押本龍一－私の出会う光景－第166回：ジャカンバ・ホット・スプリングスへ

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

まだ列車が通ることがあるのか、廃線になっているのか見分けがつかない線路の上を歩く。線路の脇には朽ちた列車が停まり、荒野には小さなピラミッドが建っている。メキシコとの国境沿いのタウンは神秘的な山裾に位置している。

大統領選挙の投票日を2日後に控えた日曜日、2013年にジャカンバからジャカンバ・ホット・スプリングスと名を変えたメキシコとの国境沿いのタウンを散策した。サンディエゴのダウンタウンから東へ120km走った辺りでインターステート・ハイウェイ8を下り、タウンの東から気になった場所に立ち寄る。宇宙船の修理店「Coyote's Flying Saucer Retrieval and Repair」のオーナーのコヨーテに会った人によると、近くの排水管に仕掛けがあり宇宙へのゲートになっていて、宇宙人がそこから出て来るとコヨーテが言ったそうだ。コヨーテが本気で言ったのか、会った人も分からないようだが、宇宙船の修理店は一応地図にも載っている。そこから少し北に建つデザート・ビュー・タワーでは、タワーの最上階から周囲の景色を眺め、岩に彫刻された動物の間をすり抜けた。

地図上にも載っている「Coyote's Flying Saucer Retrieval and Repair」は、ただのジャンクヤードにも見えるのだが。

宇宙船の修理店には、宇宙人の人形が所々に置いてある。人形の顔が怖いぐらいにシャープに写った。

1980年にアメリカ合衆国国家歴史登録財に指定された3階建のデザート・ビュー・タワーが、大きな岩の向こうに見えてきた。

タワーの入り口付近の鐘。非常に強い陽射しで積み上げられた石も眩しい。

1920年代に建てられた高さ21mのストーン・タワーの最上階に上り、標高910mから砂漠地帯を見下ろす。

タワーのすぐ横の岩山はボルダー・パークと呼ばれ、岩に彫刻された動物の間をすり抜けて岩の洞穴を散策した。

デザート・ビュー・タワーから、オールド・ハイウェイ80を西へ走り、ジャカンバ・ホット・スプリングスの中心部へ向かう。中心部に近づくにつれ、メキシコとの国境線に建つ鉄のフェンスが近づいてきて、廃墟化した建物も多く見かける。タウンの中心部に廃業したガソリンスタンドがあり、その横のレールロード・ストリートを北へ進み、乾いたクリークを横切り少し行くと廃線となったカリゾ・ゴージ鉄道のジャカンバ駅に出た。その北のジャカンバ・マウンテンズはさほど高くはない山地だが、この辺りを支配しているような感じがする。その麓には小さなピラミッド型の建物が建っている。アーティストのグループが所有しているようだが、この土地は宇宙船の修理店と共に少し変わった人々を惹き付ける何かがあるのかもしれない。

オールド・ハイウェイ80沿いに建つバス停のような建物は、何に使われるのだろうか。

大衆的なスパが一軒あるジャカンバ・ホット・スプリングスの中心部に到着。

タウンの中心部に位置する廃業したガソリンスタンド。

レールロード・ストリート沿いに掛けられた歩行者用の橋。

歩行者の橋は干上がったクリークに掛けられている。車道はクリークを横切っている。

今は廃線となっているはずのカリゾ・ゴージ鉄道のジャカンバ駅は、現在誰かの住居のようだが人影は感じず、周辺から物音も聞こえて来ない。線路脇には木造の車両が置き去りにされ朽ちかけている。時間が止まったような土地に独り歩き回ると、日常生活から切り離されていく気がする。

木造車両が2台置き去りにされ、時間が止まったような場所だ。

木造車両の中に入り、その横のもう1台の車両を同じ高さから撮影。朽ちかけた木造車両の質感が実によく写し出された。

きちんとメンテナンスすれば人家としても使えたと思う木造車両の内部。広角レンズを活かして床すれすれから撮影。

ジャカンバ駅周辺に人影はない。

スチールの車両は窓がないから貨物列車だったのだろう。

ジャカンバ・マウンテンズ麓に小さなピラミッドが建っている。

ピラミッドを所有しているグループの敷地だと思われる。ペイントがはげかけていても椅子は目を引き、絞りを開け背景をぼかすと椅子の存在が強調された。

ジャカンバ駅周辺を散策した後、ジャカンバ・コミュニティ・パークと火事で焼けたスパ・リゾート跡等を見た。オールド・ハイウェイ80を西へ走って行くと、ボーダー・パトロールのオフィスが建っていた。インターステート・ハイウェイ8に戻り、サンディエゴへ向かう途中ではボーダー・パトロールの検問を通った。検問ではパトロール隊員と顔を合わすだけで、ほとんどの車はそのまま通過して行くから、いったい不法移民をどうやって見分けるのだろうか？と、いつも不思議に思う。

ジャカンバ・コミュニティ・パークの入り口にある鉄の蛇は、この辺りで多く見かけるラトルスネークだと思う。

火事で焼けたスパ・リゾートからジャカンバ・マウンテンズが見えた。

黄葉しかけたコットンウッドとジャカンバ・マウンテンズ。夏はとても暑い土地だが、春と秋は訪れるのにはいい季節だ。

石の暖炉だけが残った民家跡。廃虚にはよく見かける光景だ。

メキシコとの国境に建つスチールのフェンスとカリゾ・ゴージ鉄道の線路。

オールド・ハイウェイ80を西へ走ると日没が近づいていた。メキシコとの国境沿いでも黄葉が見られる。

ジャカンバ・ホット・スプリングスは、メキシコとの国境に建つ高いフェンスを見ずにはいられない。この日、高いフェンスを見かけるたびにトランプの顔が何度も浮かんできた。そして、この2日後トランプは勝った。今後、国境沿いのタウンに何かの変化が起こるのかは分からないが、営業中のスパはなかなか評判がいいようだから湯に浸かりにまた訪れてみたい。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。