第32回:4月のシャスタ山
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。 91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

左右木々に囲まれた道の向こうに、雪に覆われているマウント・シャスタの頂上付近が見えた。その姿は堂々として、山の周りを神秘的な雲が流れていた。
私は美しい光景に魅了され、シャッターを押した。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F4.5 | 焦点距離:50 mm

4月2週目の夕方、北カリフォルニアにあるシスキュー・レイク(Siskiyou Lake)の湖畔に建つロッジに到着すると、灰色の空から細かい雪が落ちてきた。静まり返った寒いその夜、私は暖房がよく効いた部屋でぐっすりと眠った。翌朝早くに目が覚め、まだ暗い外に出てみると、前夜からぱらついていた雪で地面は薄っすらと白くなっていた。私はロッジから凍結した道をゆっくりと車を運転し、シャスタの町まで行った。氷点下をかなり下回ると思われる凍った町に人影はなく、晴れた日にはすぐそばに見えるシャスタ山の姿は全く見えない。車から外に出て少し歩くと、寒さで体が震える。

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ロッジに到着すると、細かい雪が降ってきた。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:400 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F2.8 | 焦点距離:147 mm

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凍りつくように冷え込んだ町。
シャスタ山から吹き降ろしてきた風は強く冷たく寒さで手がうまく動かず、
車の中で三脚にカメラを乗せ路面に三脚を低く立てスローシャッターで撮影。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/6秒 | 絞り値:F3.2 | 焦点距離:24.2 mm

ロッジに戻り朝食を食べると体が温まり、うとうと眠くなった。目を閉じて椅子に座っていると、木々の間から陽の光が差し込んできて、ほんの少し前の嵐のような天候がうそのように、周囲は急に明るくなった。私は再びロッジを出て、サクラメント川の源流に向かった。
苔が生えた岩の下から湧き出る水は、ただ澄んでいるだけでなくとても美味しい。冷たい水が喉を通ると、全身の細胞が生き変わるような気がした。

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岩の下から湧き出ている水は、400マイル(640km)を流れて、サンフランシスコ湾に注ぐ。
ここの水を飲むだけで、この地に来た甲斐があった。本物の水は何よりもうまい。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/10秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm

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湧き出た水は、小さな池から小さな滝を経て小川へと流れてゆく。
マガモ(Mallard)のつがいが、清らかな水の上に浮かんでいた。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/80秒 | 絞り値:F3.5 | 焦点距離:28 mm

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流れている水以外の水分は凍りつく冷たい朝。
水の静と動が同時に見られる光景を、マクロレンズはシャープに切り取る。

使用機材:SIGMA SD15 + MACRO 70mm F2.8 EX DG | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/5秒 | 絞り値:F16.0 | 焦点距離:70 mm

水を飲んで元気が出た私は、ビジターセンターに寄った。明るく元気のいい女性パークレンジャーは、まだ多くの場所が雪のためアクセス不能で、行ける場所は限られていると告げたが、この日、私の最も行きたかった場所で、シャスタ山の登山口のひとつであるバーニー・フラット(The Bunny Flat Trailhead)までの道がオープンしているのを確認した。小さなシャスタの町を通りぬけエバレット・メモリアルハイウェイ(The Everitt Memorial Highway)を上り始めるとすぐに、道は雪の壁に覆われる。流れの早い雲の合間から強い陽の光が差し、白い雪がまぶしい。道の日陰は、昨夜降った雪がまだ凍結していて慎重に車を運転する。
バーニー・フラットに上り着くと、道は雪で閉ざされていた。雪の上に上がって歩いてみると、昨夜降った雪が柔らかいクッションとなり、歩くのがとても楽しい。陽の光が雪に反射し、まぶしく明るい世界は気温も上がった。前日のロングドライブで疲れていた体は、小さな子供に戻ったように軽く感じフワフワと雪の上を歩きまわる。

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道は雪で閉ざされ、ここからは進めない。
登頂をめざすのだろうか?クライマーが、入念に準備をしていた。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:16.6 mm

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標高6,900ft(2,263m)のバーニー・フラットから標高14,178ft(4,322m)のシャスタ山を仰ぐ。超広角ズームレンズで、まぶしく白い世界を大きく写す。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm

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シャスタ山を下り、朝には想像が出来なかった晴天のシャスタの町でランチを食べた後、南へ移動した。シャスタ山の周りは広範囲できれいな水が湧き出ている。シャスタの町から約7マイル(11km)南へ下ったダンズミュアー(Dunsmuir)にも美しい滝がいくつかある。私は、その内のひとつの滝(Hedge Creek Falls)で、清らかな水に包まれた。数年前の夏、この滝を訪れたときより流れ落ちる水量ははるかに多く、けっして大きくはない滝に迫力を感じた。

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小さな洞窟のようになっている滝の裏側から、水しぶきを浴びて撮影。
流れ落ちる水、周囲の岩、木々、空、その全てをこの場の空気感と共に、超広角ズームレンズに収める。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:8 mm

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休むことなく流れ落ちる水に暖かい陽の光が届き、虹が出る。
デジタルカメラに写された写真を見ると、滝の音が蘇ってくるようだ。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:35 mm

ビジターセンターで勧められたキャスル湖(Castle Lake)にも出かけた。雪の壁で周辺の景色が見えない道を上って湖畔に着き、車を停めて急な雪の斜面を登ると、湖面が凍って雪が積った湖の前に出た。

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かつて山の斜面の氷が溶け、湖となった標高5,400ft(1,660m)の圏谷湖(Cirque Lake)。
湖面に積もった雪の平原は、午後の陽の光に反射してただまぶしかった。
モノクロームにすると、平原の様子がよく読み取れる白い世界となった。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:17 mm

キャスル湖を下りると、日暮れが迫っていた。私は、宿泊先のロッジがあるシスキュー・レイク湖岸で日没まで過ごすことにした。

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シスキュー・レイク湖畔から、西からの夕陽に染まり始めたシャスタ山を見る。
流れるように動いていた雲は、どこからともなく現れそして消えて行った。
大口径望遠ズームレンズは、山の斜面をすぐそばに見ているかのようにシャープに写し出す。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:147 mm

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夕陽に染まったヒメコンドル(Turky Vulture)が、羽を大きくひろげて青い空高く舞っていた。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:200 mm

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湖の南の山に沈んだ太陽。
この後すぐに雲に包まれ、夕焼けは見られなかった。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:24.2 mm

翌朝、シスキュー・レイクで日の出を待った。湖岸は寒かったが、前日の朝と比べると我慢できない寒さではなかった。東の空が少しずつ赤くなり、シャスタ山にも朝日が少し当たり始める。この日の天気予報は晴れのち曇り、いい天候が期待できそうだと思った直後、厚い雲が東の空を覆い始めた。

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東の空が赤くなり、かすかにシャスタ山にも陽の光が当たる。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F5.0 | 焦点距離:35 mm

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朝日に染まる山が、シスキュー・レイクに反射し映りこむ。
西の空は晴れていたが、この後すぐに東の空は厚い雲に覆われた。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/15秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:33 mm

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曇ってしまった朝、湖面に反射して映るシャスタ山。
スローシャッターで撮影し、風で揺れていた湖面の表情を強調した。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:0.8秒 | 絞り値:F22.0 | 焦点距離:50 mm

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曇が覆い、きれいな朝日が見られなかった私は、ハイウェイ89号線を東へ走り、マクラウド(McCloud)に移動すると、雲は突然なくなり青空になった。シャスタ山から見ると南に位置する平らな土地は、深くはないが一面雪で覆われていた。車を州道から少し入ったところに停めて雪の上を30分ほど歩き、マクラウドの滝(Lower McCloud Falls)まで歩く。

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快晴になった雪のトレールを歩く。
バーニー・フラットと同じように、歩くのが楽しいフワフワとした柔らかい雪だった。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

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滝から落ちた水は、エメラルドグリーンに変わる。
一日中眺めていても飽きない風景だった。

使用機材:SIGMA SD15 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm

マクラウドの滝からは、インターステイト・フリーウェイ5を北上しハイウェイ97号線を北東に走り、シャスタ山の北側に移動する。プルート・ケーブと呼ばれる洞穴がある周辺来ると、青い空は消え曇り空になった。雪は全く見かけず、溶岩が転がる乾燥した土地には黄色い花も見かけ、何か不思議な感じがする。

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雪はどこにも見ない乾燥した地に、黄色い花が咲く。
コンパクトな高倍率ズームレンズを最長に伸ばし、地面に座って撮影。

使用機材:SIGMA SD15 + 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:250 mm

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誰もいない洞穴の中に入ると、少し怖い気がした。
コウモリがいるとうわさで聞いたが、見なかった。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:8 mm

すっかり曇り暗くなった空からは、雪が振り出してもおかしくはなかった。この日、夕焼けは期待できず、私はロッジに戻り早めの夕食を考えた。部屋に戻ると暗かった西の空から、少しだけ陽の光が差した。私はシャスタ山に向けて車を飛ばした。上に上がれば上がるほど、西の雲から漏れる光が強くなり、気がつくとバーニー・フラットまで一気に上っていた。シャスタ山の頂上は雲に覆われて見えなかったが、少し前までの曇り空が信じられないぐらい、厚い雲はどこかに消えていた。雪の上を再び歩くと、冷たくて清らかな風が山の上から吹き下りてきた。 「もう山を下りる時間だよ」と、風が言った気がした。私は風に包まれながら、薄く赤く染まった西の空を見ながらゆっくりと山を下った。

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揺れ動く雲は神秘的だった。
シャスタ山の頂上は見えなかったが、大きな山の一部になった気分でファインダーを覗き、静かにシャッターを押す。

使用機材:SIGMA SD15 + 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/100秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:21 mm

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西の空に向かい、清らかな風に包まれ山を下りた。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:93 mm

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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