押本龍一－私の出会う光景－第182回：パイレーツタワー（THE PIRATE TOWER）が建つビクトリアビーチへ

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

崖の影になっていたミステリアスなタワーの上部に強い陽光が当たりはじめた。パイレーツタワーと呼ばれる高さ約18.3mの建物は、プライベートビーチのような小さなビーチに建っている。

ロサンゼルスのダウンタウンから車で約85km南下したラグナビーチの海岸には多くのアートギャラリーやレストランが建ち並び、年中人出が多く特に夏は各地から人が押し寄せてくる。しかし、ラグナビーチのメインビーチから約3km南のビクトリアビーチは夏でも人が少なくとても静かだ。そして、ビーチ北の崖沿いに建つパイレーツタワーと呼ばれる建物は一見の価値がある。独立記念日の前日、私はパイレーツタワーを見るためにビクトリアビーチへ向かった。夕方の6時前、パシフィックコースト・ハイウェイ（通称PCH）沿いに車を停め、海岸線の住宅地からビーチに下りると潮がかなり満ちていた。波が来ないタイミングを見計らい、陽が当たるタワーの北側まで歩いた。波も来ないだろうと思った崖下の岩場にカメラバックを置き写真を撮り始めると、予測しなかった高波が押し寄せ、カメラ機材がかなり濡れてしまった。私は機材のダメージが心配になり、すぐに引き上げ帰宅してすぐに機材掃除をした。

住宅の間にある階段を下り、ビクトリアビーチに到着する。

ビーチに下りると崖の影に出た。太陽はまだ高く空も海も明るかった。

南西に面した海岸に建つパイレーツタワーやビーチアクセス用のプライベートの階段は影になり、海水を溜めるプールに人が集まっていた。

陽が当るタワーの北側から撮影。この後すぐに高波が押し寄せた。

レンズフードひとつは波に持って行かれたが、潮水で濡れた機材は幸い無事だった。私は4日後の昼間、引き潮のビクトリアビーチに再び戻ってみた。ビーチに出てパイレーツタワーが見える場所まで行くと、タワーの上部に陽の光が当たりはじめていた。このミステリアスなタワーは1926年にロサンゼルスの上院議員であるウィリアム・E・ブラウンにより崖上の家と同時に建てられた。そのデザインは第一次世界大戦の終わりに婦人と滞在したフランスで見た城と邸宅にヒントを得たようだ。ビバリーヒルズに住んでいたブラウンはここを別荘とし、その後1940年代に退職した海軍大佐のハロルド・ケンドリックにタワー付きの家を売却した。タワーが気に入った海賊好きのケンドリックは、海賊の服を着て近所の子供達に話を聞かせ色々なゲームをしたそうだ。その後、家とタワーの持ち主は何度か変わったが、タワーはパイレーツタワーとして知られるようになった。

ビーチに下りるとタワーの上部に陽が当たりはじめていた。右手前の白い建物は近所の家のビーチまでのアクセス用の階段。

潮が満ち高波が来ると海水が満たされるプールには海水ななく、この時間は砂場だった。

このプールもパイレーツタワーを建てたウィリアム・E・ブラウンによるものだと地元の資料にあったが、崖上のタワーから少し離れていた。

プールには溜まった海水が抜けていく穴が空いている。

ビクトリアビーチにはコーストガードがいて管理されたビーチのように見えたが、トイレも水道もない。私はいったんビーチから離れて近くのスーパーで飲み物を買いトイレを借りて再びビーチに戻ると太陽の位置が変わり、タワーには崖の影がなくなっていた。

僅かな間に太陽の位置が変わり、住宅の間の階段にも陽光が差して雰囲気が変わっていた。

若者達がタワーと崖の間を通り抜け、タワーの先の海岸へ走って行った。

内部には螺旋階段がある高さ約18.3mのタワーの上部は崖と接続されていて、崖上に建つ家からのビーチアクセスに使われたようだ。

タワーと崖の間から見上げると、タワーが崖に接続しているのがよく分かる。

海岸の石を使用したタワーと太平洋。満潮時はここまで波が押し寄せる。

タワー北の隣家のビーチアクセスのための階段。

タワー北の岩場の間を泳ぐ若者。

タワー南の隣家のビーチアクセスのための階段。白いペイントは青い空と海に映える。

しばらく静かなビクトリアビーチにいた後、住宅の間の階段を登りビクトリアドライブに出て、そこから車を停めたパシフィックコースト・ハイウェイに戻った。このまま帰宅しても良かったが、賑わうラグナビーチのメインビーチに立ち寄ることにした。ラグナビーチの中心に近づくと車の渋滞が続き、ビーチ沿いの駐車場はどこも一杯だった。海岸沿いから離れても駐車スペースは見つからなかったが、結局メインビーチにある公園から少し北のパシフィックコースト・ハイウェイ沿いに車を停められたのはラッキーだった。メインビーチは予想通りの人出で、様々な格好をした老若男女が快晴の海岸を楽しんでいた。

ビクトリアドライブへの階段があるビクトリアドライブはかなりの坂道だ。

住宅地のビクトリアドライブは車を停められない。ワンブロック南のストリートに数台の車が停まるスペースがあるが、よほどラッキーでないと空きがない。

ラグナビーチのメインビーチのライフガードの建物には、この日の海岸のコンディションが書かれてある。

ビクトリアビーチから来ると人出が多く別世界だった。

ビーチバレーボールは、サザンカリフォルニアのビーチでよく見かける光景だ。快晴のこの日、青い空と海を背景にネットの白い外枠が眩しかった。

バスケットボールは、ラグナビーチのメインビーチ・パークには欠かせない光景だ。コンパクトな望遠ズームは、このような動きのある被写体を追うにはとても快適だ。

フランスのお城にヒントを得たパイレーツタワーが建つビクトリアビーチは、ラグナビーチにあっても別世界だ。夏でも静かなので、冬の早朝か夕暮れ時はほとんど人がいないだろう。タワーには近づけないかもしれないが、海が荒れた日は遠くからドラマチックなタワー絡みの写真が撮れるだろう。冬に海が荒れた日、高波に十分注意して撮影に行ってみたい。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。