インターステイト・フリーウェイ5から14号線、そしてUSルート395を北上して来た私は、ロサンゼルス国際空港付近の自宅から約200マイル(320キロ)に位置するオランチャのガソリンスタンドで給油のため車を停めた。
この日、家を出てからはじめて車の外に出ると、夏は暑さで歩く気もしないこの地の午後3時、薄手の長袖がちょうどいい気温だった。東へ伸びる190号線はデスバレーへと繋がり、USルート395を北上すると左手にシェラネバダ山脈を見ながらの壮大なドライブが続き、マンモスレイク等の観光地が北に控えているオランチャは、美しい景色への出入り口、そんな役目を持った場所と言っていいかもしれない。
使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:オート | シャッタースピード:1/1000秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:200mm
使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:13mm
左手には雪化粧をしたシェラネバダ山脈、右手に干上がったオーエンズ湖、その向こうにも薄っすらと雪をかぶった山脈を見ながら、オランチャから30分も走らないうちに冬のローンパインに到着する。町の少し手前の立派な建物のビジターセンターで、この辺りの地形や歴史を確認した後、予約をしていた2階建ての宿に直行する。395号線に向いた部屋の窓からは西日が差し込み、窓から外を見ると西に連なるシェラネバダ山脈に太陽が隠れる寸前だった。私は部屋に運んだカメラバックを再び車に戻し宿を出た。そしてビジターセンターで得た地図を頼りに、南部連合軍の帆船アラバマに因んで名付けられたアラバマヒルズと呼ばれる岩の丘に向かった。町からマウント・ホイットニーへの登山口と繋がるホイットニーポータル・ロードを西に走り、ダート道のムービーロードを北に進む。沢山の岩に囲まれ、西にそびえるシェラネバダ山脈がすぐそばまで迫り、太陽の光が届かず薄暗くなったダート道を走ると道は二つに分かれていた。右へ行く道は行き止まりになっていて、そこには数台の車が停まっていた。コピー用紙にプリントされた1枚の地図にアーチまでのトレールと記されている。私は車を停め、そこから短いトレールを歩き出した。地質学的に言うとシェラネバダ山脈の一部に属する岩の上に立ち周囲を見回す。西の山脈の上に大きく広がる空以外真っ暗で、自分がどこに立っているのか一瞬分からなくなる。
シルエットになったフォトグラファーが、西の空を背景に岩の上を機敏に動いているのが見える。山に積もった白い雪がぼんやりと見える。偶然見つけたアーチからシェラネバダ山脈を眺めていると、気温が急に落ちてきて確かな冬を身体中で感じ、宿に戻る。
使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:モノクローム | シャッタースピード:1/60秒 | 絞り:F4.0 | 焦点距離:10mm
翌朝、朝日が当たる150-200億年前の変成岩と90億年前の花崗岩が主に広がっているアラバマヒルズのアーチとシェラネバダ山脈を見るため、日の出の1時間前にホテルを出る。真っ暗な道を昨夜と同じように走り、アーチに繋がる同じスポットに到着すると既に1台の車が停まっていた。冷え込む早朝、短いトレールを歩き昨夜見つけたアーチまで独り歩く。
アーチの前の岩には、スキー帽をかぶった一人の中年男性が三脚を立てて朝日を待っていた。彼はサンフランシスコから来ていて、1年前から暇があるとこの地に通っていると私に告げた。それから、デスバレーには行ったことがあるか?と私に尋ねた。3回ほど行ったことがあるよ、と私は答えた。日の出まで30分ほどただ岩の上で待つしかなかった二人の男の会話は、多くはなかった。しかし、お互いの存在を認めながら、冷え込んだ岩の上での会話は、暗い岩の丘の光景と共に、後日まで私の頭の片隅から離れなかった。待ち焦がれた陽が昇ると、それまで暗くて見えなかった雪をかぶったシェラネバダ山脈が青い空を背景に眩しく現れ、朝日を浴びたアーチはその形状を誇らしげに示し始めた。
使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:24.2mm
使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/60秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:10mm
使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/60秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:10mm
使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA APO 120-400mm F4.5-5.6 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:オート | シャッタースピード:1/320秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:183mm
使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 30mm F1.4 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/4000秒 | 絞り:F2.5 | 焦点距離:30mm
アラバマヒルズがすっかり明るくなった頃、私は宿に戻り朝食を取りチェックアウトを済ませ、標高4.421メートルのマウント・ホイットニーの登山口を目指し、再びホイットニーポータル・ロードを西に走りだした。シェラネバダ山脈には高いポイントがいくつもあり、その容貌を知らないと、どの山がマウント・ホイットニーなのか見分けるのはやさしくないが、ホイットニーポータル・ロードを少し走ると、アメリカ本土(アラスカを除く)で一番高い山は、間違えようのないほどそばに近づいていた。上り傾斜がきつくなると路肩に雪が見えはじめ、フロントガラスの前方が雪に囲まれ始めた頃、道は通行止めになっていた。通行止めのサインを無視して上った数台の車は、その少し先で停まっていた。宿の受付係の若者から、登山口にレストランがあると聞いていたので、そこでコーヒーを飲むのを楽しみにしてここまで来た私だったが、この時期、道が通行止めになっていることを宿の若者は知らなかったようだ。私はこの先へ行くことを諦め、上って来た道をゆっくりと下り、ローンパイン・キャンプ場に立ち寄った。オープンしているはずのキャンプ場には人影はなく、この数日間、テントを張った形跡もないように私の目に映った。
使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/160秒 | 絞り:F6.3 | 焦点距離:24.2mm
使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:オート | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:24.2mm
使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:オート | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:24.2mm
使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F7.1 | 焦点距離:16.6mm
使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F9.0 | 焦点距離:16.6mm
誰もいないキャンプ場で一人くつろいだ後、ローン・レンジャー、ロー・ハイド等の西部劇をはじめ、数多くの映画やテレビ映画が撮影されたアラバマヒルズに再び戻り、ムービーロードとは逆方向へ行く道、ホースシューメドウ・ロードを南へ入る。南半球で最も海抜の低い地点(海抜下86メートル)を含み、夏は地球上で最も暑くなる地のひとつであるデスバレーを東の山脈の先に感じ、アメリカ本土で一番高いポイント、マウント・ホイットニーを西のシェラネバダ山脈に確認しながら岩に囲まれた風景の中をゆっくりと走ると、馬にまたがり大地をさっそうとゆく大きな西部の男になった気がしていた。
使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:10mm
使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F10.0 | 焦点距離:24.2mm
※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。
押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。
84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、
広告写真スタジオで働き始める。
91年フォトグラファーとして独立。
95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。
エンターテインメント関係の撮影中心。
近年はライフワークである旅写真に力を入れている。
趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/