押本龍一－私の出会う光景－第78回：エリジアン・パーク（Elysian Park）

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

ロサンゼルス市で最も古いパブリック・パークからダウンタウンに建つビルディング群を眺める。
エリジアン・パークは都会のオアシスだが、同時に都会の持つ様々な顔を垣間見る不思議な公園だ。

LAに住む人で、エリジアン・パークの名前は知らなくても周辺の道を通りパークの景色をどこからか目にしたことがある人は多いはずだ。何度も周辺を通り、公園の一部にも訪れたことがあった私もつい最近まで公園のロケーションを把握していなかった。数日前、ダウンタウンに近いエリアで犬の散歩ができる公園を探していると、エリジアン・パークの記事を見つけた。そして、そのユニークな立地に興味を持ち、公園を散策することにした。
平日の昼間、LAのダウンタウンからノース・ブロードウェイを東へ走りチャイナタウンを抜けるとすぐに公園南東部の入り口に到着する。入り口といってもサインは目立たず、知らないと見過ごしてそのままロサンゼルス川に架かる橋に入ってしまいそうな分かりにくい入り口だ。

公園南東部の入り口付近から東の方を見る。
赤い傘を差したアジア系の女性がロサンゼルス川に架かる橋を渡り歩いて来た。

ノース・ブロードウェイ沿いから公園に入る。道標が今にも倒れそうだった。

公園内に入るとすぐにElysianの大きなサインがあるが大通りからはよく見えず、このサインに気付く人は少ないと思う。

ロサンゼルス川に沿って、公園内の道を上がると車を停めて丘を登り歩いた。公園南東部は小高い丘になっていて、丘の上は木に覆われちょっとした森のようだ。すれ違った若者たちや犬を連れた中年男性はどこにでもいそうな声をかけやすい人たちだったが、丘の上まで来るとちょっと怪しそうな人たちを見かけ、丘の上から下へすぐに引き返した。

丘になった公園南東部分からロサンゼルス川を渡るメトロ・ゴールド・ラインが見える。

公園南東部分から南の方を見る。
あるはずの地図はなく、落書きが残されている。

西の斜面を下りて行くと、大きな木の下で若者たちがダウンタウンを眺めていた。

丘から下りて車に戻ると、公園を横断するステート・ルート110（Arroyo Seco Parkway）に架かる橋を渡り、貯水池の横を通り南東部の丘よりさらに高く上って行き、再びロサンゼルス川を見下した。

有刺鉄線が張り巡らされたフェンスにガードされた貯水池の入り口部分。

貯水池に水が見えなかったが、よくみると水面を覆う大きなカバーが見える。
2010年の4月に水が抜かれ土壌検査が行われたが、現在は貯水池として機能しているのかよくわからない。

渡って来た橋とステート・ルート110。

LAのダウンタウンには、大きなグラフィティ‐アートを見かけるが、コンクリートの土手に描かれたこの大きな絵は、グラフィティ‐アートと呼んでいいのだろうか。

曲がりくねった道を上って行くと野球場（Elysian Fields）が道の下に見えた。小さな子供用からリトルリーグ用と大人用、大、中、小の3個のフィールドがあり、大人用のフィールドにはハイスクールの野球部が練習をし、近くにあるロサンゼルス・ドジャースのホーム球場より高い位置にあるように見える。フィールドから少し先に行くとパークの高い部分を走る道は尾根道のようで、道の下からは銃声が響き渡っている。以前取材のため訪問したことがあるポリスアカデミーから連発して撃たれる銃声は花火大会のフィナーレのようで、警官を育成する射撃訓練とは言え、銃規制派をあざ笑っているかのように聞える。止まない銃声を背後に、道が180度近く曲がっているエンジェルス・ポイントまで来ると車を路肩に停め、見逃すことはない高さ約8m 50cmのメモリアルまで歩き遠くの景色を眺めた。メモリアルは、ロサンゼルス市警察、石油会社、住宅開発会社だけでなく、パークに侵入し乱開発をしようとした全ての者と戦ったカップル（Frank E Glass and Grace Simons）の名誉を称えてつくられた。

パームツリーが左右に立つ尾根道のような車道からドジャース・スタジアムが見える。
その手前の谷に微かに見える建物は、ロサンゼルス・ポリスアカデミー。

広範囲に渡りLAの風景がよく見えるエンジェルス・ポイント。
周辺の乱開発からパークを守ったカップルのメモリアルが建っている。

この近くに住むアーティスト（Peter Shire）により20年ほど前につくられたメモリアルは、落書され一部が壊されたが、同じアーティストにより去年修復された。

北北東の方向に、ハリウッドのサインとグリフィス天文台が霞んで見えた。

ここからサンタモニカ湾までは直線距離で26kmほどだろうか。陽光を反射する太平洋が西に光っていた。

エンジェルス・ポイントからは、ドジャース・スタジアムに行く際に多くの人が利用し、普段でも交通量が多いスタジアムウェイを横切り、犬の散歩に人気があるといわれる公園の西側に移動した。陽が傾き暗くなりかけていたが、小さな子供を連れて犬の散歩をする人や若いカップルの姿を見かけ、南東部から移動して来ると同じ公園内とは思えない。

公園内を貫いているスタジアムウェイ沿いのテーブルで、メキシコ系の老人たちがカードで遊んでいた。英語で話しかけてみるとスペイン語が返ってきた。

公園の西側には多くの人が犬の散歩に来ていて、犬はよくしつけられ飼い主からは都会の暮らしを感じる。

犬をリードから放して自由に遊ばせる人も多かった。

公園の西側から再びエンジェルス・ポイントに戻ると、陽が西に沈もうとしているところで、7，8人がサンセットを待っていた。

エンジェルス・ポイント・ロードにサンセットを見に来た若者たち。

エンジェルス・ポイントからは、公園南東部から走って来た道を戻った。公園を横断するフリーウェイ（Arroyo Seco Parkway）に架かる橋の手前で車を停め橋の真ん中まで歩き、フリーウェイを見下ろし三脚にカメラを据えつける。橋を渡ると昼間怪しい人達を見かけた公園南東部の丘に繋がっている。私はのんびりと写真を撮る気にはならず、数枚の写真を撮るとすぐに車に戻った。
公園から出てノース・ブロードウェイを東へ走り出すとすぐに、真っ赤なライトに染まる小さな寺が建っていた。昼間その存在に気がつかなかった寺は、暗くなった夜は見逃すことはない存在感を持っていた。

パークを横断する南に向うステート・ルート110に架かる橋からダウンタウン方向を見る。
左手に見える北に向かうステート・ルート110は、エリジアン・パークの下に掘られたトンネルを通っている。

人通りの少ない大通りに建つ寺は、両隣にアパートらしき建物に挟まれ人通りは少ない。

公園を紹介しているサイトで、「どこまでも広がっているようで、同時にどこにあるのか分からない」とあるが、エリジアン・パークはドジャース・スタジアムに南部を大きくえぐり取られ、北に張り出した太い弓のような形をしていて、公園の敷地を把握するのは地図を見ながら散策しないと難しい。
ステート・ルート110が南東部に走り、北東部はインターステート・フリーウェイ5に面している。さらに抜け道として走る車が多いスタジアムウェイが西側を南北に走っている。公園内だけでなく周辺にも多くの車が走り、ダウンタウンから近い公園だが、チャイナタウンに近い南東部は世間から忘れ去られたような空気が漂っている。
ロサンゼルス市で最も古い面積約2.4 km²のパブリック・パークの端から端まで散策するのは、都会が持つ様々な顔に遭遇するアドベンチャーかもしれない。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。