押本龍一－私の出会う光景－第206回：長野県松本市周辺を散策

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

長野県松本市にある松本城は現存する五重六階の天守中日本最古の城で、天守は国宝に指定されている。この朝は尖った槍ヶ岳も見え、からす城とも呼ばれる城の黒と白のコントラスがモノクロ写真によく映えた。

7月の第二日曜日、長野県松本市街にあるS氏経営のレストランを訪ねた。松本城近くのレストランで打ち合わせを兼ねたランチ後、S氏の提案で安曇野市（あずみのし）の大王わさび農場へ行くことになった。松本市街から日本最大級のわさび農場には、北アルプスの槍ヶ岳を水源にして南流する梓川沿いを北上し30分で到着した。わさび農場ということで透き通った水をイメージしたが、この日、農場脇に流れる蓼川（たでがわ）は少し濁っていた。行きに見た梓川も濁っていて土色の流れの部分があったが、前日まで降っていた雨の影響だった。北アルプスから複合扇状地である安曇野へ下ってきた川の水は地下に浸透し、安曇野まで流れてきた水が地下から湧き出る。地下を流れてきた湧水は、外気温の影響を受けず一年を通して水温が13度前後に保たれているのでわさび農場に適している。しかし、近年は気温と湧水の水温上昇、さらに湧き水の減少で収穫量が減り、安曇野ではハウス栽培により収穫量を確保する農家も増えている。

わさび農場で見かけた体長は1センチあるかないかのアマガエルをマクロレンズで撮影。等倍で見るとものすごい切れ味に驚く。

北アルプスからの湧水は一日12万トンのわさび田。ボケ味を活かして撮影。

わさびは直射日光に弱い為、5月から9月末まで寒冷紗（かんれいしゃ）と呼ばれる黒いカバーに覆われる。差し込んだ光が寒冷紗に光りモノクロ写真に良い光景だった。

かつて農場の東を流れる犀川（さいがわ）辺りにあったが洪水で流され移設した八面大王を祀った大王神社。大わらじは、社の名前「大王」の由来で1200年前にこの地域を治めた「儀式八面大王」が巨体だったいう言い伝えから、農園スタッフが手作りで奉納したもの。

亀の姿に見えると言われる岩に祠が乗っていた。ここを新たなパワースポットにとの声があるようだが、レンズの美しいボケ味により一層神秘的な光景になった。

故・黒沢明監督の映画「夢」のロケ地になり、映画のセット用につくられた水車小屋のひとつ。

蓼川で見かけたアオハダトンボ。距離があったのでカメラバックに忍ばせていた軽量でコンパクトな高倍率ズームレンズで撮影。

大王わさび農場近くで見かけた江戸時代松本藩主の本陣として使用された施設である等々力家。この日は閉まっていて中には入れなかったが、外観も魅力がある建物だ。

等々力家の前で見かけた小さなわさび田。わさびの生産量は都道府県別で長野県が1位で、安曇野産が長野県の生産量の90％以上を占めている。

松本市の中心街にあるホテルに泊まった私は、翌朝、四柱神社（よはしらじんじゃ）へ歩いた。その名称は、天之御中主神（アメノミナカヌシノカミ）、高皇産霊神（タカミスビノカミ）、神皇産霊神(カミムスビノカミ)、天照大神（アマテラスオオミカミ）の4柱の神を祀ることによる。そして、全ての願いが相叶うという意味で「願いごとむすびの神」とされる。早朝、掃除と整備が行き届いている境内に到着すると、朝の散歩を兼ねた人、これから仕事に行く人が数分おきに訪れていた。朝早かったので観光客の姿はなかったが、国宝の松本城も近くにあるので日中は参拝客が多そうだ。

正月から六月までの半年間の罪穢を祓う夏越大祓（なごしのおおはらえ）に使われる茅の輪にフォーカスした。背景の本殿との位置関係がよくわかるように焦点距離を決めたが、標準ズームレンズはとても有効だった。

朝の光を浴びた鈴緒。光と影の世界はモノクロ・温黒調にした。

祈祷受付に強い朝日が当たり気温が上がり始めた。

境内に正面から入った左奥に箱庭的な空間があった。

青い空をバックに色鮮やかな境内のもみじは、一年中赤いノムラモミジだろうか。

四柱神社境内の西隣に「松本城大手門枡形跡広場」という広場があり、敵の進入を防ぐための重要な松本城の防衛施設跡だったので、松本城までは歩いてすぐだった。松本城の公式ページに「松本城は戦国時代の永正年間に造られた深志城が始まりで、現存する五重六階の天守の中で日本最古の国宝の城です。黒と白のコントラストがアルプスの山々に映えて見事な景観です。」とあるが、その通りの光景がこの朝見られた。

内堀前から松本城と北アルプス。堀にいた鳥は夏なのに？と思ったのだが私には白鳥に見えた。

平成11年に復元された太鼓門。樹齢400年の檜、梁は140年の松を使用。

光が掘りの水に反射して太鼓門の外の塀をゆらゆらと照らしだす光景。

松本城からはホテルに戻って朝食を取り、チェックアウトを済ませて、市街から東に見える山に向かった。ハイキングをする時間はなかったが市街から出てみたくなった私は、目的地を名前が気に入った美ヶ原に設定した。カーナビ通りに走って行くと田舎の景色と変っていった。キラキラ光る女鳥羽川（めとばがわ）に誘われルートから外れて小さな集落に迷い込むと、鬱蒼とした森の中に御射神社秋宮（みさじんじゃあきみや）があった。赤い鳥居は山道への入口のようで、社殿まで森の中を登り切り社殿が建つ平坦な土地に出た。拝殿の裏には四つ社殿が建ち並んでいた。

山道の入口のような赤い鳥居に呼ばれて近づいた御射神社秋宮。

鬱蒼とした森の奥に社殿らしき建物が見え、街の神社とは違う誰もいない参道を登る。

社殿の下に屋根付きの小さな鳥居？があり、屋根の影に隠れて撮影。光る石段が印象的だった。

拝殿と多目的のような建物の間からは、境内奥にある四つの社殿のうちの三つ、手前に並ぶ底のあいたヒシャク、社の後ろの森と空が見え、この神社の奥行きの深さを感じた。

滴る水は少なかったが夏日だったので涼しげな光景は有難かった。

御射神社秋宮からは、カーナビに従い美ヶ原スカイラインを上った。途中美鈴湖に立ち寄り、地図上では「美ケ原自然保護センター」と記され、車で行ける最終地点のパーキング場へ上った。後で気が付いたがここは美ケ原の北西端で美ヶ原の南から北上するビーナスラインを上り、美ヶ原の東に出たほうが時間のない私には良かったかもしれない。

湖の周囲長2kmの美鈴湖は、広角レンズのためにあるような光景だった。

美ヶ原スカイラインを上って行くと雲が空を覆い始め風が吹いてきた。

先日まで降っていた雨が止み快晴に恵まれ、楽しく松本周辺を散策できた。美ヶ原では好きなハイキングができなかったのは残念だったので、次回はしっかりと歩きに来たい。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。