押本龍一－私の出会う光景－第144回：ターミナル・アイランドへ

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

2002年に建てられた鳥居と漁師の記念碑に朝陽が当たる。かつてターミナル・アイランドには3000人以上の日系人一世と二世が住んでいた。1941年12月7日（アメリカ時間）の日米開戦後の翌年2月、彼らは48時間以内に島からの退去を命じられ、その大部分は強制収容所へ送られた。

12月の朝、ハーバー・フリーウェイを南下しヴィンセント・トーマス橋に差し掛かるとロサンゼルス港の巨大なコンテナターミナルが見えてくる。私は、日米開戦前に日本人漁村が存在したターミナル・アイランドへ向かっていた。長い橋の真ん中から下って行くと「Japanese Fishing Village Memorial Historic Site」と書かれたサインが現れる。橋を降りた後、サインの通りに走り、シーサイド・アベニュー沿いに建つ記念碑に到着できた。私が記念碑にいる間、一人の年配の女性と一組の中年のカップルが記念碑を見に来た。カップルの女性が鳥居に刻まれた「大漁」の意味を尋ねてきたので、私は「ビック・キャッチだと思いますよ」と答えた。記念碑は消防局の隣にあり、その先は軍関係者以外立ち入り禁止だから、彼らはわざわざ記念碑を見に来たようだった。

鳥居の記念碑の刻まれた文字は強い朝陽にくっきりと見えた。

二人の漁師のブロンズ像も存在感があった。強い朝の光で完全な逆光だったので内蔵ストロボを発光したが、この時の空気感を失わずに写ってくれた。

顔半分が影になっていたブロンズ像。実存する人間を目の前にしたつもりで光が当たる目にフォーカスした。

英訳もされていたが、繊細な気持ちを訳すのは難しいと思う。

年配の女性は展示されていた全ての資料を時間をかけて見ていた。

消防局を保護するように積み上げられた石の防波堤にいたペリカンを記念碑から撮影。

日本人漁村跡の記念碑は、人工的につくられた大きなターミナル・アイランドの西南に突き出た小さな岬のような部分にあり、かつて3000人以上の日本人が住んでいた形跡は記念碑以外見当たらなかった。記念碑の南には大きな施設が見えたが、政府の人間以外は立ち入り禁止のようだった。私はどこからどこまでがターミナル・アイランドなのかよくわからず散策したが、車を停められる場所は少なく、政府関係者と港に属する人間以外あまり大きな行動はできない雰囲気があった。そして、陸橋から写真を撮っているとどこからともなく警備員が現れ、退去を命じられた。

日本人漁村跡の記念碑付近にある倉庫のような建物。この日は人の気配がなかったが、爽やかな朝陽にレンズを向けたくなった。

約250隻の船を操る日本人漁師が活躍したフィッシュ港。多くの人は缶詰工場で働いたようだ。

ツナ・ストリートからフィッシュ港沿いのワーフ・ストリートに出て撮影。

ターミナル・アイランドのほぼ中央の陸橋から大型トラックが行き交うヴィンセント・トーマス橋を撮る。

ターミナル・アイランドの太平洋に面した部分には規制があって行けず、東の空を見ると火災のためと思われる煙が上がっていた。何だかあまり心地よい雰囲気ではなくなってきたので、ヴィンセント・トーマス橋を渡りターミナル・アイランドの西へ移動した。地図で見ると、日本人漁村跡の記念碑が建つターミナル・アイランドの西の水路はメインチャンネル、そのまた西はイーストチャンネルと名付けられている。私は、イーストチャンネル沿いの先端に停泊する朝鮮戦争とベトナム戦争に使われた輸送船「SS Lane Victory」に立ち寄ってみた。