押本龍一－私の出会う光景－第162回：パラマウント・ランチ・トレイルを歩く

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

馬にまたがる3人組と一組の親子が西部開拓当時の服を着ていれば、西部劇のワンシーンになる光景だった。かつて数々の映画やテレビシリーズが撮影されたパラマウント・ランチのウエスタン・タウンは撮影用の屋外セットだが、現実に存在した西部のタウンに来たような気にさせた。

9月の第一月曜日であるレイバー・デーは快晴だった。私はこの日、愛犬を連れてサンタモニカ・マウンテンズ･ナショナル・レクリエーション･エリアにあるパラマウント・ランチへ出かけた。フリーウェイを下りてうねる道を少し走りパークに到着すると、休日の割には駐車している車は少なかった。ウエスタン・タウンは実際に存在し、今は補修作業がされたゴーストタウンのように見えた。タウンからトレイルを少し歩いたが、陽射しは強く想像以上の暑さのため、犬とのトレイル歩きは途中で切り上げ、この日は早々に帰宅した。

パーキング場に馬のレンタルをするトレーラーが停まる。乗馬は人気のアトラクションのようだ。

セットは本物の家屋のようで、ゴーストタウンに来たようだった。

ウエスタウン・タウンに大きなオークツリーが立ち、幹の分かれ目にピンク色の服を着た少女が座っていた。ここも実に絵になる撮影場所だ。

大きなオークツリーの木漏れ日が当たる屋外セットの建物。木壁の質感をとてもシャープに写し撮ることができた。

5日後、私は愛犬を家に残し、独りパラマウント・ランチへ再び出かけた。土曜日の午後、パークに到着すると、気温はこの日も高く陽射しは予想通り強い。パーキング場から水の流れがほとんどないように見えるメディア・クリークを渡りウエスタン・タウンに入ると、教会前の乾いた広場には白い椅子が並び、5日前にピンク色の服を着た少女が座っていた大木の下では、花嫁と花婿の撮影が行われていた。効率よく撮影する映画撮影と同じように、結婚式前に2人揃っての撮影をしているのだ。花嫁と花婿だけでなく結婚式へ参加する人々は皆西部開拓時代の服を着込み、まるで西部劇の撮影現場に来たように感じた。

橋の向こうの大きな木の下に花嫁と花婿が見える。

教会自体は最近建てられたようだが、モノクロームにすると一昔前の映画のセットのように見える。

汚れて曇った教会の窓。外の景色が映り込み面白い絵に見えた。

結婚式に参加する人の服装と屋外セットを見ていると、西部劇の撮影現場に来たようだった。

結婚式が始まるのを待つ人以外、この日ウエスタン・タウンに訪問者は少なかった。

屋外セットはよく作られていて、触らなければ煉瓦の壁も本物に見える。

結婚式を見たい気持はあったが、なかなか始まりそうもなく、ウエスタン・タウンの裏手からトレイルを歩きはじめた。トレイルを歩いてすぐ、女性の案内人が先導する馬のグループが私を追い越して行った。ゆっくりと歩いているように見えた馬のグループは、少し窪んだ土地の向こうへあっという間に移動し、西部開拓時代は馬なしには語れないと改めて実感した。

列をなし、土煙を上げてコヨーテ・トレイルを上って来た馬のグループ。

馬はOK、自転車はNOのサインがあるコヨーテ・トレイルはとても乾燥していた。

私を追い越した馬のグループは進むのが速く、窪んだ土地の向こうのバックドロップ・トレイルに見えた。馬が歩くトレイルは撮影の背景によく使われたそうだ。

この日少なかったハイカー達が、魔女の木と呼ばれるオークツリーが生息する森へ入って行く。この辺りは1970年代にルネサンス期中世をテーマにしたイベントであるルネサンス・プレジャー・フェアが開催された。

トレイルは予想以上に木陰が多く、神秘的なオークツリーの森を進んで行く。

枯れた草原に一本のオークツリーが立っていた。午後の光を浴びた主幹にレンズを向ける。

夕方の光が差し込むパラマウント・ランチのメディスンウーマン・トレイルをカップルが歩いてゆく。トレイルの名前はテレビシリーズの（ドクタークイン・メディスンウーマン）に因んでいると思われる。

電信柱がなく背景としてよく使われたバックドロップ・トレイルを東へ歩き、1952年に公開された3D映画のブアナ・デビルに因むブアナ・トレイルを南へ下った。アメリカの草原として撮影された丘陵の草は枯れ、乾燥したアフリカのサバンナのように見え、夕方の光で輝いている草むらからライオンが出てきそうだった。

ブアナ・トレイル沿いの立派なオークツリーに夕方の光が当たる。

山陰に隠れかけたオークツリーが、アフリカのサバンナとして撮影された草原に映える。

ブアナ・トレイルから逸れて、1938年公開映画のマルコポーロの冒険（ゲーリー・クーパー主演）に因むと思われるマルコポーロ・ヒルの下に出ると、陽光はもう届かず辺りは暗かった。丘に生えるオークツリーは、まだ青い空を背景にシルエットになり何とも神秘的で、ほうきに乗った魔女が木々の間を飛んでいてもおかしくない光景だった。暗くなった誰もいないトレイルを足早に進んで、ウエスタウン・タウンに戻ると、結婚式に使われた椅子は片付けられ、陽光を失いかけていたタウンは夜を待つばかりだった。私はパークを出て、タウンの入り口付近では水がほとんどなかったメディア・クリークが流れ込むマリブ湖を見に行った。

神秘的なオークツリーが生えるマルコポーロ・ヒルを見上げる。

静まり返り、かすかな光が届くウエスタン・タウン。記念撮影だと思うが絵になっていた。

多くの映画撮影にも使われた周囲3㎞のマリブ湖は、1922年にメディア・クリークをせき止めて誕生した。1961年には干ばつで水が干上がりそうになったが、現在の最深は約8mに保たれている。

プライベートな感じがするマリブ湖には長居はせず、パークの入口付近へ戻るとパラマウント・ランチ一帯は山陰になり、一頭の白い馬がスポットライトを浴び浮かび上がっていた。

夕陽を浴びた白い馬と乗り手の女性が暗闇に消えてゆく。映画のワンシーンのような美しい光景だった。

大きな鳥の巣がある木に沈んでゆく陽光が当たり、空には月が浮かんでいた。夜を迎える時間帯の光景をモノクロにして色調はブルーにした。

1927年、パラマウント映画社は、ラス・ヴァージネス・ランチから広大な土地を購入した。多様性のある地形は西部だけでなく、アフリカ等様々なロケーションとしても撮影された。1953年、パラマウント映画社がランチを売却した後、西部を舞台にしたテレビシリーズが何本も撮影された。1957年から1980年の間に何度かオーナーシップが変わったが、撮影が途切れることはなかった。1980年にナショナル・パーク・サービスがパラマウント・ランチの一部を購入してからも撮影は続き、1992年から1997年に撮影されたテレビドラマ（ドクタークイン・メディスンウーマン）は記憶に新しい。パラマウント・ランチ・トレイルは、夏の昼間を避ければアップダウンも少なく快適で、ここで撮影された映画を観ておくといっそう楽しく歩けるだろう。パークは朝8時から日没までオープンしている。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。