押本龍一－私の出会う光景－第207回：根岸森林公園へ

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

横浜市中区根岸台の森の向こうに古い城のような建物の頭が見える。森は日本初の洋式競馬場であった根岸競馬場跡地から生まれた根岸森林公園内にあり、建物は旧一等馬見所だ。

空に薄い雲がかかる蒸し暑い7月の朝、横浜市中区根岸台の丘に広がる根岸森林公園へ向かった。JR根岸線の根岸駅のホームに降りると、根岸線に並行して停まるタンク車が熱を持っているように見えて暑さが増した。根岸駅を出て住宅地の細い路地から急な石の階段を上ると根岸森林公園はすぐだった。ランナーが走り犬の散歩コースにもなっている面積18ヘクタールの公園は、一時期米軍専用のゴルフ場としても使用され、芝生の上に立つと久しぶりにゴルフ場に出た気分になった。1886年に外国人居留地の娯楽施設としてつくられた根岸競馬場は、当初2つの居留外国人組織により施行されていたが、分離・独立・統合の後、1880年に日本レース・クラブに改称され日本人の入会も認められた。1937年には日本競馬会が日本レース・クラブを吸収し、横浜競馬場に名称変更された。全盛期は、現在の天皇賞や皐月賞にあたるレースも行われたが、第二次世界大戦下、1942年に競馬が休止、翌年には競馬場も閉鎖され、戦後になって米軍に接収された。1969年に日本政府へ返還されたが、競馬場として再起することはなかった。関東大震災により馬見所が壊れた後、1930年にアメリカ人建築家、J・H・モーガンの設計で新たに建設された一等馬見所だけが、競馬場の施設として残っている。

周辺の住民の抜け道になっている急な石段を上り、丘陵地帯にある根岸森林公園に向かう。カーブした石段はちょっとドラマチックで、広角レンズの出番となった。

芝生広場に立っていたミズキ。背景をどの程度ぼかそうかなと考えるのは「BOKEH-MASTER」で撮影する際の楽しみになってきた。

公園の芝生広場を通り抜け公園の北へ歩いて行くと、旧一等馬見所だった建物の横に出る。

ツタに覆われた旧一等馬見所を見上げる。

旧一等馬見所はフェンスに囲まれてその上部には鉄線が張られている。

モーガン広場から一等馬見所の裏側を撮る。建物の東側は米海軍の施設で立ち入る事は出来ない。

旧一等馬見所はまだしっかりした建物に見えたが、アングルにより廃墟的な雰囲気が漂っていた。「BOKEH-MASTER」で撮影したが、ここはシャープに切りとることだけを考えた。

ツタに覆われた外壁を切りとる。カミソリマクロは中望遠レンズとしても切れ味が魅力だ。

紐に繋がれていた鳥は慣れていて飼い主の言うことをよく聞いていた。ベンチに留まっているのはミミズクだと思われる。

公園内を走るランナーは外国人も多く見かけた。

公園の地図で桜山と呼ばれる区域。どこかの山奥にでも行ったような深みがあった。

公園内にあるポニーセンターに設置されているポニーの作り物。手前の茶色のポニーの目にフォーカスしたが、105mmという焦点距離は思った以上に幅広く使える。

塗装が剥げ目の玉が白くなったのだろうか？モノクロにすると不思議な存在感が出た。背景がうるさく画面整理が難しかったが、ボケ味に助けられ被写体の存在感を消すことなく撮れた。

ポニーがこれから口に入れようとする瑞々しい人参にフォーカスすると、人参の質感が見事に捉えられていた。

餌を食べる馬は常に頭を動かしていたが、馬の目をシャープにその他は滑らかにばかして撮ることができた。

ポニーセンターの馬小屋を正面から撮る。白く塗られた壁の質感が手に触れたように細かく描写された。

この日は空が薄い雲に覆われ、写真を撮るには太陽の光がもう少しあれば良かったなと思い帰宅した。撮り足りていないと感じていた私は、後日、再び根岸森林公園へ向かった。この日は快晴で先日より更に気温は高く、平日で猛暑の公園にたどり着くと人はまばらで閑散としていた。暑さには参ったが、人出がないに等しい公園を自由気ままにゆっくりと歩けたのは良かった。

暑く閑散としていた根岸森林公園。アスファルトの道から公園に来ると体感温度が随分低く感じたが、それでも強い日差しの下に長くはいたくなかった。

猛暑の昼間、さすがに走る人はこの時見なかった。かつて米軍のゴルフ場として使用されたが、このアングルからはゴルフ場にいるような錯覚に陥る。

一番暑い時間帯でベンチに座る人もいなかった。

旧一等馬見所横のバスケットコートに人影はなかった。廃墟化した建物、野放しされた空き地、バスケットゴールは、アメリカの寂れた街で見かける光景のようだ。

公園のマップでは遊具広場と呼ばれる芝生下から旧一等馬見所を撮影。

旧一等馬見所横の林で陽光を逃れて休憩する。木の枝の隙間からアメリカと日本の国旗が見えた。建物の正面から見たいものだが、米海軍の敷地で立ち入りはできない。

公園から馬の博物館への入口ゲート。

高台にある公園から根岸駅へ向かい、住民の抜け道になっている石段を下り見上げた光景。「根岸町地区急傾斜地崩壊危険区域」と書かれたサインがあったが、かなりの高低差がある地域だ。

丘陵地帯から石段を下りて来ると根岸森林公園は高台にあることが分かる。今日、根岸森林公園となった敷地は根岸競馬場跡の100％の土地を占めているわけではなく、まだ米軍の管轄する土地も隣接しフェンスに阻まれている。アメリカ人建築家、J・H・モーガン設計の旧一等馬見所もフェンスに囲まれているが、近代化産業遺産に認定されているこの建物もまだ米軍の持ち物に思えてきた。フェンスを外し整備して一般公開して欲しいと望む人は多いと思う。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。