第30回:デスバレー北部へ
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。 91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

カリフォルニア州、デスバレー国立公園の北西に位置する干上がった湖、The Racetrack。
石がゆっくり動き、その跡を残すことからレーストラックと呼ばれているが、石が動いている光景を記録した者はいない。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

ハイウェイ395号線沿いのタウン、ローン・パイン(Lone Pine)に宿泊していた私は、日の出と共にモーテルを出た。395号をほんの少し南下し136号線に入りしばらく走ると、道はデスバレーに繋がる190号線に出会い、そのまま朝日に向かって東に走る。

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136号線を振り返ると、雪をかぶったシェラネバダ山脈が朝日に輝き、
普段意識しない自分の影が伸びていた。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

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デスバレーに向かい東に向かって走ると、強い朝日が直撃した。
道路標識の影に隠れて、内蔵フラッシュを発光し撮影。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F16.0 | 焦点距離:17 mm

190号線は上り坂になり、しばらく走るとデスバレーに着いたのかと見間違える大きな谷(Panamint Valley)が一望できるポイント(Father Crowley Point)に出る。
数年前の春に訪れたときは、多くの人がこのポイントで休憩をしていたが、この朝は誰もいない。舗装された駐車場から伸びているダート道を少し走ると行き止まりになり、これから走って行く道と風景がそこからよく見え、今からこの大きな風景の中に溶け込んでいくのだと感じる。曲がりくねる坂道をゆっくり下ると、大きな谷底では190号線はまっすぐに伸びる一本道になった。

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深い谷沿いの柵もないダート道は、ちょっとした冒険をしている気分にさせてくれる。
車から出て、でこぼこしたダート道から撮影。

使用機材:SIGMA SD15 + 70-300mm F4-5.6 DG OS |
露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:100 mm

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地図上では、デスバレー国立公園内だが、一望できるバレーはパナミント・バレー。
走る道と景色が良く認識できたポイントだった。大きすぎて距離感がつかめない風景に、
ただシャッターを押す。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:33 mm

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下ってきた道は、大きな谷底ではまっすぐ伸びる一本道となり、カーブを描いて山を上っていく。
車を路肩に停めて道の真ん中に立ち、コンパクトな望遠ズームレンズで素早く撮影。霞んでいた朝の風景だった。
コントラストを上げると、これから上る山の斜面が幻想的に描写された。

使用機材:SIGMA SD15 + 70-300mm F4-5.6 DG OS |
露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:200 mm

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大きな谷底を走る一本道を一気に走りぬけると、今度は大きな山脈に挑むような上りになった。道は再び下り、西からデスバレー国立公園に来ると玄関口のようなストーブパイプ・ウェルズ・ビレッジ(Stovepipe Wells Village)に到着し、そこで公園滞在料を払う。宿泊施設があるが、その夜は客室に空きがなかった。そのまま190線を走るとデスバレー国立公園の中心地帯だが、私は190号線からスコッティー・キャスル・ロードを北に向かった。190線を離れてから約33 マイル(53 km)走り、ユービーヒービー・クレーター(Ubehebe Crater)に向かう道に入ると、黒い土地の丘を歩くハイカーを見かける。クレーターを見下ろすことができるポイントに立ち寄ると、3台の小型バスが停まっていた。この日、クレーターを訪れていた人は多く、少し前に見かけたハイカーは、風の強いクレーターの淵を歩いていたことに気がついた。クレーターの底には、案内人らしき人を囲んだグループが見える。私はちょっと覗き込むつもりだったクレーターの底まで下りることにした。
数年前、クレーターの淵に立ったときは強い風が吹き荒れ、デスバレーの南から来た私は震える思いをした。この日も強く冷たい風が吹いていたが、クレーターの底に下りるとジャケットを脱ぎたくなるぐらいの暖かさだった。かつてこの地に住んでいたティンビシャ(Timbisha)が、大きな岩の籠と呼んだクレーターの底は、無風で静かだった。
悪しき魂が近づけない何かに護られた空間、そんな特別な場所に私には思えた。乾燥した空気を大きく吸い込み、しばらく大きなクレーターの底に立っていると、無力でちっぽけな私も地表の一部だと感じた。

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南の空を背景にしてシルエットのなったハイカーを黒い土地に見かける。
黒い色で覆われ、火山の影響を受けた土地だと感じる風景を晴れにし、黒い世界を表現。

使用機材:SIGMA SD15 + 70-300mm F4-5.6 DG OS | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:120 mm

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幅約1 kmのクレーターの淵を歩く人々。
飛ばされそうなぐらい強い風が吹いていた。

使用機材:SIGMA SD15 + 70-300mm F4-5.6 DG OS |
露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:200 mm

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2000年から7000年前に形成されたと言われる深さ約180 mのクレーターの底にいたグループが登ってきた。
人の足跡がないところを小さな子供が滑るように下りてみると、靴の中は小さな石ころだらけになった。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

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人の歩かない砂利の斜面を登るのは、かなりきつかった。疲れて座り込むと、枯れた草が生息していた。
撮影すると冬のクレーターがしっかりと写りこんでいた。彩度を落とし、色のない冬を強調。

使用機材:SIGMA DP2s |
露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/80秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

クレーターの底から這い上がって来た後、四輪駆動車を推薦するサインが目に付くダート道(Racetrack Valley Road)に入る。走り始めはかなりのでこぼこ道で、時速20kmほどでしか進めない。目指す干上がった湖、レーストラックまでの約40 kmの道は、一度走ったことがあり、土煙を立てて爆走した記憶が鮮明に残っていたので、こんなはずではないと思う。しかし、10分ほど走るとでこぼこも少なくなり、スピードを時速35 kmぐらいまで上げて走ることが出来き、記憶も鮮明に蘇ってきた。

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デスバレーの北のダート道を走る。
首から下げていたコンパクトカメラでスナップした写真を見ると、走る音まで聞こえてくるようだ。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:16.6 mm

クレーターから約32 km走ると、道が二つに分かれているティーケトル・ジャンクション(Teakettle Junction)に到着する。様々なヤカンが添えられている木のサインにレンズを向けていると、オフロード用のオートバイに乗った4人組が土煙を立てて走って来た。そして、サインの前に立ち止まり行き先を相談し、私が目指す方向に走って行った。

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道が二手に分かれる地点の道標。
沢山のヤカンが置かれ、ぶら下げていた。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:17 mm

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オートバイのバタバタというエンジン音は遠くからも聞こえた。
かなりの距離を開けて一人一人走って来たので、グループだとは思わなかった。

使用機材:SIGMA SD15 + 70-300mm F4-5.6 DG OS | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:70 mm

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さっそうと現れて、すぐにこの場を去っていった4人のライダー。
彩度を落としコントラストを上げ、乾燥した土地の空気を強調。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm

ジャンクションから8kmほど走ると、表面がひび割れ、干上がった湖(The Racetrack)に到着する。ダート道を広げたような駐車場に車を停め、Playa(乾燥平野)の上を歩き出す。
陽の光がひび割れた地表に反射してまぶしい。海抜3,714 ft(1,132 m)のPlayaの北側に存在する大きな岩以外、Playaの上では、誰も逃げ隠れができない。

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The Grandstand(特別席)と呼ばれる高さ73 ft(22 m)の黒い岩が、太陽光にまぶしく反射するPlaya(乾燥平野)に力強く存在していた。
大口径標準レンズで、神秘的な風景に正面から向き合いシャッターを押すと、出会った光景が忠実に描写されていた。

使用機材:SIGMA SD15 + 30mm F1.4 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm

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The Grandstandに登ったこの二人は、何を見ていたのだろうか。
乾燥平野に立ち、大口径望遠ズームレンズをしっかり持ち撮影すると、彼らと一緒に岩の上にいるような気がしてきた。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:247 mm

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大きな岩の周りを歩くと、太陽の光の当たり具合でPlayaの表情が変わった。
彩度を大きく下げ、コントラストを上げ、知らない星に来たような錯覚に陥る風景を描写した。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

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高低差が殆どない平らな長さ2.8 マイル(4.5 km)、幅1.2マイル(2 km)の乾燥平野。
風がほとんどなく、心地良い午後だった。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm

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石が動くと言われ、その跡も見ることができた。
雨が降り表面がぬかって滑りやすくなり、強風によって石が動かされると言われているが、見た者はいないという。

使用機材:SIGMA DP2s |
露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:24.2 mm

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干上がった湖は、遠くから見るとさらに神秘的だった。
彩度を落とし、コントラストとX3 Fill Lightを上げると、乾いた湖が浮き上がり、周囲の風景の特徴も強調された。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:35 mm

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Playaからダート道を引き返し、ユービーヒービー・クレーターまで戻ると、気温は下がり風さらに強くなっていた。
広大なデスバレー走るよく舗装されたスコッティー・キャスル・ロードに戻り、190号線まで南下するドライブは快適だった。

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ゴールドラッシュ時代、道なき荒野を馬車が通った。その跡が今も残っている。
19世紀、荒野と格闘した人々にとって、時速100 kmでこの荒野を走り抜けることなど、想像すら出来なかったに違いない。

使用機材:SIGMA DP2s |
露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/100秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

190号線に戻り、少し西へ走り砂丘が見えてくると、もう日暮れが迫っていた。広大なデスバレーには、自然の大きさと不思議さを感じる風景がたくさん広がっているが、この日、宿泊準備もせずにデスバレーに足を踏み入れた私は、デスバレーの北部を少し見て、陽が落ちる前にデスバレーを出るつもりだった。しかし、砂丘に沢山の人が歩いている姿を見ると、少しだけ砂丘を歩きたくなった。地球上で最も暑くなる地、冬の夕暮は、砂丘を歩くのにはいい気温だった。

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愛嬌のある植物が砂漠に生存している。
夕方の柔らかい陽の光に包まれた砂漠を大口径中望遠レンズで、夕方の柔らかい陽の光に包まれた砂漠をカメラに収めた。

使用機材:SIGMA SD15 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F4.5 | 焦点距離:85 mm

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砂丘(Mesquite Sandune)を歩き始めると、陽の光は砂丘に届かなくなった。
この日最後の陽の光は、東の山を赤く染めていた。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:24.2 mm

砂丘から戻ると日が暮れ、大きな谷は暗くなった。
そして、真っ暗闇になった西の山を上りながら、今度来るときは必ずテントを持ちこみ、数日間滞在しようと考えていた。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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