第36回:キャニオン・デ・シェイ・ナショナル・モニュメント(Canyon de Chelly National Monument)
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。 91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

アリゾナ州北東部、ナバホ・ネーションの渓谷に陽の光が差し込む。1931年にナショナル・モニュメントに制定されたキャニオン・デ・シェイには5000年近く前から人間が住み始め、谷底ではいまもナバホ族が家畜を飼い畑を営んでいる。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:11 mm

5月後半の曇り空の下、私はアリゾナ州北東部、USルート191号を北上した。緩やかな丘陵地帯を走る道に急いで走る車はなく、柵のない人家が時々見え、交通渋滞が存在しない道をゆっくりと走り続ける。ガナード(Ganado)という集落に到着すると、店がほとんどなかった道を走ってきた者には、大きく見える店が1件建っていた。夜の酒とつまみを求めて店内にはいるが、酒が見当たらない。「お酒は買えませんよ、リザベーション内では」。どこで酒が買えるか質問をした私に、レジの若い女性が無表情で答える。私はナバホ・ネーションに足を踏み入れていたのだ。店を出るとすぐに見えた「歴史的なサイト」と書かれたサインに従い少し走ると、ハッベル・トレーディングン・ポスト(Hubbell Trading Post)と呼ばれる国立史跡に誘導されるように着く。アメリカ軍によりこの地から約300マイル(500km)東のボスク・レドンド(Bosque Redondo)へ強制的に移動させらていたナバホ族が、この地に再び戻ることを許されたのが1868年。その10年後(1878年)、ジョン・ロレンッンツ・ハッベル(John Lorenzo Hubbell)は、この交易所を購入した。交易所は、この地の重要な物と情報交換の場となった。1965年、ナショナル・パーク・サービスに購入され、現在もその歴史を感じることができる。

large
thumbnail-01

現在もその役目を果たしているトレーディング・ポスト(交易場)の建物の正面。 大口径望遠レンズは、この地に刻まれた生活を感じる光景を自然な遠近感で刻み撮る。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:85 mm

large
thumbnail-02

農作業に使用したものだろうか。つくりはしっかりとしていて存在感がある。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:23 mm

私はトレーディングン・ポストからさらに州道191号を北上した。広い大地が続き草原には馬の姿があり、大きいが静かな景色だった。

large
thumbnail-03

風は強く少し肌寒い草原。馬が自由に動き回り、枯れたように見える草を食んでいる。
風に吹かれながら大口径望遠ズームレンズを遠くの馬に向け、シャッターを押す。

使用機材:SIGMA SD1 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1250秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:168 mm

大きな集落チンリ(Chinle)に到着すると191号から東へ走り、すぐにナショナル・モニュメント内に入る。ビジターセンターのそばにあるキャンプ場に行くと「ノー・フィー・エリア」と書かれたサインが立っている。キャンプ場で気に入ったサイトに小さなテントを張った後、ビジターセンターに立ち寄り行動予定をたてる。キャニオン・デ・シェイ・ナショナル・モニュメントは、ビジターセンター付近から北を走る道(North Rim Drive)と、南を走る道(South Rim Drive)に分かれている。私は北の道を走り渓谷の上に立った。空は雲で覆われ、渓谷の上には強い風が吹き肌寒い。しばらくすると雲の切れ目から陽の光が差し始め、気温も上がり、それまで寒そうな色をしていた渓谷に色が戻った。

large
thumbnail-04B

キャニオン・デ・シェイ・ナショナル・モニュメントにはいくつかの渓谷があり、この渓谷はCanyon Del。曇っていた西の空から時より陽の光が漏れ、ドラマチックに渓谷を演出する。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:40 mm

large
thumbnail-05

岩の間から育つジュニィパー・ツリー(Juniper Tree)。ねじれているほどその土地にはパワーがあると、聞いたことがある。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:24.2 mm

large
thumbnail-06

太陽が低くなると、深い渓谷の底に陽の光は届かなくなった。

使用機材:SIGMA SD1 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm

陽が沈む少し前に西の空は雲で覆われ、この日夕焼けは見られなかった。私は暗くなったキャンプ場で湯を沸かしパスタをゆでた。ワインなしの夕食は味気なく早々とテントに入る。寝袋にもぐりデジタルカメラのモニターでこの日撮った写真を確認した後、すぐに寝てしまった。翌朝、朝の渓谷を眺めるため、陽が昇る前に標高5510ft(1680m)のキャンプ場を出てサウス・リム・ドライブを走る。

large
thumbnail-07

朝陽を浴びた岩肌に、地球のエネルギーを感じる。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/40秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:38 mm

large
thumbnail-08

谷底のナバホ族の畑にすがすがしい朝陽が差し込む。
鳥のようにさりげなく、ここから飛び発ちたいと思いながらシャッターを押す。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:24.2 mm

large
thumbnail-09A

自然が創作した彫刻の上を子供のように歩き回り寝転んでみると、硬い岩は優しく暖かかった。
超広角ズームレンズで、岩の表面、空、渓谷を大きく写し込む。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm

陽が昇ると気温が上がりはじめた。私はキャンプ場に戻り朝食を食べる予定を変更し、涼しい朝のうちに渓谷の下まで下り再び登るトレールを歩き始めることにした。19世紀の中ごろから、ナバホ族が住む渓谷にアメリカ軍が入り込むようになり、1864年1月、8000人から9000人のナバホ族は、強制的にこの地からニューメキシコ州のボスク・レドンドの強制収容所に移動させられた。300マイル(500km)の18日間の旅で少なくとも200人が死んだ。約束されていた強制所での生活も悲惨なもので、強制収容されたナバホの25パーセントは死んだ。1868年6月にこの地に戻ることが許されたが、昔の家も畑も家畜もなくなっていた。キャニオン・デ・シェイには、悲惨な人間の歴史も刻まれている。

large
thumbnail-10

ガイドなしに渓谷の下に降りることは、ナショナル・モニュメント内では禁じられていてるが、この地に住んだ人の住居跡のひとつ(White House Ruin)までのトレールは、唯一単独で歩けるトレール。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

large
thumbnail-11

渓谷の下に降り見上げると、野生の白ヤギだと思われる白い動物が小さく見えた。登りのトレールのことを考え望遠レンズを待たずに降りたことが悔やまれた。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:85 mm

large
thumbnail-12

ホワイトハウスと呼ばれる住居跡。ナバホによって建てられたものでなく、彼がこの地に入る以前、今から1000年前に古代プエブロ人(Ancestaral Puebloan)によって建てられた。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/80秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:85 mm

large
thumbnail-13

いくつもの住居跡があり、ビュアーで住居跡を見つけ出すのも楽しい。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

トレールを登り一汗かいた後、サウス・リム・ドライブの最終地点まで走り大きく細長い岩を見た。

large
thumbnail-14

高さ800ft(240m)のスパイダーロックと呼ばれる細長い岩を見下ろす。

使用機材:SIGMA SD1 + 50 mm (17-50) | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm

large
thumbnail-15

駐車場付近で見かけた大きなトカゲ。超望遠レンズを長く伸ばし、逃げられないように静かに撮影。

使用機材:SIGMA SD1 + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:450 mm

キャンプ場に戻りランチを食べた後、私はテントをたたみ、ノース・リム・ドライブを走りキャニオン・デ・シェイ・ナショナル・モニュメントを後にした。突き当たった道を北に行き、USルート191号を北上した。

large
thumbnail-16

ノース・リム・ドライブにある最後のスポット(Massacre Cave Overlook)で見かけた動物の角がある頭蓋骨が、樹の枝に絡めるように置かれていた。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:50 mm

large
thumbnail-17

USルート191号を北上すると西部らしい大きな風景が広がっていた。道路には柵がなく馬が道路を横断する。
道沿いには買えないはずのビールビンが落ちていた。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:85 mm

USルート191号からは、USルート160号を東へ走った。道は北上し、アリゾナ州からニューメキシコ州に入るとすぐに、ユタ州、アリゾナ州、コロラド州、ニューメキシコ州の4つの州の境が集まったフォーコーナーズに差し掛かる。

large
thumbnail-18

小さなポイント(北緯37度0分0秒、西経109度3分0秒)にカメラを向ける人は多い。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

large
thumbnail-19

この金属板の上に足を乗せれば同時に4つ州のいることになる。マクロレンズで、西日に反射する金属版をシャープに捉え、モノクロにして刻まれた文字を強調。

使用機材:SIGMA SD1 + MACRO 70mm F2.8 EX DG | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:70 mm

周辺には4つのアメリカ先住民族(NavaJo,Hopi,Ute,Zuni)のネーションが存在し、米墨戦争(1846年~1848年)でアメリカが勝利するまで、この地はアメリカという国の境界線の中ではなかった。私は、西日が強く当たるフォーコーナーズに立ってみたが、4つの州にまたがって立っている実感はなかった。感じたことは、人間は境界線を引くのが好きな動物だということだった。

※このページに掲載されたSD1の作品は、全てβ版で撮影されたものです。また、掲載された作品はRAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしています。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

Page Top