押本龍一－私の出会う光景－第167回：イーグルロックへ

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

枯れた草原を歩いて行くと、寄り集められたような岩の群れがいくつか点在していた。岩の群れのひとつに近づくと、羽を広げたイーグルのように見える岩があり、その名の通り正にイーグルロックだった。彫刻作品にも見えるこの不思議な岩は、カリフォルニア州サンディエゴ郡の草原地帯に存在している。

愛犬と歩けるトレイルを探していると、サンディエゴ郡にイーグルの形をしている岩までのトレイルを発見した。そのトレイルは、アメリカ・メキシコ国境からアメリカ・カナダ国境まで南北に4228kmを縦走するパシフィック・クレスト・トレイル（PCT）の一区間を歩くものだった。私は11月中旬の週末に息子を誘い、愛犬シロと共にイーグルロックへ向かった。海岸近くの自宅から内陸へ向け東へ走り、ハイウェイ15号線に突き当たると南下し、近年ワイナリーで知られるテメキュラでハイウェイ15号線を下り、州道79号を南東へ走る。去年の春、この辺りを訪れた時は緑色の草原地帯に花が咲き、森も濃い緑色だった。しかし、この日の草原は枯れていて森は黄葉し、雰囲気がだいぶ違っていた。グライダーの滑空場を過ぎてすぐにPCTを横切ったが、そこからイーグルロックまで歩くと往復16kmのトレイルになり、そこに茂るオークツリーの森はPCTを歩くハイカーのキャンプ地となっているようだ。私はその先の消防署の側から往復約11kmになるトレイルを歩くことにした。

この日はほとんど風がなく、グライダー滑空場の吹流しが垂れていた。雲は多かったが、遠くの森は黄葉し午前中は秋晴れと言ってよかった。

PCTが通る側の消防署。私はこのすぐそばから歩き始めた。

トレイルのはじめはオークツリーが多い森だった。木漏れ日がPCTのサインを照らし、気持のいいスタートだった。

黄葉が特に有名な土地ではないが、森の中は秋の色を見かけた。

雲が多くなり太陽が隠れてしまったが、黄色くなった葉が森を明るくしていた。

薄暗い森の中で2頭の馬とすれ違った。

消防車のある反対車線側の路肩に数台の車が停まっていた。そのうちの1台の車には「数日で戻るから牽引しないで下さい！」と書かれたメモがあった。この周辺は今の時季なら北でも南でも歩きやすいので、かなり遠くまで歩いて戻れるだろう。南東へ向かうトレイルの歩きはじめは、暑い日には有り難い日陰となるオークツリーが多い森だった。大雨の後だけ水が流れるクリーク沿いを歩いて行くと、所々に黄葉した木を見かけ、南カリフォルニアでも秋を楽しめるのが嬉しい。森の中を2kmほど歩いた辺りで緩やかな上りになり、森から出ると低木が茂る丘に出た。そこから少し歩いて行くと枯れた草原地帯になり、岩の群れの下を通りさらに歩いて行くと目指すイーグルロックがある岩の群れが遠くに見えてきた。

低木が茂る丘に出る。南の山の一部と枯れた草原地帯に陽光が差していた。

草原地帯へ来ると岩の群れの下を通過した。私は斜面を登り、岩と南に見えるバルカン山地を眺めた。

枯れた草原を歩く。遠くに岩の群れが見えてきたが、イーグルロックはどこにあるのかここからではまだわからなかった。

ここまで近づくと人の姿が見えたので、目指す岩の群れがわかった。

イーグルロックがある岩の群れは草原地帯の高台にあった。森の中ですれ違った中年夫婦に「岩の群れを回り込むようにして行かないとイーグルに見えないですよ」と聞いていた通り、イーグルロックがある岩の群れはわかったが、その形はなかなか見えて来なかった。緩やかな上りを経て、岩の群れを回り込むようにして歩いて行くと、イーグルの形をした岩がそこにあった。意外に小さいなと感じたが、その形はイーグルそのものだった。

高さは平屋建ての屋根の高さぐらいだが、大きく広げた羽に見える岩は存在感があった。

頭の部分を撮ってみた。

イーグルロックの裏側。正面を見た後はイーグルに見えた。

高台にあるイーグルロックに上り、歩いて来たトレイルを見下ろす。

イーグルロックに到着した時は一組のカップルがいたが、彼らはすぐに立ち去った。その後、犬連れの男性が現れたが彼は長居をせず、私と同行した息子とシロだけでしばらく不思議なイーグルロックに居座り、のんびりとランチブレイクを取った。歩くと少し暑かったが、じっとしているには快適な気温だった。PCTは南から北へ歩くのが一般的だと聞いているので、歩く季節は違うが、帰りはスルーハイカーの見る風景に近いかな？と思いながら歩いた。

先へ行く息子とシロの後を歩く。

帰り道にすれ違った女性2人組が草原地帯を歩いて行く。

赤みがかったマンザニータが多く生息していることを帰り道に気がついた。先住民族が発疹の治療に葉を用いたそうだ。

不思議な魅力を持ったオークツリーの森。

午後の光で輝く枯れた葉に大口径マクロレンズを向ける。

PCTに存在感のある地図があったのだが、実際にハイカーは見るのだろうか。

放牧された牛がこの辺りにいるらしく、トレイルに幾つかのゲートがあった。

暑くもなく寒くもない、歩くのにはいい季節だった。高低差の少ない11km弱の歩きから車に戻ると、空は雲に覆われ気温が少し下がってきた。ハードなトレイルを歩いた後はすぐに車の運転をする気にはならないが、この日はすぐに車を動かし、気になった所に立ち寄りながら帰路についたので、丁度いい運動だった。

屋根が斜めに傾いていた教会（St. Francis of Assisi Chapel）。

収穫を終えたワイナリー。

日の終りに見たスチールの彫刻。

イーグルが飛んで来るのでそう呼ばれているのかもしれないが、サンタモニカ・マウンテンズにもイーグルロックと呼ばれる巨岩があるが、私はその岩からはイーグルをイメージできなかった。しかし、この日見たイーグルロックは正にその名の通りの岩だった。正面は北東に面しているから次回は早起きして、朝陽が当たるイーグルロックを捉えてみたい。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。