押本龍一－私の出会う光景－第184回：濃霧のオレゴン南端の海岸から快晴のカリフォルニア・グラスビーチへ

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

何かのブートキャンプだと思う。霞んでいた砂浜を若者達が懸命に走っていた。オレゴン州との州境から32km南に位置するクレセントシティは、市の南に位置する砂浜が三日月形をしていることからその市名が名付けられた。

オレゴン州の海岸線は人が少ないのがいい。カリフォルニア州との州境から僅かな距離にあるブルッキングズもシーズンの割には人が少なかった。夏は涼しく冬は温暖で家の価格はカリフォルニアと比べると低く、近年カリフォルニアから定年後に移り住む人も増えているようだ。犬連れの私は、ドッグパークがある「マクベイ・ロック・ステート・リクリエーション・サイト」を散策した。砂浜に人の姿がなく犬を自由に遊ばせたので、結局ドックパーク内に入らなかったが、犬連れには有り難い環境だった。この辺りの夏は朝晩濃霧に包まれることが多いのだが、この日の夕方は快晴だった。私はチェトコ・ポイントという太平洋に突き出した岬で日没を迎えた。

数頭のアザラシが岩の上にいて、一頭のアザラシは私に気がついた。使用した望遠ズームレンズは軽量・コンパクトなので砂浜に持って行く気になったが、アザラシはかなり遠くにいたので望遠レンズなしではここまで迫れなかった。

砂浜に大きな木の切り株があった。夕陽を浴びた切り株の表面をよりクリスピーに仕上げてみた。

誰もいない静かな砂浜に打ち上げられた海藻が輝く。

砂浜に出るパーキング場の前には立派なドッグパークがあったが、この時犬は見なかった。

太平洋に突き出したチェトコ・ポイントで夕陽を眺めた。意外と歩く距離があったので最小限の機材を持ったが、このような状況では標準ズームレンズに助けられる。

チェトコ・ポイントに咲く白い花（Cow Parsnip）が夕陽に染まる。

翌朝、モーテルのチェックアウトを済ませた後、前日日没を迎えたチェトコ・ポイントの少し北にあるハリスビーチへ行った。海岸一帯は典型的な夏の朝である濃霧に覆われ服はしっとりとしたが、気温が低く気持のいい朝だった。何より人が少なく、砂浜を独り占めできるのが嬉しかった。宿泊したモーテルの受付にオーナーの男性が釣ったサーモンと一緒に写っている写真が飾ってあり、何処で釣れたか尋ねると、「すぐそばのチェトコ川、ハイウェイの下ですよ」と教えてくれた。私はモーテルのオーナーがサーモンを釣ったと思われる辺りに立ち寄り、ブルッキングズを後にした。

岩が点在し木が重なり合うハリスビーチは濃霧で霞み幻想的だった。

海岸の丘からハリスビーチを見下ろす。

チェトコ川にはカモメとペリカンが沢山集まっていた。

チェトコ川を渡りブルッキングズを後にした私は、南下してカリフォルニア州に入りクレセントシティに立ち寄った。「It Never Rains in Southern California」という歌があるぐらい雨の少ないカリフォルニア南部と比べると、クレセントシティ周辺は同州にしては雨がよく降る。年間降水量は1,778 mmでロサンゼルス（300mm）の約6倍になり、東京（約1,500mm）より多い。夏は雨が少ないが朝は霧が出る日が多く、この朝も「カリフォルニアの青い空」はなかった。

「白ヒゲの老人と灯台」といった感じの光景だった。バッテリーポイント灯台は手前の岩を大きく入れると絵になり、海を眺めていた白ヒゲの老人は写真に深みを与えてくれた。

満潮になると渡れない場所に建つバッテリーポイント灯台は夏の昼間は毎日観覧できる。

海にまつわる物が木の枝にぶらさげてあった。太陽の光が当る状況で撮りたいなと思ったが、どんよりとした曇り空でも明暗のしっかりとした写真が撮れた。

クレセントシティの名前の由来となった砂浜。霧で霞んでいたが、鳥を追い遊ぶ二人の少女にすばやくフォーカスが出来きた。この状況下、彼女たちの足の裏に付いた砂が克明に写ったのには驚いた。

クレセントシティからハイウェイ101を南下した。オレゴン州中部から流れてきたクラマス川と巨木のレットウッドが生息する森に短時間滞在した以外、一気に南へ走りレゲットというタウンでパシフィック・コースト・ハイウェイに入り、山中を走り海岸線に出てフォートブラッグ（Fort Bragg）へ向かった。途中、海岸やラグーンに寄れなかったのは残念だったが、見たかったガラス瓶の欠片が散在するグラスビーチには予定した時刻に到着できた。フォートブラッグで一番人の集まるグラスビーチは、かつて瓶や家電等のゴミ処理場が近くにあった。ゴミ処理場が閉鎖された後、砕かれた瓶が残り、押し寄せる波によって小さくなって散りばめられ、海岸はキラキラ光るグラスビーチとなった。しかし、多くの人が瓶の欠片を取りに来るので、以前ほど瓶の欠片は散在しておらず、イメージしたキラキラ光る海岸とはなかなり違っていた。

オレゴン州中部の山から幾つかの川が流れ込むアッパークラマス湖南端の滝から、北カリフォルニアを流れて太平洋へ注ぐクラマス川。

延長423kmのクラマス川の大きな河口で、5人の子供を乗せ女性がボートを操っていた。静まり返った河口に子供たちの声が響き渡り、川岸には男性と子供、それに小さな犬がボートを見守っていた。

大きなレッドウッドにレンズを向けずに広大な森を通り過ぎたくなかったので、（Prairie Creek Redwoods State Park）に立ち寄った。巨木の根元はエネルギーに満ちていてその場に釘付けになった。

大勢の人がグラスビーチで瓶の欠片を拾っていたが、知らずに来ていたら何を拾っているのか分からなかったと思う。

近づいてアップでよく見ないと瓶の欠片がよく見えなかった。

グラスビーチに続く道を多くの人が行き交い、オレゴンから南下して来た私にはちょっと人が多すぎる気もした。

翌朝は快晴だった。前日の朝、オレゴンと北カリフォルニアの海岸は濃霧に覆われていた。そのせいだろうか、見慣れているはずの青い空がより青く見え、犬を連れて気分良くノヨ川の河口付近を散策した。

約50km東から流れてきたノヨ川。河川港から出て来たボートに朝陽が当たる瞬間を、白い花（Matilija poppy）越しに捉えてみた。

朝陽を背に受けてノヨ川からノヨ湾を経て白いボートが太平洋に出てゆく。青い空と海、澄んだ空気を超広角ズームレンズで撮影。

濃霧に包まれた海岸と快晴の海岸を体感し、その途中に巨木も見た私は、ノヨ川の河口から太平洋をしばらく眺めた。海で出てゆく白いボートを見ていると、そろそろ家路につこうかなと思った。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。