第142回:黄金色に染まるイースタン・シエラ
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第142回:黄金色に染まるイースタン・シエラ

あんなに高かった太陽も傾き渓谷の西側は陰になった。黄葉したアスペンは遅い午後の光を浴び黄金色になって輝いた。すれ違い際に話したカップルが「この時間では遠くまで行けないけど、もう少しだけ先へ歩いてみるよ」と言い、眩しいぐらいに輝くアスペンの森の中へ歩いて行った。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM | Art | ファイルサイズ:5.84MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:25mm

USルート395を南下しネバダ州からカリフォルニア州に入り、車の窓を開けると冷たい朝の空気が車内に入りこんで、眠気が吹っ飛び自然と気合が入る。立ち寄らずに通り過ぎようと思っていたトパーズ湖が左手に見えている。七色の虹のような光が湖面に美しく映り込み、見逃せない光景だった。さわやかな朝の風にも誘われ、ハイウェイから逸れて湖がよく見えそうな場所を探す。湖面に映る虹色の光は短い命だった。湖岸のホテルの駐車場に来ると虹色は失われていたが、それでも色鮮やかさはまだ少しだけ残されていた。

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ネバダとカリフォルニアの二つの州にまたがるトパーズ湖。東の空に薄い雲がかかり、そのせいか太陽は色鮮やかな光となった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 18-300mm F3.5-6.3 DC MACRO OS HSM | Contemporary | ファイルサイズ:9.99MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:70mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136 | ファイルサイズ:9.99MB

トパーズ湖からUSルート395をさらに南下して行くと、山の斜面が迫りシエラネバダ山脈の麓に入ったと感じる。650kmに渡りカリフォルニア州を縦貫するシエラネバダ山脈は、ヨセミテ国立公園、キングス・セコイア国立公園が山脈内に位置し、アメリカ本土最高峰のマウント・ホイットニー(標高4,418m)が聳え立ち、とてつもなく奥が深い。写真家のアンセル・アダムス、ナチュラリストのジョン・ミュアーもこの山脈を舞台に活動した。

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湯気が上がり地図でHot Creek と記されているが、クリークに手を漬けてみると温かい。シエラネバダ山脈には熱水が湧き出るクリークをよく見かける。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 24-35mm F2 DG HSM | Art | ファイルサイズ:17.59MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136 | ファイルサイズ:17.59MB

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秋色に染まったイースタン・シエラ。もうすぐ冬になり雪に覆われる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 20mm F1.4 DG HSM | Art | ファイルサイズ:12.69MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:20mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136 | ファイルサイズ:12.69MB

塩分濃度が非常に高いモノ湖に近づき、ランディー・キャニオンに入る。昨年この渓谷に入ったのは遅い午後だった。標高2,500mのトレイル・ヘッドを歩きはじめてすぐに見えた滝は山の陰になり、「来年は陽が当たる滝を見たいな」と思い帰宅した記憶が蘇る。晴天下の山では、朝と夕方の山陰の出方が全く異なる。この日は午前9時に渓谷に入り、ミル・クリークをせき止めたランディー湖まで朝の10時に上がった。

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標高2,380mのランディー湖。黄葉したアスペンは黄金色に輝く。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 35mm F1.4 DG HSM | Art | ファイルサイズ:13.62MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:35mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136 | ファイルサイズ:13.62MB

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ランディー湖は太陽がいっぱいだった。朝陽が反射し、空の青が湖をさらに青くする。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 18-300mm F3.5-6.3 DC MACRO OS HSM | Contemporary | ファイルサイズ:12.92MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:113mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136 | ファイルサイズ:12.92MB

湖面が光るランディー湖からミル・クリーク沿いを上って行くと道は狭いダート道になり、 ビーバーが作った幾つかの池と湿地帯の横を通り、トレイル・ヘッドに到着する。トレイルを歩き始めて間もなく、ビーバー・ダムでせき止められた池越しに滝が見える場所を見つけた。ビーバーは外敵から身を守るため、かじり倒した木や枝、石、泥、砂、草、葉等、使えるものは何でも使ってダムを作り、クリークの流れをせき止めて池を作る。そして水面が一定の高さになった池の真ん中あたりに木を積み上げ巣を作る。巣の出入り口を水中に作り外敵の侵入を防いでいる。

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常緑樹の多いビーバー湖周辺に数本の黄葉したアスペンが際立っていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 35mm F1.4 DG HSM | Art | ファイルサイズ:16.19MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200 秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:35mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 × 4704 | ファイルサイズ:16.19MB

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ビーバー・ダムと池、その向こうに滝が見え、黄葉した周辺のアスペンが水面に映り込む。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 20mm F1.4 DG HSM | Art | ファイルサイズ:14.28MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:20mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136 | ファイルサイズ:14.28MB

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念願だった陽が当たる滝が見えた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA APO MACRO 150mm F2.8 EX DG OS HSM | ファイルサイズ:31.43MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:150mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136 | ファイルサイズ:31.43MB

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黄葉したアスペンの森と滝が映り込み、鴨が泳ぐビーバー・ポンド。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA APO MACRO 150mm F2.8 EX DG OS HSM | ファイルサイズ:12.40MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:150mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136 | ファイルサイズ:12.40MB

午前中に思った以上の収穫を得た私は、気分良くランディー・キャニオンを下りた。シエラネバダの東の斜面であるイースタン・シエラの旅に欠かせないハイウェイ・USルート395に戻り、約60km南へ走ると左手にマンモス・ヨセミテ空港が現れる。そこから空港を背にして約3.5km上り、去年この辺りで写真を撮っている最中、私に話しかけてきた男性が「アスペンがすごくきれいだった」と言ったコンビクト湖へ立ち寄った。山道は舗装工事のため一方通行で、ハイウェイから湖の往復時間は通常の4倍以上の時間がかかった。湖の駐車場付近も工事中でコールタールの匂いが漂い、釣り人で賑わうコンビクト湖は美しかったが長居はしなかった。

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今年の黄葉は昨年より少し遅いのだろうか。コンビクト湖周辺のアスペンはまだ緑の葉も見えた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 20mm F1.4 DG HSM | Art | ファイルサイズ:11.62MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:20mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136 | ファイルサイズ:11.62MB

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ほんの少し前に散ったのだろうか。アスペンの葉が静かな湖面に浮かんでいた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 18-300mm F3.5-6.3 DC MACRO OS HSM | Contemporary | ファイルサイズ:7.81MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320 秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:160mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136 | ファイルサイズ:7.81MB

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廃墟になったUSルート395沿いの家。ローカルな道から撮影。

使用機材:SIGMA dp2 Quattro | ファイルサイズ:18.96MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424 × 3616 | ファイルサイズ:18.96MB

コンビクト湖からUSルート395に戻ると、ハイウェイと並行しているローカルな道を南下し、マギー・クリークまで走る車もほとんどない道をゆっくりと走った。そして、昨年、立ち寄った際、黄葉がピークだったマギー・クリーク・キャンプ場に向かった。

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マギー山を背景に、1本のアスペンが平坦な土地にポツンと立っていた。周囲に何もないので風をまともに受けるからだろうか、黄葉前に葉を落とし始めていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM | Art | ファイルサイズ:16.31MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:35mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136 | ファイルサイズ:16.31MB

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マギー・クリーク・キャンプ場。昨年と同じ時期に来たが、黄葉はまだピークを迎えていなかった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 20mm F1.4 DG HSM | Art | ファイルサイズ:17.13MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:20mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136 | ファイルサイズ:17.13MB

昨年より二日だけ早かったが、標高2,316mのキャンプ場周辺のアスペンはピークまでまだ少し時間があった。今年の黄葉は遅いとは聞いていなかったが、マギー・クリーク沿いを登るつもりでいた私には好都合だった。トレイル・ヘッドまで上り車を停め、標高2,400mから歩き始める。黄葉したアスペンの数は増えてくるが、黄葉前でもすでに葉を落としているアスペンを見かける。「今年の黄葉は不作なのかな」少し心配になり緩やかなトレイルを登って行く。空気は澄み渡り、空は青く、暑くもなく寒くもない申し分のない天気だった。強い太陽光をいっぱい浴びながら登っていくと、全身に強いエネルギーが注がれ頭の中がどんどんシンプルになっていく。そして、その場に存在している充実感に満たされる。すれ違ったカップルの笑顔は素敵だった。二人も私と同じ快感を得ていたのだろう。黄葉が不作かどうかはどうでもよくなってきた。

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標高2,400mのトレイル・ヘッド付近。黄葉はピークを迎え、最高のハイキング日和。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 24mm F1.4 DG HSM | Art | ファイルサイズ:16.44MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 × 4704 | ファイルサイズ:16.44MB

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クリーク沿いのアスペンの森へ行く以外、陽射しを避けるものが何もないトレイル。夏は過酷だが、秋晴れのこの日は快適な登りだった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM | Art | ファイルサイズ:16.31MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:18mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136 | ファイルサイズ:16.31MB

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トレイルから離れてマギー・クリークまで下り、水の流れにしばらく耳を傾ける。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM | Art | ファイルサイズ:13.36MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125 秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:18mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 × 4704 | ファイルサイズ:13.36MB

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例年なら葉も落ち始めている高さまで登るが、まだ緑の葉も見えた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM | Art | ファイルサイズ:15.37MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:19mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136 | ファイルサイズ:15.37MB

陽が山に隠れはじめ、私はそれ以上先へ登らずトレイルを引き返した。標高は2,700mほどだったと思う。すれ違ったカップルは、まだ先へ行くと言い残して登って行った。カップルの姿を見送っていると、大きくなった山陰に二人は消えた。トレイル・ヘッドに戻ると小さな駐車場に停まる車がまだ何台かあり、その中には今晩山の中で寝る本物の登山者もいるだろう。

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午後4時になると太陽が山に隠れはじめ、カップルが山陰に消えて行った。超広角ズームレンズで光と影の世界を捉える。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | ファイルサイズ:8.45MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:11mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136 | ファイルサイズ:8.45MB

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下山途中、数秒ごとに変わる光のマジックを撮る。撮影しカメラをバックにしまうと光を失い陰の世界になった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM | Art | ファイルサイズ:18.47MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:35mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 × 3136 | ファイルサイズ:18.47MB

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下山してくると、東の山と平野部にまだ強い光が残っていた。

使用機材:SIGMA dp1 Quattro | ファイルサイズ:12.44MB | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:19mm | ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424 × 3616 | ファイルサイズ:12.44MB

私が引き返した地点からさらにマギー・クリーク沿いを3、4時間ほど登ると池があるようだから、花が咲く春から初夏にそこまで登ってみたい。その先はまだまだ続いているが、そうなるとテント持参の登山になる。カメラ機材と一緒だとちょっと厳しいかなと思う。機材をうんと少なくしてカメラボディ1台にレンズ2本、それに小さな三脚。問題は水だ。そんなことを考えながら帰路に付いた。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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