第132回:ハリウッドサインへ
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第132回:ハリウッドサインへ

カリフォルニア州ロサンゼルスのサンタモニカ山脈に位置するマウント・リーの頂上まで登ると、周辺の景色は濃い霧でほとんど見えず、誰もが知るハリウッドサインの裏は霧の中に浮き上がっていた。ランドマークとしてでなくアメリカ文化のアイコンでもあるサインが霧に包まれた珍しい光景を、超広角ズームレンズをフルに活かして撮り込んだ。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:8mm

6月のLAにしては珍しく雨も降り午後になっても青空が見えない日が続いていた。この日の朝も海岸線は霧雨が降り、ダウンタウンも曇空だった。一度歩いてみたいと思っていたハリウッドサインへのハイキング日としてはベストな日ではなかったが、スケジュール的なこともあり、私はハリウッドサインへ歩くトレイルに向った。110号線を北上しダウンタウンで車の多いハリウッド・フリーウェイに乗り換え北西へ少しの距離をのろのろと走る。フリーウェイを下りると若者で賑わうレストランの横を通り、キャニオンドライブを丘陵地帯へ向って緩やかに上り、山に近づくに連れてお洒落な家が増えてきてグリフィス・パーク内に入る。トレイル・ヘッドのすぐ手前の小さなパーキング場に車を停めることができたのはラッキーなことで、私はカメラバックを背負いトレイルを力強く歩き出した。

large
thumbnail-02

夜間はゲートが閉まるようだ。曇空のLAはぱっとしないが、強い陽射しがないのはハイカーとしては嬉しいことだった。色があまりない風景でダート道を背景にした鉄パイプを見た瞬間から、セピア調に仕上げようと思っていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 24mm F1.4 DG HSM Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125 秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:24mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 × 3136ファイルサイズ:7.68MB

large
thumbnail-03

トレイルを歩きはじめて少しのところで若者達の声がした。スケートボーダーを見るのは予想外だった「Bronson Canyon Ditch」と呼ばれるコンクリートの溝。モノクロームしてフイルムグレインの粗さと大きさを上げ、キャニオンで見つけたコンクリートの存在を強調してみた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 × 3136ファイルサイズ:11.74MB

large
thumbnail-04

トレイルに戻り少し離れた所から「Bronson Canyon Ditch」を見ると、洪水のときにキャニオンの水を流すための溝だとイメージできる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 35mm F1.4 DG HSM Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125 秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:35mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 × 3136ファイルサイズ:17.67MB

トレイルを登って行き、突き当たったトレイルをさらに西へ歩いて行くとトレイルの到る所に馬の糞を見かけるようになった。周囲は霧に包まれはじめ、上から降りて来たハイカーの男性は「せっかく頂上まで登ったのに何も見えなかったよ!」と私に言ってすれ違って行った。トレイルの大きな曲がり角から突然現れたように見えた馬は何頭も続いた。馬の行列は迫力があり、私は幅の広いトレイルの端に立ち尽くして見送った。

large
thumbnail-05

マウント・リーの南斜面に建てられたハリウッドサインがちらりと見えたが、霧に包まれてよく見えない。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 18-300mm F3.5-6.3 DC MACRO OS HSM Contemporary | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:300mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 × 3136ファイルサイズ:6.71MB

large
thumbnail-06

歩いて来たブロンソン・キャニオンを見下ろす。晴れた日はロサンゼルスの街並みもここから見えるはずだが、この日は何も見えない。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125 秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:9mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 × 3136ファイルサイズ:11.46MB

large
thumbnail-07

「何も見えないわねー」という会話が聞こえてきそうだった3人の女性は、どこを見たらいいのだろうか?という表情で周囲を見渡していた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 18-300mm F3.5-6.3 DC MACRO OS HSM Contemporary | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:160mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 × 3136ファイルサイズ:9.58MB

large
thumbnail-08

下りて来た馬に出会いすぐにレンズを向ける。背景は霧で何も見えない。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 18-300mm F3.5-6.3 DC MACRO OS HSM Contemporary | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:113mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 × 3136ファイルサイズ:8.98MB

large
thumbnail-09

ガイドさんを入れて13頭の馬が一列になり下山して行った。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 35mm F1.4 DG HSM Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:35mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 × 3136ファイルサイズ:14.14MB

large
thumbnail-10

ホースライディングのスタート地点、馬が見えたサンセット・ランチ・ハリウッド。小さなハリウッドサインが見える。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 35mm F1.4 DG HSM Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:35mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:3136 × 4704ファイルサイズ:15.68MB

large
thumbnail-11

マウント・リーの頂上に近づきフェンスにカバーされた山の北側を見る。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 35mm F1.4 DG HSM Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400 秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:35mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 × 3136ファイルサイズ:13.50MB

large
thumbnail-12

霧に包まれたマウント・リーの頂上付近。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 35mm F1.4 DG HSM Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400 秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:35mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 × 3136ファイルサイズ:6.35MB

海抜521 mのマウント・リーの頂上まで登ると、霧で周囲の景色はほとんど見えない。高さ約14 m、幅約110 mにわたって建ち並らぶ9文字から成るハリウッドサインの裏側が、霧の中に浮んで見えている。風も強く半袖では肌寒く6月の日中の天候とは到底思えない。場所柄、大仕掛けで霧を作って映画を撮影してるんじゃないのか?と思えてくる。サインは高いフェンスに阻まれている。私はフェンスの側に転がっていた石に乗ってサインを撮った。文字Hの横に突き出ている尾根がありフェンスはそこまでしかなく、山の下から登って来てもサインに触れることができる。友人の知り合いがサインに近づいた途端、ポリスが飛んで来たという話を聞いたことがあるが、サインの前にデッキを設置して見学できるようにすればいいと思うのは私だけではないはずだ。

large
thumbnail-13

海抜521 mのマウント・リーの頂上から。サインまでは近づけないように高いフェンスに囲まれ、防犯カメラもたくさん設置されている。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:10mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 × 3136ファイルサイズ:7.88MB

large
thumbnail-14

サインの上にある現在はロサンゼルス市の所有となっているタワーが霧で霞んでいる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:8mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 × 3136ファイルサイズ:9.36MB

large
thumbnail-15

文字Hの横に突き出た尾根から見るとサインはかなり急斜面に建っていることが分かる。霧で霞んで肉眼ではよく見えなかったが、写真を等倍にして見るとサイン裏のディテールがしっかりと記録されていた。

使用機材:SIGMA dp3 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250 秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:5424 × 3616ファイルサイズ:16.62MB

霧に覆われたマウント・リーの頂上にしばらくいたが、霧が切れる気配は一向になかった。私は頂上から下りて行き、サインが正面から見えそうなトレイルへ歩いて行った。霧が少し切れ青空が少し見えたが雲がなくなり快晴になることはなかった。トレイルを引き返し、車を停めたパーキング場を通り過ぎてブロンソン・ケイブスと呼ばれる洞穴まで歩いたが、TVコマーシャル撮影のため近づくことはできなかった。

large
thumbnail-16

山の斜面にサボテンが生息し、よく見ると落書きが沢山あったがこれも土地柄なのだろうか。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 35mm F1.4 DG HSM Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160 秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:35mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:3136 × 4704ファイルサイズ:13.16MB

large
thumbnail-17

ハリウッドランドと呼ばれる地域の一番上近くまで下りて行くと、少しだけ青空が見えた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 35mm F1.4 DG HSM Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:35mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 × 3136ファイルサイズ:10.42MB

large
thumbnail-18

馬を繋いでおく場所に蹄鉄が付けられたバーがあり、雲がしばらく切れて陽が差し込んだ。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA APO MACRO 150mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250 秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:150mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 × 3136ファイルサイズ:7.08MB

large
thumbnail-19

コマーシャル撮影が行わていたブロンソン・ケイブスは、多くの映画撮影も行われた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 24mm F1.4 DG HSM Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 × 3136ファイルサイズ:18.40MB

天気予報でロサンゼルスの東側の山沿いは、夕方から雷を伴う大雨が降る可能もあると出ていた。ロサンゼルスらしくない日のハイキングは汗もかかずに終わり、渋滞するハリウッド・フリーウェイに乗り家路に付いた。2日後、午後から晴れたのでサインを近くで見るのに最も有名なレイクハリウッドパークへ出かけた。パークには犬連れの人も多く観光客も沢山訪れていて、陽射しの強い暑い午後だった。トレイルから見えたサンセット・ランチにも行ってみた。ランチへはすぐ側のパーキング場まで行けると思ったが、トレイルの入口でもあるランチのゲートは閉まりランチのゲスト以外は車で近づけなかった。私はゲートから離れ、2日前に歩いたトレイルの西に位置する道(N Beachwood Dr)に車を停め、トレイルの入口まで長い距離を歩かなければならなかった。

large
thumbnail-20

レイクハリウッドパークからサインを撮る。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 120-300mm F2.8 DG OS HSM Sports | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500 秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:206mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 × 3136ファイルサイズ:16.89MB

large
thumbnail-21

トレイルからも見えた小さなハリウッドサインと馬。この馬達も撮影に借り出されることがあるようだ。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500 秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:70mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:3136 × 4704ファイルサイズ:21.29MB

サインは不動産の広告サインとして1923年に建てられ、HOLLYWOODLANDと今より4文字多い13の文字から成り、1949年にLANDが取り除かれてHOLLYWOODとなった。1932年、映画の世界を目指しニューヨークからロサンゼルスに移動してきた舞台女優が、Hの文字から飛び降りて亡くなり、当時の新聞は女優が自分のキャリアを悲観しての自殺と報道した。女優が死亡する直前、主役級の役のオファーの通知が投函されていたのだが、その役も女性が自殺する役だった。成功した人も夢破れた人も大勢いるハリウッドの丘陵地帯は、ハイキングブームで多くのハイカーが訪れるている。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

Page Top