第125回:秩父地方の冬の終わり
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第125回:秩父地方の冬の終わり

寒さが厳しい冬、奥秩父の荒川源流に近い川沿いには岩肌から湧き出る水が凍る場所がある。私が訪れた2月の終わりは三十槌の氷柱(みそつちのつらら)と呼ばれる氷柱はだいぶ溶けて小さくなっていたが、しばらく氷のカーテンを見つめていると寒さも忘れ、氷の神秘的な魅力にどんどん引きこまれ、レンズを何度も向けた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 30mm F1.4 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:30mm

昨年暮れ、埼玉県秩父地方の山奥へはじめて訪れて以来奥深い秩父の魅力を知った。時季がまだ早くて見れなかった荒川沿いの氷柱はいつか必ず見に来ようと思ったが、諸事情でアメリカに戻って間もなく日本へ一時帰国することになり、2月下旬荒川の上流沿いを上った。埼玉県秩父市大滝まで来ると看板に従い氷柱が見られる川縁の駐車場に入り駐車代金を払い車を停める。係りのおじさんに氷はまだ見られるかと尋ねると、「まだあるけど、だいぶ小さくなってしまったよ」と言われ、少しがっかりして荒川の川原歩いて下る。岩肌から湧き出る水が凍る川原は、車を停めた駐車場よりかなり寒く、長居はできないと思った。しかしながら、ピークの時と比べて小さくなったとはいえ、氷柱を正面から向き合うように見つめていると寒さも忘れ、かなりの時間を費やして写真を撮った。

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オートキャンプ場になっているウッドデッキから荒川を見下ろす。氷は確かに期待したより随分小さく見え、冬の寂しさだけを感じた風景だった。

使用機材:SIGMA dp1 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/40 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:19mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:19.6 MP (5424 x 3616) | ファイルサイズ:25.93MB

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氷が溶けて岩肌が見え氷の形がよく分かる。モノクロームにして色調は寒さを表現するため冷黒調を選択。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/100 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:80mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:14.8 MP (4704 x 3136) | ファイルサイズ:10.21MB

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荒川の源流近くは水も空気も透き通っている。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/15 秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:50mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:14.8 MP (4704 x 3136) | ファイルサイズ:8.26MB

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川縁に立っているとつま先が冷たくなる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/6 秒 | 絞り値:F16 | 焦点距離:50mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:14.8 MP (3136 x 4704) | ファイルサイズ:12.47MB

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一番氷が多かった場所から離れると川を渡り氷に近づけた。岩がゴロゴロ転がる川岸に三脚を立て高倍率ズームを最長に伸ばして撮影。岩の窪んだ部分は暗く、黒バックを垂らしスタジオで撮影したように写った。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 18-300mm F3.5-6.3 DC MACRO OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:300mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:14.8 MP (3136 x 4704) | ファイルサイズ:10.06MB

荒川沿いの山肌の三十槌の氷柱からは、前回行かなかった氷が浮く秩父湖の北岸を東へ走った。標高2,036mの和名倉山(わなくらやま)を水源とし、荒川に流れ込む大除沢(おおよけさわ)がつくる不動滝を見るため、曲がりくねる道を進んで行く。道は狭く落石止めのフェンスを壊して落ちてきた石が転がっている。よく舗装されているが悪路と言ってもいい道をさらに奥深く進んで行くと、路肩に東屋が建っていた。東屋は不動滝までのトレイルの入口となっていて、少し手前の広くなった路肩に車を停め荒川まで下り吊り橋を渡り急斜面を登った。

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荒川を二瀬ダム(ふたせダム)によってせき止められできた秩父湖。

使用機材:SIGMA dp1 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160 秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:19mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:19.6 MP (5424 x 3616) | ファイルサイズ:18.39MB

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秩父湖の北岸から湖面を見下ろし、散りばめられたような氷にフォーカスする。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:14.8 MP (4704 x 3136) | ファイルサイズ:11.96MB

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秩父湖に架かる吊り橋。渡りきって戻る所から撮影。

使用機材:SIGMA dp1 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:19mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:19.6 MP (5424 x 3616) | ファイルサイズ:24.69MB

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荒川の源流付近に架かる不動橋を渡る。フィルムグレインを効かせ、寒く人影がなかった奥秩父を表現した。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/100 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:9mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:14.8 MP (4704 x 3136) | ファイルサイズ:13.17MB

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不動滝に行く途中の岩の窪みに見かけた地蔵。夫に食料等を届けようと沢を渡る際、おぼれて死んだ女房のお妻の死をなげきかなしんだ夫である平作が建てたと伝えられ、「おつま地蔵」と呼ばれる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/20 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:14.8 MP (4704 x 3136) | ファイルサイズ:10.83MB

地図で不動滝まで30分と書かれていた山道は途中雪が凍って滑る所もあり、危険度も高く山奥に入ってきたなと感じる。お地蔵様の横を登って平らな場所に出ると大除不動尊が祀られていた。そこで湧き水を飲んで一休みをし、再び下っていくと落差50mの不動滝がやっと見えてくる。大除沢には昭和初期に多くの山林業者が入山し守護神として不動様を信仰し、徳川時代の末期には行者が修行場としたともいわれている。私はその荘厳さから不動明王になぞらえてこの名が付けられたとされる不動滝まで近づいてみた。

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不動滝へ向い鎖をたどって下りていく。

使用機材:SIGMA dp1 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/8 秒 | 絞り値:F16 | 焦点距離:19mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:19.6 MP (5424 x 3616) | ファイルサイズ:24.60MB

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冬は葉が落ちて滝がよく見えるが、枝に葉がつくとかなり違った風景になるだろう。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/8 秒 | 絞り値:F16 | 焦点距離:50mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:14.8 MP (3136 x 4704) | ファイルサイズ:8.85MB

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滝つぼの側まで近づくと、水しぶきがかかってくる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 30mm F1.4 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/8 秒 | 絞り値:F16 | 焦点距離:30mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:14.8 MP (4704 x 3136) | ファイルサイズ:6.73MB

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滝周辺に残る氷にフォーカスする。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125 秒 | 絞り値:F5.0 | 焦点距離:104mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:14.8 MP (3136 x 4704) | ファイルサイズ:12.22MB

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滝つぼ周辺から荒川に流れ込む大除沢を見下ろす。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/6 秒 | 絞り値:F16 | 焦点距離:30mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:14.8 MP (4704 x 3136) | ファイルサイズ:9.50MB

不動滝を見た後、上り下りがかなりきついトレイルを歩き車に戻ると背中が汗ばんでいたので、車の窓をしばらく開けて荒川沿いの彩甲斐街道を東へ戻った。

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荒川沿いの彩甲斐街道の急カーブの路肩に立つお地蔵様。赤い帽子とよだれかけは、色の少ない冬によく目立っていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 18-300mm F3.5-6.3 DC MACRO OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60 秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:28mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:14.8 MP (3136 x 4704) | ファイルサイズ:11.14MB

長瀞駅付近まで戻るとこの日ほとんど出なかった太陽が顔を出したので、周辺を散策することにした。 大きな鳥居を潜り荒川と反対方向へ行き、前回立ち寄った三峯神社と秩父神社と共に秩父三社の一社に数えられる宝登山神社(ほどさんじんじゃ)前に出て、二の鳥居を潜り階段を登り境内に立つ。

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川から離れていたが、ライン下りの船を見かける。夕方の光が差し込み船が輝いて見えた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 30mm F1.4 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:14.8 MP (4704 x 3136) | ファイルサイズ:13.85MB

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二の鳥居を潜り階段を登って境内へ進む。山の陰になり周辺は暗かったが、鳥居の金色が存在感を強めていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/80 秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:14.8 MP (4704 x 3136) | ファイルサイズ:10.76MB

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境内も暗かったが、拝殿の装飾のディテールを克明に記録することができた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/20 秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:14.8 MP (4704 x 3136) | ファイルサイズ:13.76MB

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花の香りが強いロウバイの花が咲いていた。陽が沈みかけ撮影状況ではいいとは言えなかったが、この時間帯ならではの空気感が忠実に伝わる写真が撮れた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 18-300mm F3.5-6.3 DC MACRO OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/30 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:50mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:14.8 MP (4704 x 3136) | ファイルサイズ:7.25MB

わずか2ヶ月前に走った荒川沿いの彩甲斐街道(さいかいかいどう:国道140号)を走り、前回案内してくれた友人の運転で再び奥秩父を訪れた私は、この地域に不思議な縁を感じた。もう少し早く来ていれば大きな氷柱が見られたが、いつか見たいと思った光景をこんなに早くカメラに収められたので満足だった。欲を言えばもう少し早く太陽が出てくれたらと思うが、曇空のほうが氷柱は撮りやすかったのかもしれない。置かれた状況の中で惹かれた光景に素直にレンズを向ける。いつものスタイルは変わらなかった。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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