使用機材:SIGMA SD1 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F4.5 | 焦点距離:147 mm
押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/
使用機材: SIGMA SD1 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.0 | 焦点距離:200 mm
降り出した雨は午後になると本降りになった。大きなトラックの後方を走ると、道路の表面から水しぶきがフロントガラスを直撃し、ワイパーを最高速度に動かしてもまだ前方がよく見えない。私はロングアイランド・エクスプレスウェイ(通称 LIE)をマンハッタン島に向け西へ走っていた。LIEをそのまま西へ行くとミッドタウン・トンネルを潜りマンハッタン島に進入するが、その少し手前でブルックリン・クイーンズ・エクスプレスウェイ(通称BQE)に繋がる道に入る。LIEとBQEのふたつのハイウェイが重なり合うように交差して屋根となり、その下を通る区間の狭い道に雨は届かず、ワイパーを止める。前方にも左横にも大型トラックが付き、この区間、車はほとんど前に進まない。BQEに入り南へ少し走ってブルックリンに差し掛かると雨は止み、やっとまともな速度で走り始めるとすぐにウィリアムズバーグ橋を渡り、ローワー・マンハッタンと呼ばれるマンハッタン島の南の部分に到着する。雑踏のマンハッタン島を横切り、ハドソン川の底を通るホランド・トンネルに潜り、再び地上に出るとニュージャージー州となり、そのままインターステート・フリーウェイ78(I-78)に入り西へ行く。ペンシルベニア州に入り少し走るとフリーウェイから出てUSルート222を西南に走り、マンハッタン島から約150マイル(240km)の距離、ペンシルベニア州ランカスター・カウンティーに足を踏み入れる。もうすっかり夜になった暗い道を走り、あるサイトで見つけたアーミッシュの経営かと思わせる名のモーテルに到着すると、経営者はインド系の人だった。翌朝目を覚ますとモーテルの周囲は大きな畑に囲まれていた。モーテルの側の大きな納屋がある一軒の農家には、男性は淵付きの黒い帽子を被り黒い洋服を着て、女性も黒い洋服に黒いキャップを被った人々が続々と集まって来ていた。歩いて来た若者に、「今日は何かの祝い事でもあるの?」と尋ねると、「いつも通りのサービスです」と答えた。
使用機材:SIGMA SD1 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F3.2 | 焦点距離:200 mm
使用機材:SIGMA SD1 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F3.2 | 焦点距離:200 mm
使用機材: SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:14 mm
使用機材: SIGMA SD1 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:200 mm
この地域の知識をほとんど持たない私は、ガソリンスタンドで教えてもらったインフォメーション・センターに立ち寄った。車も持たずテレビや電話のない生活をし、農耕や牧畜によってほぼ自給自足に近い生活しているアーミッシュと呼ばれる人々の生活を紹介するショートフイルムを観た後、案内係の女性としばらく話しをした。 『16世紀、キリスト教の宗教改革が進む中、成人になって自らの判断で洗礼を受ける(二度目の洗礼)アナバブティスト(Anabaptist)再洗礼派と呼ばれる人々が現れる。その中から、オランダ再洗礼派のメノー・シモンズ(Menno Simons)が、ひとつのグループをつくり、メノ・ナイト「メノの仲間たちの意」と呼ばれる。16世紀の終わり、ヤコブ・アマン(Jacob Amman)は、メノ・ナイトを離れてより保守的な派をつくる。派は彼の名前からアーミッシュと呼ばれる。アーミッシュは、当時の政治権力からもプロテスタントからも迫害を受け、18世紀、迫害から逃れてアメリカペンシルベニア州、ランカスター・カウンティー近くに移住。商用電源は使用せず、風車、水車によって蓄電した電気を利用する。今もアーミッシュは車を持たないが、メノ・ナイトは車の免許を持つことが許されていて、一般的にはメノ・ナイトも含めてアーミッシュと呼んでいる。現在も移住当時の生活に近い生活をしているアーミッシュの人口は少しずつ増え、現在、ペンシルベニア州オハイオ州を中心とし米22州に約25万人(2010年)のアーミッシュが住んでいるといわれている。』以上が、私の大まかなアーミッシュの人々に対する理解で、「食事中に電話がかかってきたら家族の輪が乱れるので、アーミッシュの家には電話はないんですよ」と説明した案内係の女性の言葉に、我が家の夕食時の姿勢を反省する。 朝、農家の納屋の前で、「お祈りの集まりですか?」と声をかけると、家主でグループのリーダーと思われる立派なアゴヒゲをたくわえた老人は、「君には理解できないよ」と小さな笑顔で返し、老人の分厚いメガネが目に焼きついていた私は、これ以上、細かい教え等を理解しようとは思わなかった。 案内係の女性は、この地域の様子が分かりやすいドライブコースを地図に記してくれ、インフォメーション・センターを出た後、私はその通りに車を走らせた。車の交通量の多いUSハイウェイ30から農場の中を走る道に入ると、良く舗装された道は大きな農場を緩やかに走り、サイクリングコースとしても最適な道に思えた。
使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:38 mm
使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm
馬で引く屋根付きの馬車はよく見たが、屋根のない馬車も何度か出会あう。どこからともなく馬の足音が聞こえてきて、次に馬車の車輪の音が聞こえ、気が付くと馬車が遠くに見え、目の前を通り過ぎ、あっという間にどこかに行ってしまう。
使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm
インフォメーション・センターで、地図に記された道を走って行くとアーミッシュの人々の生活を垣間見ることができた。道端に野菜や漬物が置いてあったので近寄って見ていると、庭掃除をしていた若い女性が、「好きなものを取って、箱にお金を入れておいて下さい」と言った。私はキュウリの漬物を取り、1ドル札3枚を箱に入れた。
使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:33 mm
使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:40 mm
大きな農家の前に来ると、数台のトラックが停まりアーミッシュでない人々が去って行くところだった。黒い洋服を着たアーミッシュの若者に、何が行われているのか尋ねると、牛のオークションが終わったところで、「今日はいいオークションでしたよ」と若者は言った。1頭いくらぐらいで売り買いするのか尋ねると、「牛もいろいろあるから、はっきりとは言えないけれど、今日は1800ドルぐらい?かなー」と答えた。
使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:50 mm
使用機材:SIGMA SD1 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F3.2 | 焦点距離:200 mm
使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:17 mm
馬は、ランカスターの農地風景に欠かせないもののひとつで実に多くの馬を見た。中でも印象に残った馬は、リズミカルな音を立てて馬車を引く馬と少し違う足の太い馬だった。
使用機材: SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:43 mm
インフォメーション・センターで勧められた道を時々停まりながらのんびりと走り、気が付くと陽が落ちる時刻になっていた。午後から雲っていたランカスター・カウンティーの農地に、この日夕焼けは見られなかった。冷え込んできた秋の夕暮れにも、馬車を引く馬の足音はどこからともなく聞えてきて、ライトをつけた馬車が目の前を通り過ぎて行く。
使用機材:SIGMA SD1 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F2.8 | 焦点距離:157 mm
USハイウェイ30沿いには、アウトレットモール、ショッピングセンター、ゴルフ場があり、レストランと宿が建ち並び、この地を訪れる人の多さを感じる。この夜、私は大型チェーン店のモーテルに宿泊した。私の部屋は、ハイウェイに面していた。通り行ゆく何台もの車とモーテルの隣に建つガソリンスタンドの煌煌とした照明で、窓ぎわは十分明るく、部屋のライトをつけずに外を見ながら、昼間、道端で買ったキュウリの漬物をつまみにビールを飲む。キュウリはよく漬かっていてとても柔らかくいくつでも食べられた。近年、土地不足ですべてのアーミッシュの若者が農業に就けるとはかぎらないと、昼間インフォメーション・センターで聞いたことと、夕暮れの暗い道で、馬車を操るアーミッシュの若者のかすかに見えた笑顔を思い出す。 翌朝、陽が昇る前にモーテルを出ると、前日と同じ農地を走る道を行く。地平線から陽が昇ると、農地が赤く染まり、生命力に溢れた清々しい一日が始まった。
使用機材:SIGMA SD1 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F3.2 | 焦点距離:200 mm
使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:16.6 mm
前日、盛大に牛のオークションは行われていた農家の前に来ると、その周辺には人の出入りのない物静かな朝の光景があった。
使用機材: SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:17 mm
使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:26 mm
収穫を終えたトウモロコシ畑は枯れた色をしていた。それとは対照的に、牧草の緑が濃く目に焼きついた。
使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1600秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:85 mm
使用機材:SIGMA SD1 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:200 mm
インフォメーション・センターで地図に記された道のスタート地点近くに戻ると、朝の空気から昼の空気に変わっていた。空は雲が覆い始め、朝陽に輝いていた農地に陽の光りが届かなくなった。牧草を刈り取る若いアーミッシュの男性が仕事を終え、私の方を見たので手を振ると、彼も手を振った。近づいて握手を交わすと、ごつごつした力強い彼の手の平の感触に、農地で生きるとはこういうことなのかと思う。「私はLAに住んでいて、写真の仕事をしているんです。楽ではないですよ」と伝えると、「ここも同じですよ」と、彼は私の顔を真っ直ぐに見て言った。 「ランカスター・カウンティーは、ゆっくりして一息付く場所です。急いで一日をはじめるのではなく、子供たちの笑いと農場の匂いと新鮮な朝食と共に目覚めてはいかがですか?」と観光ガイドにあるが、この地で農業を営む人にとって、ゆっくりして一息付く場所でないようだ。
※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。