第95回:シャスタ山周辺の晩秋(後編)
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第95回:シャスタ山周辺の晩秋(後編)

シャスタ山中腹のバーニー・フラット(Bunny Flat)で空が暗くなるのを待つと、午後7時前にはたくさんの星が輝きはじめた。カメラを三脚に据え、シャッターをしばらく開けて捉えた画像には、肉眼では認識できなかった山頂付近の不思議な雲が記録されていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:バルブ | 絞り値:F2.0 | 焦点距離:18 mm

夕陽に紅葉した木が美しく映えるシャスタの町を通り抜け、早朝は霧雨も降り何も見えず引き返したシャスタ山の5合目付近のバーニー・フラットまで上がった。陽が沈むと山は一気に暗くなり、登山者グループが上から下りてきた。暗くてよく見えないが、山に響く楽しそうな会話から2組の若い男女のようだ。一時騒いだ後、車に乗り込み山を下りて行った。登山者たちが去って静まり返った山腹で、澄んだ空気を肺いっぱいに吸いこむと体中に新鮮な空気が染み渡り、足の裏からは山のエネルギーが伝わってくる。見えない山頂を見上げると、キャスル・レイクで会ったベラという名の女性のことを想った。シャスタ山南西のウィルダネスでキャンプし、「私はマジカル(magical)」というベラの笑顔が頭に浮び、このまま山から下りる気持ちにならず、バーニー・フラットから少し下った所にあるキャンプ場で夜を越すことにした。キャンプ場では寒さのため何度も目を醒ましたが、私の生涯で最も鮮明に見えた流れ星は、モーテルに泊まらずシャスタ山から離れなかったご褒美だった。

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町にはまだ紅葉した木が見られ、夕陽に染まりさらに紅く見えた。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:3136 x 4704ファイルサイズ:20.54 MB

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バーニー・フラットの手前で、山を覆う雲が夕陽に染まった。数分後陽が落ち、山は黒い影になった。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.0 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:8.66 MB

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陽が沈んでも南西の空は明るかったが、標高約2,120mのシャスタ山中腹は真っ暗になった。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F3.5 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:8.13 MB

目が醒めると空は雲に覆われ、陽のない寒々しい朝だった。キャンプ場から町まで下り、シャスタに来ると必ず立ち寄るサクラメント川の源流が見られる公園に向った。源流に着くと初老の男性が、7,8個の大きなボトルを持ち込んで水を汲んでいる。私も少しだけ水を汲み、その場で水を飲むと寝不足気味の頭もすっきりしてきた。

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どんより曇った朝のシャスタ・シティー。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/30秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:12.89 MB

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カリフォルニア州最長の川(719 km)であるサクラメント川の源流といわれる小川沿い。もうすぐ失う秋の色を記録する。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/4秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:18 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:9.95 MB

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清流に流されず岩に張り付いていた1枚の葉に大口径望遠マクロレンズを向ける。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO MACRO 150mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:フラッシュ | シャッター速度:1/8秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:150 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:7.77 MB

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サクラメント川の源流に近い道沿いで、レッド・エルダーベリー(Red Elderberry)だと思われる木を何本も見かけ、大口径中望遠マクロレンズで赤い実にフォーカスする。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + MACRO 70mm F2.8 EX DG | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:フラッシュ | シャッター速度:1/30秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:70 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:11.27 MB

シャスタ・シティーからは、大小さまざまな湖と川と滝が存在するシャスタ山の南側へ向った。町にはまだ紅葉した木が見られたが、小さなタウン、マクラウド(McCloud)まで南下すると、葉が落ちたコットンウッドの枝越しにシャスタ山が見えた。展示されるように置かれている古い列車周辺は、少し前まで黄色い葉が美しかったコットンウッドの落ち葉で埋め尽くされ、冬を待つ晩秋の光景があった。

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雲の切れ目からようやく太陽が顔を出し、朝陽が落葉とMcCloudと書かれた文字に差しこむ光景を大口径標準レンズで切りとる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 30mm F1.4 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:14.50 MB

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晩秋のこの朝、タウンには人の姿は少なかった。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:3136 x 4704ファイルサイズ:20.00 MB

マクラウドからは、マクラウド川にある3つの滝のうちまだ行ったことがなかったUpper FallsとMiddle Fallsの2つ滝に立ち寄る。資料と地図で確認すると、マクラウド川の源泉はシャスタ山南東約20㎞付近の標高1,400m以上の森の中で、カスケード山脈からの幾つかの湧き水が川となったマクラウド川はシャスタ山の南を西へ流れ、貯水湖のマクラウド湖を経てシャスタ湖に流れ込んでいる。私がこの朝飲んだサクラメント川の水源付近の水もシャスタ湖へ注いでいる。

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夏には滝つぼに飛び込む人もいるというUpper Falls。この日は人影がなかった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:オート | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:35 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:14.19 MB

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マクラウド川がUpper Fallsに流れ込む手前。岩に引っかかって流れ落ちない木を自然な遠近感で捉える。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:オート | シャッター速度:1/25秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:85 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:3136 x 4704ファイルサイズ:10.12 MB

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Middle Fallsを見下ろす。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/30秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:18 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:16.27 MB

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マクラウド川まで下り、Middle Fallsをスローシャッターで捉える。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/6秒 | 絞り値:F16.0 | 焦点距離:23 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:9.95 MB

2つの滝を見た後、何度か訪れたことがあるバーニー・フォールズ(Burney Falls)へ向う。

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バーニー・フォールズへ向う途中、木を運ぶトラックに何台もすれ違う。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:14.43 MB

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マクラウド川源泉付近の州道89号から北のシャスタ山がよく見える区間があり、南から北上して来ると感動的な光景だ。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:85 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:13.30 MB

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枯れた草原を流れるクリークに空の色が映り込むのどかな風景。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:19.11 MB

バーニー・フォールズがある州立公園(McArthur–Burney Falls Memorial State Park)に来ると、シーズンオフで訪問客が少ないせいかパークレンジャーは不在で、名前と車の情報を用紙に書き込み、公園使用料を入り口付近に設置されたスチール製の小さなポストのような物の中に放り込む。駐車場から滝まで下りて行く短いトレイルは、ある場所を境にして極端に気温が低くなる。夏はその場所を通り抜けると冷房が効いた部屋に入ったようで、目に見えない空気のドアが存在しているように感じる。この日は寒く、気温の違いは夏よりは少なかったが、その場所を境に違う空間に入った気がした。

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晴れている日は虹を見るのが楽しみな滝。曇空のこの日、虹はどこにもなく、冷たい空気に混じって霧状の水滴がカメラを濡らす寒い日だった。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/25秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:12.48 MB

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滝に流れ込む前のバーニー・クリーク。大きな岩に引っかかることもなく、1本の木が流されずに留まっていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:0.4秒 | 絞り値:F16.0 | 焦点距離:18 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:10.18 MB

滝からは敷地の半分以上が閉まり、テントはなくキャンピングカーが1台だけ停まるキャンプ場を通り抜けて、ブリントン湖(Lake Brinton)に移動した。「ボートレンタル料金の値上がり方にはびっくりさせられるねー」と、お婆さんが連れの中年女性に話しかける湖畔には、傾いた陽の光が少しだけ雲の隙間から湖に届いたが、美しい夕焼けは期待できない空だった。

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夏場賑わう湖はこの日遊ぶ人の姿はない。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 35mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/4秒 | 絞り値:F16.0 | 焦点距離:35 mm
ファイル形式:JPEG画像サイズ:4704 x 3136ファイルサイズ:6.57 MB

落差約40mの滝には虹がいつも出て、ブリントン湖では遊ぶ子供の声がこだまするイメージがある州立公園は、この日は訪問者も少なく冬を待つ寂しい晩秋を感じた。シャスタ山周辺には水の精霊が住むという。こんな寂しい日は精霊に出会ってみたいと思いながら肌寒い湖畔を後にした。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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