押本龍一－私の出会う光景－第136回：ファーミン岬（Point Fermin）周辺の夏

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

太平洋に突き出したファーミン岬に立つ灯台から200mほど東へ歩くと、沈んだ町という意味でサンケン・シティー（Sunken City）と呼ばれる奇妙な場所がある。かつて太平洋が見渡せる岬先端の住宅地跡はちょっとした名所になっている。

1929年頃からロサンゼルス最南端のコミュニティーであるサンペドロの土地は少しずつ崩れはじめ、一日 11 inches （27.94cm）ほどが1941年までにゆっくりと海へ崩れ落ちた。土砂崩れとしてはスローペースだったので、ほとんどの家は安全に移動させることができ、海へ沈んだのは2軒だけだった。8月中旬の快晴の日、私はサンケン・シティーが見られるロサンゼルス最南端のファーミン岬へ向った。岬は、北西へ58kmのマリブから南東へ60㎞のデイナポイントまでのパノラマが望め、運がよければクジラやイルカも見ることがきるきれいな公園（Point Fermin Park）になっている。

1874年に初点灯され1942年にその役目を終えた高さ9mの灯台（Point Fermin Light）は、白いフェンスに囲まれている。灯台より存在感を感じたフェンスにフォーカスしモノクロームにした。

さわやかな海風を感じ飛んで行くカモメと灯台。

木陰に入ると夏とは思えない涼しさだった。

公園には野外ステージがあり週末は盛り上がりそうだが、平日は椅子に座る人もいない。

岬の灯台から200mほど東へ歩いていくと、サンケン・シティーがスチール製のフェンス越しに見える。通りかかった若者にフェンス内に入る方法を尋ねると、「フェンスが曲がった部分がありそこから簡単に入れるから、案内するよ」と言う。若者が教えてくれた隙間は狭すぎてカメラバックが入らなかったが、ちょうどサンケン・シティーから公園に戻ってきた男2人がいたので彼らに習い、中に入った。フェンスは崖の上の部分までしかないので、崖を数メートル下れば公園からサンケン・シティー内に入れるのだ。私がサンケン・シティーに入って1時間ほどすると、マウンテンバイクを持ち込む若者のグループもいて、30人ほどがサンケン・シティー内にいた。立ち入り禁止のサインがあるものの、多くの人が立ち寄るこの場所を昼間だけでも正式に開放しようという提案が今年出された。フェンスのドアが開きもっと多くの人が立ち寄る観光スポットになる日も近いかもしれないが、今でも騒ぐ人がいて迷惑なので、パブリックに開放する案に反対する地域住人も多いようだ。

フェンスに囲まれたサンケン・シティー。崩れ落ちた部分はここからはよく見えない。

乾燥した土地にスチールパイプで作られたように見える白い十字架が立っていた。フェンス越しにレンズを向け、モノクロームにして存在感を強調してみた。

サンケン・シティーはグラフィティと海が特徴。

強い陽射しも気にせず、ひたすらペイントスプレーで描き続ける若者がいた。その側をカップルが通り過ぎる。

クジラやイルカは見なかったが、沖にウィンドサーファーが見える。パーキング場跡と思われる部分にもパームツリーにもグラフィティ。

土砂崩れのすごさを物語るラウンドスケープ。

線路跡のようだが、ここにも土砂崩れの怖さを感じる。

崩れず残った部分から崩れ去ったサンケン・シティーを見下ろす。

集まってくる人々は年齢層も人種も幅広かったサンケン・シティー。その東隣にはカブリロ・ビーチが太平洋に面している。ファーミン岬からも見えたウィンドサーファーが集まるビーチに到着するとその数の多さに驚く。防波堤内側の波のない部分には数人のウィンドサーファーしかいなかったが、ほとんどのウィンドサーファーは波の荒い太平洋に出てゆく。私は、強い風を全身で感じて海に向うウィンドサーファーを羨ましく思い超望遠ズームレンズで追った。

平日にこれだけ集まるのだから、週末はどうなるのだろうか。

ロサンゼルス港の防波堤の内側にある長さ366mの桟橋（Cabrillo Beach Pier）は、1969年に建てられ週末は多くの釣り人で賑わう。青い空と海はただただ気持ちがいい。

ビーチに石が積み上げられた防波堤とライフガードのブース。

太平洋へ出てゆくウィンドサーファー。

沖に出てゆくウィンドサーファーを見守るライフガード。

波が高い海岸で遊ぶ少女。

海水浴をする人の間を抜けて沖に出てゆくウィンドサーファー。

グループになってセイリングするウィンドサーファー。南南西約38kmに位置するサンタカタリナ島も近くに見える。

使用する人が絶えなかったビーチのシャワーは、陽が傾きはじめると静かになった。

太平洋に突き出たファーミン岬は、内陸の暑さから逃れ、いい風に吹かれるには最適な場所のひとつだ。公園の芝生に寝転んで昼寝をしてもいいし、ビーチに出るのもいい。この日、岬周辺のサンペドロがロサンゼルス市（1909年ロサンゼルス市と合併）に含まれることをはじめて知り、ロサンゼルスは巨大な都市だと再確認し帰宅した。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。