第36回:夏のサウス・オレゴン、クラマス地方(Klamath)
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。 91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

オレゴン州南部、クラマス・カウンティーに位置するクレーター・レイクの日の出。
水面の標高は6,176ft(1,882m)、湖の水深は約1,900ft(580m)と全米で最も深く、
地球上で最も澄んだ湖は、眺めているだけで身も心も澄んでくる。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm

ロサンゼルスからインター・ステート・ハイウェイ5を北に走り、マウント・シャスタを越えてウィード(Weed)でUSハイウェイ97に乗り換える。クラマス国有林(Klamath National Forest)を走る起伏のあるハイウェイ97は、強い木の匂いが漂い、太くて長い丸太を積んだトラックが何台も走っていた。オレゴン州に入り、アッパー・クラマス・レイク(Upper Klamath Lake)を左手に見ながら北上し、州道62(Crater Lake Highway)に入りさらに北へ走る。緑濃い牧草地帯が広がり、そこにはたくさんの牛が放牧され、清々しい風が吹いていた。宿泊先を決めていなかった私は、道沿いのキャンプ場でテントを張る代わりに小さなボート小屋を借りることにした。ロングドライブで疲れていた私は、この日クレーター・レイクを見に行く気はなかった。しかし、1年で最も日が長くなるこの日、くつろぐには陽はまだ高かった。私はキャンプ場に荷物も降ろさず、湖を目指し山道を上った。1902年、国立公園に指定された公園のサウス・エントランスにこの時間帯は人影はなく、湖に近づくと深い雪がまだ残っていた。今年は雪が多く、公園内の二つのキャンプ場はまだ閉まっていて、公園内のアクセスは、ロッジ、ギフトショップとレストラン、ビジターセンター(Rim Visitor Center)がある湖の南側、South Rimに限られていた。

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清い水に恵まれた南オレゴンの牧草地帯。
澄んだ空気に長旅の疲れも忘れ、高画質デジタルカメラでその空気感をスナップする。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:85 mm

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この時間、クレーター・レイクに向かう車はなかった。
山道から見えた最初の風景に、この地の険しい地形を感じ、大口径中望遠レンズを向けシャッターを押す。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:85 mm

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一気に湖の周縁部まで上り、カルデラ湖を見下ろす。
雪が深く、湖岸までのアクセスは閉ざされていた。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:9 mm

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雪に閉ざされいるように見えたRim Villageにあるギフトショップとレストランの建物。
急な傾斜の屋根に雪深い土地を感じてシャッターを押した写真には、この日の空気感もクリアーに写しだされていた。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:30 mm

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木に生える苔は、青い湖との色のコントラストが美しかった。
湖に浮かぶ島は、ウィザード・アイランド(Wizard Island)。

使用機材:SIGMA SD1 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm

売店が閉まる前にキャンプ場に戻りたかった私は、日没まで待たずに山を下りることにした。キャンプ場のあるフォート・クラマス(Fort Klamath)に戻ると、日没前の夕陽が牧草地を黄金色に染めていた。フォート・クラマスは、19世紀後半、オレゴン州南部とカリフォルニア州北部のネイティブアメリカン、モドック族が、合衆国の民族浄化に反抗したモードック戦争(Modoc War)の際、アメリカ陸軍の砦が築かれた土地である。

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湖から降りてくると、フォート・クラマスで日没になった。
かつての歴史がうそのように、この日の夕暮れは平和そのものだった。

使用機材:SIGMA SD1 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F5.0 | 焦点距離:50 mm

キャンプ場に戻り、売店でビールとスナックを買い、ボート小屋に荷物を入れる。キャンプ場の客のほとんどは、キャンピングカーかコテージに泊まっていて、ハーレーで旅をする年配の男性一人だけがテントを張っていた。彼はひとりでは飲みきれないからと、川の水で冷やしたビールを数本持ち、私の泊まるボート小屋に近づいてきた。米軍兵として日本に滞在した彼は、上機嫌でよく話した。彼がテントに戻ると私も眠くなり、すぐに寝てしまった。思わぬ来客に夕食の支度をする機会を逃してしまい、この夜の私の夕食はビールとポテトチップスとなったが、旅好きの彼との話しも弾み楽しい夜となった。

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キャンプ場で借りたボート小屋のデッキ。
ビールを飲みながら語り合うにはいい場所だった。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/25秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:23 mm

翌朝、湖で日の出を迎えるため、暗いうちに荷物を車に積み込みキャンプ場を後にした。湖の南側の周縁部に到着すると既に東の空が明るくなっていた。気温は低く、手袋をした指は凍りつくようだった。残念なことに東の空に雲がかかり、日の出瞬間の陽の光を浴びることは出来なかった。そして、湖を眺める私の背後から冷たい空気が流れ込み、湖の南側は霧に包まれた。かつてマウント・マザマ(Mount Mazama)と呼ばれた推定標高12,000ft(3,700m)の山が存在した。今からおよそ7,700年前、火山噴火により山は沈み、幅4.5から6マイル(7から10km)のクレーター・レイクが誕生した。

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日の出を待つクレーター・レイク。かつてこの地に標高12,000ft(3,700m)の山が存在した。
周縁部は標高7,000ftから8,000ft(2,100mから2,400m)、湖の水面の平均標高は6,178ft(1,883m)。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/25秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:25 mm

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霧に包まれた神秘的な湖の朝。
冷たい霧で、レンズも曇りそうだった。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm

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湖に霧が流れ込み、朝陽がまだ溶けずに積もる雪を照らし、まぶしい朝になった。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm

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霧が切れると湖面が朝の光に染まった。
大口径標準レンズで、輝く湖面を切りとる。

使用機材:SIGMA SD1 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/2000秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm

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霧が消え、快晴の一日の始まり。
地上で最も澄んでいる水と空気がここにある。

使用機材:SIGMA SD1 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:13 mm

霧も消えて快晴の朝となった後、湖を見下ろすポイントから少し下り、公園の本部(Park Headquarters)を訪れてみた。ビジターセンターがオープンするしばらくの間、車の中で時間を潰していると気温はどんどん上がり、厚手のジャケットは要らなくなった。ビジターセンターで、クレーター・レイクについて説明するショートフイルムを観た後、ふたたび湖の南の周縁部(South Rim)に戻ると、日の出直後には見なかったクレーター・レイク・ロッジの多くの宿泊客が、雪の上を歩いていた。

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9時になるとパーク・レンジャーがアメリカの国旗を揚げ、ビジターセンターがオープンした。
高画質のデジタルカメラでその光景をすばやくスナップすると、まるで触れているようかのようなリアルな国旗の質感が写されていた。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:カスタム | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:28 mm

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Rim Visitor Centerの展望台から、クレーター・レイクを見下ろす。
湖岸に近い浅瀬の部分は緑色、あとは青い世界。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:40 mm

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スノーシューを履いて歩くガイドツアーに参加する人々。
早朝の冷え込みがうそのように暖かくなった。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

昼前に湖から下りて行くと、北のエントランスが雪のためまだクローズしているせいか、公園のサウス・エントランスには長い車の列ができていた。フォート・クラマスまで戻ると、1軒だけ建つジェネラル・ストアーでコーヒーとドーナツを買う。

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湿地帯のような牧草地を牛が自由に動き回り、背景の山の下にはクレーター・レイクが隠れている。 この牧草地の標高は、クレーター・レイクの底(4,244ft、1,294m)とほぼ同じ高さ。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:カスタム | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:33 mm

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コーヒーとドーナッツを買った店にピックアップトラックが停まった。
トラックの荷台には、2匹の犬がおとなしく飼い主が戻るのを待っていた。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm

フォート・クラマスからは、昨日走って来た道とは違うアッパー・クラマス・レイクの西を走る州道140を南下した。 長さ20マイル (32km) 、幅8マイル (12.9km)のオレゴン最大の淡水湖には、ボート遊びをする人や釣り人の姿を見かけた。雪でアクセスが閉ざされていたクレーター・レイクとは違い、近づきやすい湖に思えた。

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アッパー・クラマス・レイク湖畔に立ち寄る。釣り人が多く集まる湖にはカラフルなボートをたくさん見かけたが、 黒くてあまり目立たないボートの静かな存在感に惹かれ、レンズを向けた。

使用機材:SIGMA SD1 + APO MACRO 150mm F2.8 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:150 mm

クラマス・レイクを越してしばらく走ると、州道66に入り、カリフォルニアとオレゴンの州境に並行するように西へ走った。道は、緑深い美しい山の中を走り抜けていた。北カリフォルニアで太平洋に流れ込むクラマス川を越えると、山はいっそう深くなり、道の起伏も激しくなった。

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州道66で、クラマス川を渡る。19世紀、太平洋岸北西部に移住するため、多くの人が幌馬車で北カリフォルニアとオレゴンを目指した。アップルゲイト・トレイル(Applegate Trail)と呼ばれたトレイルも、このあたりのクラマス川を渡った。当時この川を横断した人々に、この景色を楽しむ余裕はあったのだろうか。

使用機材:SIGMA SD1 + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:85 mm

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山の中を走ると、前夜泊まったボート小屋と同じような小屋が、美しい草原に建っていた。

使用機材:SIGMA SD1 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:28 mm

美しい草原や湖もたくさん存在するオレゴン州、クラマス地方を走り抜けると、領土争いをしてきた人間の歴史の跡を見る。しかし、大規模な火山活動を実感できるこの地の地形を眺めていると、人間の歴史はとても短く、全てが小さい出来事に思えてくる。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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