押本龍一 ― 私の出会う光景 ― 第9回:ソルトン湖 Salton Sea(前編:人の気配が少ない州立保養地)

ロサンゼルスのダウンタウンからインターステート・ハイウェイ10(通称I-10)を東へ約128 マイル(205km)走り、インディオ(Indio)で州道86Sを南下し州道111(State Route111)に入ると生産性の高そうなカリフォルニアの農場が強い日差しを受け広がっている。コロラド砂漠を走る州道をさらに行くと、朝の太陽に反射し少し霞んだソルトン湖が見えてくる。私はソルトン湖を見に来ようと何度か計画したがいつも計画倒れになり、実際にこの不思議な湖を眼下にするのは、この朝がはじめてだった。
20世紀の初め、コロラド川から現在のソルトン湖周辺を含むインペリアル・バレー(Imperial Valley)に農業用水が引かれた。その後間もなくの1905年、大雨と雪解け水で水量を増したコロラド川は、アリゾナ州のユマの南につくられた水路から溢れ出した。サザンパシフィック鉄道のメインライン、カウイア・インディアン(Cahuilla Indian)の保護地区、塩田工場、全てのコミュニィティーが水浸しになった。水の流れは1907年に堤防が作られるまで18ヶ月間に及び、現在のソルトン湖が存在する低い土地のソルトン・シンクに流れ込み、その結果、ソルトン湖が誕生した。現在の湖の大きさは、水面積376スクエアーマイル(970 km²)、縦35マイル(56km)、横15マイル(24km)で、水面が海抜マイナス226フィート(69m)のカリフォルニア州最大の湖である。ソルトン湖は人為的なアクシデントによって誕生したという見方もできるが、この地域は大昔から水に浸されてきた。その跡は湖の周囲の丘や山に見ることができる。数百万年前、ソルトン・シンク周辺は、カリフォルニア湾の北端を成し、塩水に浸されコロラド川が流れ込んでいた。コロラド川によって運ばれた泥は、カリフォルニア湾を埋め塩分の強いデルタを形成し、ソルトン・シンクは塩分を含んだ低い土地として残った。コロラド川はその水路を幾度も変え、時にはソルトン・シンクに流れ込み、時にはカリフォルニア湾へまっすぐに流れ込んだ。その結果、湖が誕生しては消滅を繰り返した。水分の蒸発量と湖に流れ込む水量のバランスは、乾燥した土地の湖の存在時間を決定した。現在ソルトン湖が干上がることはないのは、流れ込む数本の河川と農業排水のためだと言われている。

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州道111沿いのオレンジ畑の垣根。
日差しが強い乾燥した砂漠地帯では、緑色を見ると眼と心が癒される。
写し出された砂漠の空気感は、言葉で説明できない。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

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ソルトン湖が農園の向こうに見える。
大口径望遠ズームレンズで霞んだ湖にフォーカスし、手前の緑の農園をぼかし、幻想的な朝の空気を表現した。

使用機材SIGMA SD14 + SIGMA APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/2000秒 | 絞り:F3.5 | 焦点距離:200 mm

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自然に生息している植物は、強い日差しに少し負けているようで緑があまりなかった。
そんな乾燥した風景の中、独自の存在感を示すストリートサインにフォーカスした。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/200秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

大きな湖の北東部の湖畔、約20マイル(32km)は、ソルトン湖州立保養地(Salton Sea State Recreation Area)に指定されている。4月の終りの朝、私はインディオから約30マイル (48km)南下した州立保養地にあるビジターセンターにまず立ち寄ることにしていた。月曜日の朝9時前、1台の車も停まっていない湖畔の大きな駐車場を横切り、ビジターセンターの前に車を停める。駐車場の端にはキャンピングカー専用のキャンプサイトがあり、4台のキャンピングカーが停まっていた。日焼け止めクリームをたっぷりと顔に塗り、建物の入り口まで歩いて行くと、ビジターセンターは、金、土、日の週3日間しかオープンしていないと書かれたサインが掲げてあった。湖の基本的な情報をここで得て、この日の行動を考えようと思っていた私の計画は朝から崩れたが、パーム・ツリーの間を飛び回る鳥の強く響き渡る鳴き声が、この日の私の行動に勇気を与えてくれた。湖のビーチに出てみると、青い空には鳥が飛び、湖は空の青が映り込んでいる。ビジターセンターの裏にある小さな港(Vanar Harbor)からは、ボートが湖に出て行くところだった。フィッシング・ピアに数人の釣り人を見かける以外、人の気配がしない湖の朝は快適だった。

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ビジターセンターの横にシンプルなシャワーが設置されていた。
開放近くで撮影し、シャワーの存在を強調すると同時に、背景の山とパーム・ツリーを大きくぼかしムードのある写真にした。

使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/1250秒 | 絞り:F3.5 | 焦点距離:76 mm

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かつてこの辺りに1万人いたと言われるカウイア・インディアン(Cahuilla Indian)の住居がつくられ、ビジターセンターの敷地内に展示されていた。
内蔵フラッシュを発光させ影を和らげる。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/60秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:16.6 mm

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釣り人は思ったより少なかった。
首の長い大きな鳥が印象的だった。

使用機材:SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/250秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

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のんびりと釣りを楽しむ人を見ていると、先へ急ぐ気持ちもなくなる。

使用機材SIGMA SD14 + SIGMA APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/320秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:178 mm

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白くなった木の棒が、青い空と湖にその存在を示していた。
背景を適度にぼかしその存在感を強調するのに明るい50mmレンズは最適だった。

使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/2000秒 | 絞り:F4.0 | 焦点距離:50 mm

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青い湖を行くボートを見ているとペリカンの群れがその上を飛んで行った。
大口径望遠ズームレンズでボートを追いながら焦点距離をすばやく決め、シャッターを切る。

使用機材SIGMA SD14 + SIGMA APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/800秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:126 mm

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青い空を飛ぶ鳥を追うようにして撮ると、大口径望遠ズームレンズは鳥の表情も捉えていた。

使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/320秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:104 mm

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近づくと逃げてしまうチュウダイサギ(Great Egret)を望遠ズームレンズで撮影。
長い焦点距離までカバーする望遠ズームレンズは、軽量で持ち歩くのに苦にならい。

使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA APO 150-500mm F5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/400秒 | 絞り:F9.0 | 焦点距離:403 mm

ビジターセンターで情報を得られなかった私は、そこから少し南のメッカビーチ(Mecca beach)に移動した。保養地区内でこの日唯一オープンしていたテント用のキャンプ場に、5,6個のテントが張ってある。水着に近い格好をした若い男女のグループが、楽しそうに帰宅の準備にかかっている。岸辺の大きなピクニック・テーブルには、上半身裸の男性が独り座り、サングラスをかけ本を読んでいる。釣った魚を洗うためと思われる立派な水盤もあるが、釣り人は見ない。対岸が見えない部分の湖の風景は、波がないものの、海岸にいる気分にさせる。

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岸辺のピクニック・テーブルは屋根付きもあり、くつろぐにはいい感じ。
湖の水面に合わせ、水平にカメラを構える。

使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/160秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:31 mm

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釣った魚を洗う水盤だろうか、施設は整っている。

使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/400秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:50 mm

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すばやく飛ぶクロエリセイタカシギ(Black-necked Stilt)を撮影。
資料によると全長は35センチから40センチということだが、もっと小さいように感じた。

使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA APO 70-200mm F2.8 II EX DG MACRO HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/640秒 | 絞り:F5.6 | 焦点距離:200 mm

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対岸が見えないと海岸にいるような気持ちになる。

使用機材SIGMA SD14 + SIGMA 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/160秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:50 mm

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湖畔にはいくつかのトレールがある。
少し歩くと、海岸線のビーチを歩いているような気になった。

使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/4000秒 | 絞り:F2.0 | 焦点距離:50 mm

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州道沿いのCAFEという看板に誘われて車を停めると、店は随分前から閉まっているようだった。

使用機材SIGMA DP2 | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:24.2 mm

湖の横を走る州道111をさらに南下する。すれ違う車がほとんどない道、後方から大型トラックが見下ろすように私を追い越して行く。左手にユニオン・パシフィック鉄道の線路、右手に湖、見える風景はあまり変わらないが、気温が上がり背中が汗ばみ始める。ソルトン湖州立保養地に指定されている最後のポイントであるボンベイ・ビーチ(Bombay Beach)まで来ると、途中に見かけたコビナ・ビーチ(Corvina Beach)と同様に入り口はしっかりと閉鎖されていた。

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ソルト・クリーク・ビーチ(Salt Creek Beach)には、
仮設便所(chemical toilet)があるだけの広場の
ようなキャンピングカー専用のキャンプ場があった。

使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/250秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:29 mm

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州道111と並行して敷かれたユニオン・パシフィック
鉄道の線路を横切り、湖を見る。
使いやすい標準ズームレンズで撮影。

使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:50 mm

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入り口が閉まっていたボンベイ・ビーチ。
予算カットのため、現在は閉めていると州のサイトに説明されていた。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/320秒 | 絞り:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

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湖が見えないと土手が高く感じる。
ホコリっぽい乾燥した道に古タイヤが転がっていた。
彩度を抑え、日差しが強く乾燥した空気を表現した。

使用機材:SIGMA SD14 + SIGMA 18-50mm F2.8 EX DC MACRO | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッタースピード:1/125秒 | 絞り:F11.0 | 焦点距離:24 mm

カリフォルニア州立公園のサイトに、「多くの渡り鳥、1500のキャンプサイト、豊富な釣り、年間10万人以上の人がソルトン湖を訪れる」と書いてあるのを前日確認していたが、単純に日割りで計算すると約300人の人がこの湖を訪れる計算になる。週末に多くの人が訪れるのかもしれないが、この日の人出から、この湖に多くの人を見かける日があるのかと不思議に思う。
ボンベイ・ビーチの州立保養地の隣は、人の気配を感じない住宅地になっていた。1台の車が写真を撮る私の前をゆっくりと通り過ぎる。私はその車が走って来た州立公園の横を走るアベニューAを湖方向に車を走らせた。道は土手にぶつかりそこで直角に左に曲がり、5thストリートになった。強い日差しが人の気配のしないボンベイ・ビーチの住宅地を照り付け、急ぐ必要のない土地に足を踏み入れたと感じていた。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

押本 龍一
プロフィール

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。
84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、 広告写真スタジオで働き始める。
91年フォトグラファーとして独立。
95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。
エンターテインメント関係の撮影中心。
近年はライフワークである旅写真に力を入れている。
趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

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