押本龍一－私の出会う光景－第39回：オレゴン州、セントラル・コースト、ノース・コーストの夏

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。 91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

オレゴン州、太平洋岸沿いのデポー・ベイ（Depoe Bay）。
時々海面から姿を現すクジラを太陽の反射がまぶしい海にさがす人々。

私は、サウス・オレゴン・コーストを南から北上し、暗くなる前にセントラル・コーストに入り最初に出会う大きな町、フローレンス（Florence）に宿を見つけた。小さなモーテルの小さなフロントデスクで部屋の鍵を受け取る際、「暖房はスイッチを入れてから少し時間がかかりますけど、30分もすれば効いてきます」と、オーナーらしき年配の女性が念を押すように私に告げた。7月第2週目、アメリカ南西部の暑さからはとても想像ができない寒い夏の夜だった。翌朝、日の出前にモーテルを出てハイウェイ101を少し南に下り、砂丘の中を走る道（Sand Dunes Road）を西へ行き海岸に出る。海岸線は大きな砂浜のような地形で、フローレンスから南のクース川（Coos River）までの間、約40マイル（64km）の海岸線はオレゴン砂丘（Oregon Dunes）と呼ばれている。

海辺に元気のいい草が生えていた。
海霧が切れ、東の空から差し込む朝陽に草が輝く。

砂浜沿いに小高い丘が続き、そこには草が茂り朝露が光る。
東から朝陽、西からは海風、清々しい海辺の朝を切りとる。

2匹の犬を連れた男性が、小高い丘を登って砂浜に出ようとしていた。
大口径標準レンズで、平和な朝の海辺をしっかりと記録する。

橋を渡りフローレンスの町に戻ると、シアスロー川（Siuslaw River）沿いに出る。この朝の海はとても穏やかだったが、押し寄せる波の音がまだ耳元に残っている私には、川沿いは、音のない時の流れがとてもおそい空間に感じた。

川沿いに来ると霧に包まれ、1936年3月31日開通した長さ1,568 ft（478 m）のシアスロー・リバー・ブリッジ（Siuslaw River Bridge）が、霧に霞んで神秘的に見えた。静かな動きの少ない光景、カメラを三脚に載せ静かにシャッターを押す。

河口に位置する淡水の港、フローレンス港。川が流れてくる東の空に厚い雲がかかり、雲が川に反射する色の少ない光景。モノクロにすると雲の存在感が増した。

フローレンスから北上すると、海風が強い険しい岸壁に出る。地面がしっとりと濡れている岸壁の上に立つと、霧が切れ陽の光が届き始めた小さな岬には、赤い屋根の灯台がくっきりと見えた。

1894年に灯が点ったハシータ・ヘッド灯台（Heceta Head Light）の灯りは、21マイル（34km）先まで届くオレゴン・コーストで一番明るい灯台。雨が上がり天気が回復したような空気感と共に、数秒ごとに光る灯台を撮影。

岸壁から見えた美しい海岸まで下って歩いてみたが、岸壁の上から見えた景色の方が私は好きだった。ハイウェイ101をさらに北上すると空は雲に覆われた。海岸は、岩があり砂浜も広がる変化に富んだ景色が続き、海岸の町、ヤハッツ（Yachats）を越えると平らな浜辺の横をしばらくは走った。

浜辺の林を抜け、砂浜に凧を上げに行く。二人の孫を連れたお婆さんに付いて、私も砂浜に向かった。

霧に包まれた砂浜には、凧上げをする人が多かった。強い風に体が動かないよう砂浜にしっかり立ち、高倍率超望遠ズームレンズで撮影。

砂浜が続く景色に、突然大きな岩が現れた。（Seal Rock State Wayside）黒く硬い岩の間から海水が流れ込む。その向こうには、かすかに水平線が見える不思議な光景だった。

大きなヤキーナ川（Yaquina River）を渡り、大きな街、ニューポート（New Port）に来ると、空を覆っていた雲はどこかに流れ去り暖かい午後になった。灰色の空と霧に包まれた寒い海岸から来ると別世界に感じるほど気温は上昇した。

暖かい午後の陽が差し込むニューポートのヤキーナ川沿い。軽装で散歩をする人の姿を見かけた。

ニューポートから少し北に走り、岬のほぼ全体が保護された公園地帯（Yaquina Head Outstanding Natural Area）になっているヤキーナ岬（Yaquina Head）に立ち寄った。私は、入園料を払い、岬先端の灯台まで行くとすぐに岬から出てしまったが、ヤキーナ岬には、一日中過しても飽きない景色と地形が広がっていた。

オレゴン州で一番高い93 ft（28m）のヤキーナ・ヘッド・灯台（Yaquina Head Light）。

ヤキーナ岬は、ウミガラス（Murre）の大きな繁殖地。

さらに北に走り、デポー・ベイ（Depoe Bay）まで来ても海岸線には霧がかかることはなく、西の空も快晴だった。海岸の小さな町に立ち止る気はなかったが、西の陽の光がまぶしい太平洋を眺める人々の姿に誘われ、車を停め彼らに近づくと、彼らはクジラが遠くにいると私に教えてくれた。ことときクジラはあまりその姿を現すこともなかったが、遠くにその存在を数回目撃することができた。

いつ、どの辺に姿を現すか分からなかったクジラは遠くにいた。高倍率超望遠ズームレンズで、少しだけ見えたクジラの姿を捉える。

デポー・ベイから少し北の海岸。日没を待つ穏やかな海をセピア色に仕上げた。

この日は、クジラを見たデポー・ベイから北へ走り、ビジターガイドの地図上でセントラル・コースト最北端の町であるリンカーン・シティーまで走り宿泊した。翌朝、オレゴン・コースト・ハイウェイ（ハイウェイ101）を北上すると海岸から離れてしばらく森の中を走り、再び海岸線に近づき、陽が昇り明るくなると畑が広がる風景の中を走った。海岸線を走って来た私には、海が見えない景色の中を走るのは少し損をした気持ちがした。地図を見るとハイウェイ101は、このまま大きく海岸線から離れて走るのを知った私は、ハイウェイから逸れてパシフィック・シティー（Pacific City）まで西に走り、ノース・オレゴン・コーストに入った。

海岸に来ると薄い霧がかかり、空は雲に覆われた。海に浮かぶように見えるヘイスタック・ロック（Haystack Rock）と、朝陽が当たるキワンダ岬（Cape Kiwanda）が霞んで見えた。

パシフィック・シティーからは、厚い雲と霧に包まれた道をゆっくりと北に走り、海岸線を見下ろせる小高い山を上り再び太平洋岸沿いを走る。

ハンググライダーで海岸線に向かって飛び出すポイントとしても知られる場所から。
霧がかかるこの日、墨絵のような風景に見えた。

宿泊施設もレストランも小さい小さなコミュニティー、オーシャンサイド（Oceanside）。静かで落ち着きを感じ、数日間滞在したい海岸だった。

高さ38 ft （12 m）のケープ・ミアーズ灯台（Cape Meares Light）は、繋がる道を歩いて行くとライトハウスと同じ高さから灯台を見ることができる。カメラを三脚に載せ、1890年から1963年まで灯が燈っていたライトハウスをしっかりとフレーミングして撮影。

ケープ・ミアーズ灯台からは、ティラムック湾（Tillamook Bay）沿いを走り、湖からいったん離れティラムックの町で再びハイウェイ101に戻る。

長さ6マイル（10 km）、幅2マイル（3 km）のティラムック湾。大きな湖にも見える湾の南岸は、数軒の家が建つ以外、人の気配がない。

ハイウェイを北へ進むと、ティラムック湾の東岸に出る。そのまま湾沿いを走り、湾の北岸の町、ガリバルディ（Garibaldi）に来ると、シューという音を上げて煙を出す蒸気機関車を見かける。

煙を出す機関車は、Oregon Coast Scenic Railroad。シルエットになった機関士と蒸気機関車から出る煙が、曇り空を背景に印象的だった。大口径標準レンズを煙に向け、すばやくシャッターを押す。

海岸線をさらに北上すると、町がいくつかあり、どの町も多くの観光客で賑わっていた。洒落た町並みのマンザニータ（Manzanita）では、一杯のコーヒーを買うため車を停める場所を探すのに一苦労する。「夏休みの金曜日、この先の北の海岸には多くの人が内陸部から遊びに来るので、今晩は宿を予約した方がいいですよ」と、コーヒー店の女性が私に忠告する。この日、私はコロンビア川沿いの大きな街アストリア（Astoria）まで北上するつもりでいたが、キャノンビーチ（Cannon Beach）を超えて少し北に走り、アストリアまで約20マイル（32km）ほどの地点で東へ向かい海岸線を後にした。海岸線から離れて東に向かう私の対向車線は、ポートランド方面から来る車が切れ目なく繋がっていた。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。