第33回:フーバー・ダムからコロラド川沿いを南へ走る
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。 91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

アリゾナとネバダの州境、大きな峡谷に造られた高さ200mを超えるフーバー・ダムから谷底を覗きこむと、巨大なコンクリートのダムと発電所に向かって転がり落ちそうな気がした。
私は谷底に落とさないようにカメラをしっかりと握り締め、超広角ズームレンズで壮大な光景をしっかりと切り取った。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:8 mm

4月中旬、ネバダ州ラスベガスから南東に走り、USハイウェイ93号線沿いのボルダー・シティー(Boulder City)を越えると道は渋滞し、青いミード湖(Lake Mead)が見え始めるまで車は歩くようなスピードで進んだ。フーバー・ダム(Hoover Dam)のサインに従いハイウェイから州道172号線に入ると車の数は減り、検問所を通りハイウェイの下を潜り少し進むとフーバー・ダムが見えてくる。道は右にカーブしながら下り、そして左に180度カーブし、ダムの底に面するコロラド川の西の岩壁に出た。道はダムまで繋がりダムの上を通りアリゾナ州へ続いている。私は多くの観光者と同じように、ダムの手前にある大きな建物の駐車場に車を停め、歩いてダムの上に立った。コンクリートで造られたほぼ半円に見えるダムの上は、ゆっくりと車がすれ違い、道の左右の歩道には多くの人が歩いている。ダムの底を覗かなければ、カーブした少し変わった橋の上を歩いているように感じる。ダムの上から谷底を覗きこみ北側のミード湖を眺めると、自分は大量の水をせき止めている巨大なコンクリートの固まりの上にいることに気付く。

large
thumbnail-01

フーバー・ダムから南を見ると、2010年10月16日に開通した橋、フーバー・ダム・バイパスが大きな存在で、今やダムとセットになった巨大なアトラクションに思える。(橋の正式名:The Mike O'Callaghan – Pat Tillman Memorial Bridge)

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

large
thumbnail-02

ダムの上から発電所を見下ろすと、車が玩具の車のように小さく見える。
この場所から撮影することは、巨大な建物の上にいることを確認する作業でもあった。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 120-400mm F4.5-5.6 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:159 mm

large
thumbnail-03

アリゾナ側からアメリカ最大の人口湖(大きさ247sq mi、640㎢)を見る。ロッキー山脈の雪解け水がダムによってせき止められ、円錐形の建物から水を取り込み、発電所に水が流れ込んでいる。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

私はダムの発電所内を見るためにツアーに参加した。大きなエレベーターで谷底まで降り発電所のジェネレーターを目の前にするが、水の流れは見えず音も聞こえず、水のエネルギーを感じることはなかった。ツアーから戻り再び外に出てダムを眺めると、湖から流れ落ちる水の流れと発電所の関係が理解でき、ここで大きなエネルギーがつくられているのだと納得する。

large
thumbnail-04

発電所は物静かだった。
ツアーに参加した多くの観光者と同じアングルから、手すりにカメラを置いてシャッターを押す。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/10秒 | 絞り値:F3.5 | 焦点距離:40 mm

発電所内部を見た後、駐車場に戻り来た道をゆっくりと進み、フーバー・ダム・バイパスまで歩いて行けるスポットに車を停める。私は長さ1900ft(579m)の橋の真ん中辺りまで歩きダムを眺めた。コロラド川に掛かる橋の上は、風が強く体が動き橋自体も揺れている感じがし、カメラを水平に保つのが難しく構図もうまく決まらない。

large
thumbnail-05

力強さを感じるワイヤーが目を惹いた。路肩につくられた小さな駐車スポットに車を停め、人間が支配しているかのように見える峡谷を写す。
彩度を落としコントラストとシャープネスを上げワイヤーを強調。

使用機材:SIGMA SD15 + 30mm F1.4 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm

large
thumbnail-06

コロラド川の上、約900ft(270m)のフーバー・ダム・バイパスから、1931年に工事が始まり1936年に完成した高さ726.4ft(221.4m)のフーバー・ダムと、その周辺の壮大な風景を見渡す。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm

フーバーダムからは、コロラド川に並行して走るUSハイウェイ95号線を南下した。砂混じりの強い風が吹き寄せるハイウェイをしばらく走ると、東へ向かうと思われる道が見え、その道に入る。道は私の地図には載っていなかったが、コロラド川まで繋がっている別の道が地図上に記されていたので、その道もコロラド川まで繋がってるだろうと思った。道は南東へ走り、小さな集落(Nelson)を超えると東に向かった。集落のそばには鉱山の跡のような場所に土産屋のような店があり、山以外何もない土地では、映画のロケ現場に見えた。

large
thumbnail-07

車がほとんど通らない道に、古い車や建物が展示されるように残されていた。
彩度を落とし、コントラストとX3 Fill Lightを上げ、ノスタルジックな雰囲気を強調。

使用機材:SIGMA SD15 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:フラッシュ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm

コロラド川までは思った以上に距離があり、川はなかなか見えてこなかった。やっと青い川が見えると道は川から離れた丘でぐるりと回って、行き止まりになっていた。道が行き止まりになる少し手前に、丘を下りていく道があった。その道を下ると砂地に数台の車が停まっていた。砂利の下り坂を500mぐらい歩き、コロラド川の岸辺に行くと、川の水と元気に遊ぶ人々の姿を見かけた。コロラド川から西に向けハイウェイに戻る道には、乾燥した砂漠の植物が、暖かい午後の光を受けて美しく輝いていた。

large
thumbnail-08

やっと近づけたコロラド川は、青かった。
川の水面より大分高い岩の丘に立つと、気持ちのいい風が吹き抜けた。

使用機材:SIGMA SD15 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm

large
thumbnail-09

コロラド川の入り江。水で遊ぶ人々の声が響いていた。
彩度を上げ、暖かい午後の光に包まれた入り江を描写した。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:24.2 mm

large
thumbnail-10

西からの陽の光を受けた砂漠の植物に思わず車を停めて、シャッターを押す。
マクロレンズは、植物の存在感を最大限に描写する。

使用機材:SIGMA SD15 + APO MACRO 150mm F2.8 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:150 mm

陽の光がまぶしい西の空を見ながらしばらく南に走ると、小さなタウン、サーチライト(Searchlight)が左手に見えてくる。タウンからは、私の地図に載っていた道を東へ走り、宿泊施設も完備されているコロラド川沿いのマリーナに出た。太陽はすでに沈み、コロラド川に夜の気配を感じた。

large
thumbnail-11

何かの工場か農場なのかよく分からなかったが、
砂漠地帯に沈み行く陽の光が反射して光る光景は、とても不思議だった。

使用機材:SIGMA SD15 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:フラッシュ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm

large
thumbnail-12

コロラド川の湾(Cotton wood Cove)のマリーナにライトが灯る。
セピア色に仕上げた写真を見直すと、マリーナの優しい夜の空気が蘇る。

使用機材:SIGMA SD15 + 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/50秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:10 mm

私はUSハイウェイ95を南下し、州道(SR163)を東へ走りコロラド川を渡りアリゾナ州に入り、ブルヘッド・シティー(Bullhead City)に宿泊した。翌朝、多くのカジノホテルが建ち並ぶラフリン(Laughlin)をコロラド川の岸辺から眺めた後、デイビス・ダム(Davis Dam)に出かけた。早朝、フーバー・ダムと比べると地味な感じがするダムに人影はなく、警備員だけがダムの周りを歩いていた。

large
thumbnail-13

早朝、コロラド川にボートが頻繁に往復していた。
この時間は、ラフリンに建ち並ぶカジノホテルに働く人々が、ほとんどの客だった。

使用機材:SIGMA SD15 + 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:10 mm

large
thumbnail-14

フーバー・ダムから南に約70マイル(110km)に位置するデイビス・ダムの土手のような部分。この朝、フーバー・ダムから見ると地味で変形したダムの上は通行禁止だった。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:38 mm

large
thumbnail-15

1951年にオープンしたデイビス・ダムからラフリンに建ち並ぶカジノ・ホテルが見える。
高さ200ft(60m)のコンクリートのダムの底を覗きこむことはできなかった。
モノクロームにしてコンクリートの世界を表現。

使用機材:SIGMA SD15 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm

large
thumbnail-16

デイビス・ダムの貯水湖と電線を繋ぐ鉄塔。
ブルーを強めて、青い世界を強調した。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

デイビス・ダムからは、アリゾナの州道を南に走り、大きな街、レイク・ハヴァス・シティ(Lake Havasu City)を超えて、パーカーダム(Parker Dam)まで南下した。
ダムの上は車で通ることができたが、歩くことは禁止されていた。私は、長さ約 850ft(260m)のダムの上を通り、アリゾナ州からカリフォルニア州に渡った。ダムの左右の端には警備員がいて、通過する車も少ない静かなダムだった。

large
thumbnail-17

コロラド川にはいくつかの川が流れ込んでいる。そのひとつの川(Bill Williams River)が流れ込む付近には、それまで見なかった穏やかで静かな風景が広がっていた。
コントラストを上げ、彩度とX3 Fill Lightを下げ、ソフトな雰囲気に調整。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 120-400mm F4.5-5.6 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:183 mm

large
thumbnail-18

フーバー・ダムから南に約155マイル(248km)に位置するパーカー・ダム。
目で見えるダム(道路までの高さ)の部分は、約85ft(25m)だが、ダムの高さは約320ft(97m)と大きく、世界で一番深いダムと呼ばれている。

使用機材:SIGMA SD15 + 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:10 mm

large
thumbnail-19

快晴の空に、発電所の電線が静かに溶け込んでいた。
音もしない見えない電流に不思議な感覚を覚える。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:180 mm

パーカー・ダムからカリフォルニア州に渡ると、川沿いを走る道を南に下った。道は州道62号に出会い、左に行くとコロラド川を渡りアリゾナ州に入ったが、すぐにカリフォルニア側に引き返した。

large
thumbnail-20

小さな鳥が川の上を飛び回っていた。
超広角ズームレンズで、サインを中心に全体の風景をシャープに写しこむ。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm

カリフォルニア州に戻るとBig Riverというサインが目に入り、その道を走り再びコロラド川に出た。川沿いには建物もありデッキもあったが、人影はなかった。誰も遊んでいない川岸からじっくりと川を眺めると、川の流れは意外に速いことに気がついた。そして、やっとコロラド川に出会えたと思った。

large
thumbnail-21

どういう意味だろうか。誰かがいたずらをしてNOの文字を消したのだろうか。
大口径標準レンズで切り取られたサインの存在が、さりげなく自然に強調された。

使用機材:SIGMA SD15 + 30mm F1.4 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:30 mm

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

Page Top