクト(Rincon Mountain )に向う。朝5時半に宿を出るが、思ったより時間がかかり公園に到着すると、この日の快晴を約束する強い朝日が既に白いサワロの花を照らしていた。まだオープンしていないビジターセンターからは、8マイル(12.8km)の舗装されたループ(Cactus Forest Drive)を走った。起伏があり変化に富んだ景色に囲まれた道には、サワロを見下ろせるようなスポットに車を停めることもでき、人の背より高いところに咲く花を見るのにいいループだった。写真を撮りながらゆっくり走る私を追い越す車は数台で、朝の空気の中を気持ちよさそうに走るサイクリストの数は、その倍以上だった。

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全長は11.5インチ(29 cm)、羽を伸ばすと19インチ(48 cm)のハジロバト(White-winged Dove)の鳴き声は、にぎやかだった。

使用機材:SIGMA SD14 + APO 120-400mm F4.5-5.6 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/160秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:214 mm

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青い空をバックに、朝日を浴びた立派なサワロサボテン。標準レンズで、正面から撮影した。

使用機材:SIGMA SD14 + 30mm F1.4 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:30 mm

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サワロサボテンの表面をマクロレンズで切り取ったシャープな写真を見ると、手で触れている気がしてくる。

使用機材:SIGMA SD14 + MACRO 70mm F2.8 EX DG | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F7.1 | 焦点距離:70 mm

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舗装された道(Cactus Forest Drive)は起伏があり、本格的なサイクリストが多かった。望遠ズームですばやく撮影。

使用機材:SIGMA SD14 + APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/1250秒 | 絞り:F4.0 | 焦点距離:200 mm

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カクタス・フォーレスト・ドライブからの眺め。開放付近で撮影し、花の存在感を強調した。

使用機材:SIGMA SD14 + APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/1250秒 | 絞り:F3.5 | 焦点距離:144 mm

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大口径望遠ズームレンズで花に迫ると、花の周りを飛ぶハチの向こうの高い空に鳥の群れが小さく写っていた。

使用機材:SIGMA SD14 + APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/500秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:300 mm

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開放付近で撮影し、愛嬌のあるサワロの存在を表現してみた。

使用機材:SIGMA SD14 + APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/1000秒 | 絞り:F3.5 | 焦点距離:154 mm

昼間でもまだ暑さがさほど厳しくない5月中旬のサワロ国立公園で、たくさんのサワロを見た後、西へ戻る道中の所々にもサワロを見る。給油のため立ち止まったカリフォルニア州との州境の小さなタウン、クオーツ・サイト(Quartzsite)で見たサワロにも、白い花が咲いていた。ここで見たサワロの白い花が見納めとなったが、LAに戻ってもアリゾナ州の州花に認定されているサワロの白い花が、どこにでも咲いているような気がした。

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ハンディーなコンパクトデジタルカメラで見納めとなったサワロの花がある風景を撮る。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F10.0 | 焦点距離:24.2 mm

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

押本 龍一
プロフィール

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。
84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、 広告写真スタジオで働き始める。
91年フォトグラファーとして独立。
95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。
エンターテインメント関係の撮影中心。
近年はライフワークである旅写真に力を入れている。
趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

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