押本龍一－私の出会う光景－第163回：ムグ・ピークへ

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

山と海が一望できるムグ・ピークに立った。異常な暑さのなか、海岸から傾斜のきびしいチュマッシュ・トレイルを経て、大汗をかき登った達成感は大きかった。

乾燥した熱風（Santa Ana winds）の影響で、海岸線も気温が40℃まで上がった9月の終わり、私はサンタモニカ・マウンテンズの西端へ向かった。マリブとオックスナード間にパシフィック・コースト・ハイウェイを通すため、火山岩の尾根を切り取った結果、海岸に取り残されたように存在するムグ・ロックまで来るとビーチに出て海風に吹かれた。

あまりの暑さにトレイルを歩く前、映画等の撮影に何度も使われたビーチに出た。ムグ・ロックの「Mugu」は、チュマッシュ族の言葉で、ビーチの意味「Muwu」から来ていると考えられている。

このフェンスの向こうは、海軍航空基地の敷地になっている。

ビーチから北西へ少し移動し、歩くと土煙があがる駐車場に車を停め、チュマッシュ・トレイルを登る。チュマッシュ族が海に出るのに使ったチュマッシュ・エレベーターとも呼ばれるトレイルは予想以上に急な登りで、トレイルヘッドから少し登っただけで大汗が出た。ピークまでは2㎞もないが、異常な暑さで頭痛がし、日を改めて出直そうと思うほどだった。それでも何とか頑張ってムグ・ピーク・トレイルとの分岐点付近まで登ると、ピークから走り下りて来た若者2人にすれ違った。荷物こそ背負っていないものの、さっそうと下って行った若者の後ろ姿を見送ると、ピークまで登ろうと思い直した。

トレイルヘッドにあるマップは乾き、強い陽射しで眩しくよく見えなかった。

生息している草木は土をかぶり、登る気力も失せてきそうだった。

海軍航空基地の敷地内にあるムグ・ラグーンを見下ろすと、水辺に戻りたくなった。

チュマッシュ・エレベーターを走り下ってゆく若者。

ピークから走り下りて来た若者2人にすれ違ったポイントから、少し登るとムグ・ピーク・トレイルに突き当たり、トレイルの左へ僅かな距離を歩き、北に広がるラ・ホーヤ・バレーが見える平らな土地に出た。春には緑色になる丘陵は、草は枯れ、乾いていた。そこから南西に向かい、急な斜面を何度も立ち止りながら登った。真っ直ぐなトレイルを登ってムグ・ピークに到達すると、青い海を背にして風になびくアメリカンフラッグが立っていた。まだ頭痛はあったが、腰を下ろして休むこともなくピークでしばらくウロウロとしながら360度の景色を楽しんだ。私の後から登って来た2人の女性も、かなりの時間をかけてピークに到達した。

ここから北へ広がるラ・ホーヤ・バレーにも歩いて行けたが、右の斜面を登ってムグ・ピークを目指した。

ムグ・ピークまでは急な登り坂だった。私の後から登って来た2人の女性の服装は、日焼け対策には良かったが、相当暑かったと思う。

ムグ・ピークの少し下の尾根のような部分から北西に位置するラグナ・ピークを見る。白い建物は海軍航空基地の一部だと思われる。

真っ直ぐに伸びたトレイルを登ってムグ・ピークに到達すると太平洋が見渡せた。水平線に霞んで見えるのはサンタカタリナ島。

ピークから北東方向を見ると、大きなラ・ホーヤ・バレーと聳え立つボニーマウンテンズが印象的だ。

ピークに立つアメリカンフラッグの下には鉄の箱があり、その中には登頂した人の名前が書かれたノートが何冊もあった。

ピークから西の海を見る。海面が眩しく輝き、ゆっくりと進むボート、アナカパ島とサンタクル−ズ島がシルエットになっていた。

私は、ムグ・ピークから北に広がるラ・ホーヤ・バレーに下り出て、そこから海岸に戻ろうと考えていたが、400mに満たない低山までの到達は予定より1時間も余分にかかってしまい、予定を変更した。登って来たトレイルとは違う南西からピークを下り、ピークの南斜面の下を歩き、元気のいい2人の若者とすれ違ったチュマッシュ・トレイルを下り海岸に戻った。

ムグ・ピークから下りてゆく私の影が映る。ユッカに白い花が付いていたら、かなり目立っていたに違いない。

ピークの南斜面下のトレイルは緩やかな下りで、とても歩きやすかった。

山火事で焼け焦げた木々の間を歩き振り返る。

サボテン越しにチュマッシュ・トレイルを見下ろす。

トレイルヘッド付近まで下りて来ると、海軍航空基地の建物がシルエットになっていた。

トレイルヘッドに戻ると、トレイルを歩く前に立ち寄ったビーチに再び行ってみた。海岸には水遊びをする人やサンセットを見に来た人で、昼間より人出は多く賑わっていた。私は、高波の日は非常に危険だと言われる岩場に腰を下ろし、太陽が沈んでゆくのを眺めた。

沈みゆく太陽に染まるビーチ。大昔、こんな暑い日にはチュマッシュ族もビーチで過ごしたのだろう。元気な子供たちはチュマッシュ族の血を引いているように見えた。

夕陽に染まった斜面。突き出た岩の向こうにムグ・ピークがあるが、ここからではよく見えない。

波が打ち付け、波しぶきが夕陽に染まっていたモノ・ロックの先の岩場。

真っ赤に染まった岩場。ここにいても風はまだ生暖かく感じた。

太陽が沈んでもビーチに留まる人は多く、西の空はいつまでも明るかった。

歩いた距離は6㎞に満たなかったが、強い陽射しと暑さに疲れ果てた私は、太陽が沈んでもしばらくビーチにいた。南カリフォルニアの海岸近くに住みついて20年、最も暑い日だったかもしれない。こんな暑い日の昼間、急な斜面を登った人間が、私以外にもいたのには驚いた。そして、帰宅して飲んだビールは、言うまでもなく最高だった。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。