押本龍一－私の出会う光景－第153回：春のシカモア・キャニオン

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

黄色い菜の花が咲くシカモア・キャニオン北の尾根を、夕方の光を背にしたランナーが走り抜けてゆく。私はランナー目線になり、美しい夕方の光景を切りとった。

4月中旬、サンタモニカ・マウンテンズの一部であるシカモア・キャニオンへ向かった。午前中は曇りのマーク、午後は雲から少し出た太陽マークの天気予報に、朝陽を期待せずゆっくりと家を出る。サンタモニカ・フリーウェイを西へ走りトンネルを潜って海岸線ヘ。そして、パシフィックコースト・ハイウェイを北上し、高級住宅が建つマリブまで来ると期待しなかった太陽が顔を出す。エネルギーに満ち溢れた朝陽と、黄色い花が山の斜面一面に咲くシカモア・キャニオン入り口に到着し、押し寄せる波の音がビーチから聞こえてくる駐車場に車を停める。キャンプ場を通り抜け、トレイルを歩き出すとWild Parrotsの高い鳴き声がキャニオンに響きわたっていた。南カリフォルニアを自由に飛び回るWild Parrotsは、輸入が禁止される以前米国に輸入され、その後逃げ出だしたか意図的に放されたParrotsの子孫だと言われている。

黄色い花（Giant Coreopsis）が咲くシカモア・キャニオンの入り口付近。天気予報は外れ快晴となった。

トレイルのスタート付近で見かけ現地ではWild Parrotsと呼ばれている色鮮やかな鳥。枝に留まった僅かな時間、表情がいい瞬間をコンパクトな高倍率ズームレンズで捉えた。

トレイル沿いによく見かけた花（Datura wrightii）。虫に食われたのか、穴がたくさんある花に寄ってきた蜂にフォーカスした。

朝陽に照らされた白いアサガオは、よく見ると淡いピンクが少し混ざっている。花を真上から見てしっかりと撮影した。

駐車場からキャンプ場を通り抜け、海岸から離れて行く。日影はほとんどなく、夏場は日照りで枯れ、土ぼこりをかぶった草を目にしての歩きはきつい。しかし、この朝は緑が美しく、黄色い菜の花畑の中をマウンテンバイクが通り抜け、さわやかな朝の空気を吸い込んで走る女性ランナーと挨拶を交わす。少なめの機材を入れた軽いカメラバックも味方になり、春のキャニオン歩きは快適だった。

キャニオン南の斜面に埋め込まれたように見える岩。トレイル沿いに咲く菜の花越しにフォーカスする。

若い女性が独り、キャニオン上のトレイルから走り下りて来て海に向かって行った。ブロンドヘヤーが美しく輝く女性と明るい菜の花は、春のキャニオンによく似合う光景だった。

アップダウンがないフラットなシカモア・キャニオン・トレイルは、海から離れて行くに連れすれ違う人も花も減った。草原のように広いキャニオンは風景にあまり変化がなくなり、海岸から11㎞ほど歩いた地点で引き返すことにした。

キャニオンの奥へ入って行くと花はあまりなかったが、草は元気だった。

この辺りまで歩いて来ると人影がなくなった。

バーベキュー施設がある誰もいないデイ・ユーズの休憩場所。独りランチブレイクを取る。

キャニオンの底から北の丘陵地帯に上ってみると菜の花が咲いていた。菜の花の中に入り南にそびえ立つボニーマウンテンズにフォーカスする。

草原にぽつんと立つ1本のオーク・ツリーは存在感があり、木の周辺に少しだけ菜の花が見える。

蝶(Common Buckeye)が頭を下にして花に留まり、羽を広げた瞬間を捉えた。

夏場は草が枯れて地肌が見えるキャニオン北の丘陵地帯を歩く。この頃から東の空に雲が出てきた。

山火事の後、樹木の再生能力に対する干ばつの影響を調べる実験装置が、丘に設置されていた。黒焦げになった木は、この辺りの欠かせない光景のひとつだ。

トレイルのスタート地点まであと5㎞と近づくと、朝、若い女性が走り下りて来たバックボーン・トレイルへと書かれたサインが立っていた。私は朝歩いて来たシカモア・キャニオンではなく、バックボーン・トレイルを歩いて海岸へ戻ることにした。キャニオン北の斜面をジグザグに登り、尾根に出て広大な風景を見ながら太平洋へ向かって歩く。雲が出てきて広大な風景をドラマチックに演出する。海に近づいていくと、海の上にも雲が出てきているので、このまま曇っていくだろうと思ったが、雲は増えず夕方の光に染まる風景の中、駐車場に戻る。