押本龍一－私の出会う光景－第197回：Mojave National Preserveの冬の日

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

西に沈むみゆく陽光がスポットライトになり砂丘を登る男性が浮かび上がる。低い所から一番高い所までの高低差が200m近くあるケルソ砂丘は、見た目以上に登るが大変だ。

私は2年に一度はモハベ国立自然保護区に足を踏み入れている。広大な風景が撮れる場でありながら人気のあるナショナル・パークに比べると訪問者が圧倒的に少なく、風景を独り占めできるのが気に入っている。この日は新レンズを持って独り保護区へ向かった。LAからラスベガスへ向かいフリーウェイ（I-15）を北東へ走り、ベイカー（Baker）まで10分と迫った辺りでフリーウェイを下りZzyzx Rdを南下し、この地では珍しい湿地帯で日の出を迎えた。乾燥した砂漠の水辺には動物が集まるので望遠レンズを用意していたが、この朝動物の姿は見かけず長いレンズの出番はなかった。

東の空が明るくなってきたモハベ保護区の湿地帯は空の映り込みが美しかった。ここまで水があるのは珍しく、雨が降る冬ならでの光景だ。

夜が明け、霜が降りていた砂漠を歩く。この辺りは海抜が低く夏は40℃以上の日が続くことが多いが、冬の朝はかなり冷え込む。

湿地帯で日の出を迎えた私はフリーウェイ（I-15）に戻って少し北上し、再び保護区に入った。ジョシュアツリーが密集するエリアを走り、家畜のいない牧場に立ち寄り、保護区中央部にあるホール・イン・ザ・ウォール（Hole-In-the-Wall）と呼ばれる穴の空いた岩場まで走った。乾燥したダート道で土煙を上げて走るドライブは爽快で、混雑した都会の光景が遠のいてゆく。

葉が落ちた木が朝陽に浮かび上がって見えた。何度来てもはじめて見る光景を発見する。

家畜の姿を見なかったが、朝陽に映し出された自分の影に広大な牧場に働いている気になった。

家畜を囲むための柵。モノクロームにして色調は温黒調にした。

牧場に建つ雑に塗装されたタンクを撮影した。等倍で見るとタンク表面の細部まで読み取れる。使用したレンズの解像力は圧巻だ。

牛のものだと思われる白い骨が枯れた草の上に転がっていた。

保護区には貨物列車が走っている。この日は線路の補修作業が行われていた。

走って来た道（Cedar Canyon Rd）を振り返る。遠くに見えるダート道は1850年代から60年代にカリフォルニアの人口が増加するにつれて、物資を輸送する重要な道となったモハベ・トレイル。

草木が枯れた砂漠の冬景色は明るい。

広範囲に渡って樹木が焼け焦げていた。

実を見て周囲の焼け焦げていた木が、標高670mから1200mぐらいの土地に生息するジュニパー・ツリー（Juniper Tree）だと分かった。

今にもこちらに転がって来そうに見えた巨岩。

牛の水飲み場は常に一定の水が保たれるように作られていた。

草が枯れ乾燥した土地にいた牛達。

ホール・イン・ザ・ウォール。火山噴火で溜まったガスで岩に穴が開き、風と雨の作用で今日の風景になった。

ダート道で見かけたモハビ・ラトルスネーク。これ以上近づいたら噛まれていたかもしれない。

ホール・イン・ザ・ウォールからは来た道を引き返し、ユニオン・パシフィック鉄道と並行するケルソ・シーマ・ロード（Kelso Cima Rd）をケルソまで下り、そこからさらに南下してケルソ砂丘へ移動した。ケルソからシーマまでの約32kmの上りは高低差約610mあり、シーマ・ヒル（Cima Hill）と呼ばれ蒸気機関車泣かせの上りとして知られたが、最新の車で障害物のない線路と並行した道を走ると勾配と距離感は問題とは思えず、ただ大きな風景の中に溶け込んで走った。

周囲に誰もいない青空を背景に巨岩の山と牧場跡。聞こえるのは風の音だけ。

ケルソへ下りて行く貨物列車を追う。砂丘がその向こうに広がっている。

日没の1時間前にケルソ砂丘のトレイルヘッドへ到着した。前回この砂丘に来た時も日没が近かった。私は日があるうちになるべく砂丘の高い場所に登るため必死に歩いた。

緩やかな登りも砂の上は歩きにくい。

風によって運ばれた砂でできた砂丘は見事だ。

足跡を見れば砂に靴が潜って歩きづらいのがよく分かる。

砂丘で瞑想する男性。等倍で見るとかけているメガネがシャープに写っていた。

西の山に太陽が沈んでゆく。

砂丘の上の方から車までの帰りは下りになるので登りよりはるかに楽だった。車に戻ると靴の中に入り込んだ大量の砂を取り出し一息ついた後、自然保護区から夕焼けに向かって帰路に付き、長かった一日が終わった。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。