押本龍一 ― 私の出会う光景 ― : 第3回:サンタバーバラ海峡を眺めながら

アメリカ北東部が大雪に見舞われていた冬の朝、雪とは無縁の南カリフォルニア、私はロサンゼルス国際空港を横目にインターステイト・フリーウェイ405を北上していた。
フリーウェイ101に乗り換え、そこから北西に約50マイル(80キロ)ほど走ると、サンタバーバラ海峡が一面に広がっている海岸線に出会う。
西の空のところどころに白い雲が見えるものの、ほぼ快晴、少し霞んでいる海を左手に見ながら海風を切って走る。半分開けた車の窓から何台ものキャンピングカーが海岸線に停まっているのが見える。キャンピングカーの台数は多く、その光景は車の窓からなかなか消えない。
私は次の出口でハイウェイを降り、フリーウェイ と平行する海岸の道を走って来た方向へ戻るように少し走り、海岸に一列に並ぶ大きな車のそばまで近づいた。
少し海霧が発生して霞んで見えるその光景は、海辺に建ち並ぶ住宅のように私の目に映る。ここは、波が高いと海水が車にかかることもあるパシフィック・コースト・ハイウェイ沿道のキャンピングカー専用のキャンプ場だった。
一列に並ぶキャンピングカーの横をゆっくり走ると、犬と散歩する人、テーブルで朝ごはんを楽しむ家族を見かける。
キャンプ場で見かける普通の光景を目にしながらさらに走ると、路肩に車を停め、朝の海と遊ぶ大勢のサーファーが、私の目の前に現れた。

SAMPLE PHOTO 01

霧が少し出ていた海岸。大口径ズームレンズを持って遠くに見えるキャンピングカーにフォーカスした。
手前の鳥は大きくぼけ、キャンピングカーは霞み、幻想的な写真になった。

使用機材:SIGMA SD14 + APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/1600秒 | 絞り:F4.0 | 焦点距離:178 mm

SAMPLE PHOTO 02

手前のサーフボードにフォーカス。
路肩の地面、海岸の石、その石に腰掛ける女性がリアルに写し出され、この朝の海岸にいるようだ。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

SAMPLE PHOTO 03

高倍率ながらハンディーなズームレンズは、この海岸を物語るシーンを逃がさなかった。
サーフボードを掴む女性サーファーの手の指もシャープに捉え、サーフ ボード表面の質感もしっかりと読み取れる。

使用機材:SIGMA SD14 + APO 150-500mm F5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/640秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:150 mm

そこから北西にさほど離れていないリンコン・ポイントと呼ばれる海岸に移動する。駐車場はほとんどいっぱいで、停まっている車は何となく海の匂いがするタイプが多く、ここに来る人は皆サーファーに違いないと思う。
駐車場から海岸までの視界をさえぎる林の中を歩いて行くと、太陽を背にした白い高波がいくつも見える眩しい海が待っていた。
「君の前を今歩いて行った水色のシャツは、世界的なサーファイン大会で何度も優勝している有名な男だよ、いいサーファーがここで見られるよ」
望遠レンズ付きのカメラを持ち、海岸の石ころの上をぎこちなく歩く私に、中年のおじさんサーファーが話しかけてきた。サーフィンの世界を知らない私だが、さっき立ち寄った海岸のサーファーよりこの海岸のサーファーの方が上級者に見えてきた。このポイントは海岸線がカーブしていて、押し寄せる波を斜め横から見ることができ、サーファーの動きもよく見え、自分もサーファーになったような気になる。上手に波乗りをするサーファーを眺めていると、時間が経つのを忘れてしまう。持ち込んだテーブルの上に食事を用意する家族の姿もあり、暖かいこの海岸に一日中いても飽きそうもなかった。

SAMPLE PHOTO 04

駐車場で見かけた車は、サーファーらしいものだった。
首からぶら下げていたDP2は、さりげなくこの光景を押さえてくれた。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F10.0 | 焦点距離:24.2 mm

SAMPLE PHOTO 05

ほとんど逆光。フレアなしに手前の海岸の石から遠くのサーファー、左奥に見えるリッチ・フィールド・ピアまでシャープに写し出している。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/400秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

SAMPLE PHOTO 06

海をバックにこんなハンモックで昼寝をしたい、そう思いながらハンモックの青い糸にフォーカスした。
背景 である海岸の景色が美しくぼけ、私の気持ちを伝えてくれる写真が撮れた。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/640秒 | 絞り:F2.8 | 焦点距離:24.2 mm

SAMPLE PHOTO 07

陽の光を何かで遮らないと眩しくて見ていられないサーファー。
太陽のある方向にレンズを向け、手ブレ補正付き望遠ズームを最大限に活かし手持ちでサーファーを追うと、肉眼では見えない動きが捉えられていた。

使用機材:SIGMA SD14 + APO 150-500mm F5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/800秒 | 絞り:F9.0 | 焦点距離:500 mm

SAMPLE PHOTO 08

海岸に建てられた住宅の前にボートが置かれていた。
その船底は太陽光を浴びて、海岸の風景の一部となっていた。船底だけでなく背景の植物もこの風景になくてはならないものだった。
それらのディテールをデジタルカメラは、余すことなく写しこんだ。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

リンコン・ポイントから再びフリーウェイ101に戻り北上する。フリーウェイを走っていると、立ち止まりたくなる景色や地名がいくつかあった。私はその時の気分でフリーウェイから降りた。フリーウェイから最初に出て立ち寄ったスポットには、砂浜の端に線路が敷かれていた。その線路とビーチの境である柵は、何本もの薄く細い木の棒で作られていて、砂浜の風景によく溶け込んでいる。線路を通る電車は軽い砂煙を舞い上げる。砂浜の線路沿いには、冬なのに黄色い花が咲いている。線路を渡って木の柵の入り口からビーチへ遊びに行く人たちを見かける。冬の日曜日、みんなサングラスをかけていた。

SAMPLE PHOTO 09

棒と棒の隙間は大きく、砂浜に似合う涼しげな柵だった。明るいレンズをほとんど開放にして休日気分を感じるモノクロ写真にした。

使用機材:SIGMA SD14 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:モノクローム | シャッタースピード:1/4000秒 | 絞り:F1.6 | 焦点距離:50 mm

SAMPLE PHOTO 09

電車が通ると砂煙が上がり、その瞬間を切り取った写真を見ていると、その時の音が聞こえてくるようだ。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/60秒 | 絞り:F13.0 | 焦点距離:24.2 mm

SAMPLE PHOTO 10

冬にも元気に咲いていた黄色い花に感動した。
鋭く写し出された小さな花に、その存在感を感じる。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F10.0 | 焦点距離:24.2 mm

何度も訪れていて、人が多く集まるサンタバーバラ海岸周辺には興味がなく、次に立ち止まったのは、エル・キャピタン州立公園の入り口だった。フリーウェイから降り、鉄橋の下をくぐると、辺りはちょっとした森になっていた。その森の中を鉄橋が伸びている。木々の間から差し込む陽の光が、錆びた鉄橋の風格を描写する。その鉄橋の下、ウェット・スーツを着た二人の若者が、海岸へ繋がる道を歩く。サーフボードを担いでいないので、停めていた車まで用事があり戻った帰りだろうか、この辺りの海岸は州立公園になっていて海岸に出るには入場料を払う必要がある。彼らは車を遠くに停めて歩いているようだった。海岸まで歩くには少し遠いが、木々の間からこぼれる暖かい午後の光の中を歩くのも、彼らには至福の時かもしれない。
州立公園から出て、フリーウエェイに乗ろうとするキャンピングカーのシルバーが眩しく光る。ゆっくりと走るそのキャンピンカーに、時間に追われない旅人気質を感じた。

SAMPLE PHOTO 11

森が陽の光を遮り、錆びた鉄橋に光と影のドラマを作る。
その鉄橋の存在をデジタルカメラはしっかりと表現した。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F7.1 | 焦点距離:24.2 mm

SAMPLE PHOTO 12

午後の陽の光を浴びて、鉄橋の下を歩く若いサーファーを撮影した。
望遠レンズは海岸に繋がる道の存在感を強め、この道を歩いて海岸に行きたくなった。

使用機材:SIGMA SD14 + APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/250秒 | 絞り:F4.0 | 焦点距離:200 mm

SAMPLE PHOTO 14

何の変哲もないフリーウェイの入り口に、シルバーのキャンピングカーは美しく輝いていた。

使用機材:SIGMA SD14 + APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/500秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:200 mm

その後何度かフリーウェイを出て、ガヴィオタ州立公園に近づくと海岸に繋がる州立公園には入らず、丘になっている道を上り線路沿いまでたどりついた。路肩に車を停めて草むらの中を少し歩いて行くと、大きな空、大きな海を背景にビーチを横切る大きな鉄橋が見える。そこからさらに丘を上ると線路に出る。線路からはサンタバーバラ海峡が一望できた。線路を横断した足元の崖下から、木の桟橋が海に突き出している。その桟橋に大型カメラを構えたフォトグラファーが、南カリフォルニアの暖かい午後の日差しを受けた海岸線に大きなレンズを向けていた。
サンタバーバラ海峡を眺めながらの旅は、海岸線を走るアムトラック・パシフィックサーフライナーが走る線路との旅にもなった。

SAMPLE PHOTO 15

線路沿いの植物に冬の柔らかい陽の光が当たる。
明るいレンズは植物の前後をやさしくぼかし、柔らかい冬の午後を表現してくれた。

使用機材:SIGMA SD14 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/800秒 | 絞り:F4.0 | 焦点距離:50 mm

SAMPLE PHOTO 16

青い空と海をバックに日陰になった鉄橋は、潰れずにそのディテールまで写っていた。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

SAMPLE PHOTO 17

桟橋を上から見下ろすとフォトグラファーの姿を見かけた。
望遠レンズで桟橋の一部と海だけを切り取り、この風景の中、フォトグラファーの存在感を強調した。

使用機材:SIGMA SD14 + APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/320秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:126 mm

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

押本 龍一
プロフィール

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。
84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、 広告写真スタジオで働き始める。
91年フォトグラファーとして独立。
95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。
エンターテインメント関係の撮影中心。
近年はライフワークである旅写真に力を入れている。
趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

Page Top