押本龍一－私の出会う光景－第91回：モハベ国立保護区の秋

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

9月下旬、モハベ国立保護区（Mojave National Preserve）の東の空は明るくなってきたが、西の空はまだ暗く星が見えていた。岩山の後からはコヨーテだと思われる動物の鳴き声が聞こえてきた。私はシャッターを開け、夜明け前の時の流れを記録した。

夏の早朝、ラスベガスからLAに戻る際、少し寄り道をして砂漠の風景を見ることにした。まだ暗いうちにインターステート・フリーウェイ15号（I-15）から出てモハベ国立保護区に入り、周囲にたくさんのジョシュア・ツリーが生息する保護区の北部で日の出を迎えた。

陽が昇る前はとても過ごしやすい気温だった。この辺りはジョシュア・ツリー国立公園よりジョシュア・ツリーが密集して生息しているかもしれない。

陽が昇ると急激に気温が上がった。ジョシュア・ツリーの影に入り、朝陽にシルエットになった岩（Sunrise Rock）の上に立つ十字架（Mojave Memorial Cross）にフォーカスする。

夏に立ち寄ったモハベ国立保護区で、サンライズ・ロックと名づけられた岩の上に立つ白い十字架が目に焼きついていた私は、9月下旬、キャンプ道具を積み込みモハベ国立保護区へ向った。昼前にLAから北上し、ネバダ州に入る手前約40 km付近でフリーウェイI-15を出てシマ・ロード（Cima Road）を南へ走る。午後の4時には太陽はかなり傾き、先月死ぬほど暑かった砂漠には秋を感じる風が吹きジャケットを着る。

牛を追いやるための柵であろうか。すでに長い影が伸びていた。

サンライズ・ロックと呼ばれる岩の周辺は保護されている。「全ての戦争で亡くなった人へ」と書かれたプレートと岩にレンズを向けると、まるで手で触れているかのようなリアルな質感が描写された。

フリーウェイを出てほとんどすれ違う車がないシマ・ロードを26 kmほど南へ走りシマに到着する。資料によると数人の人が住んでいるらしいが、人の気配は全く感じない。シマからは、かつて鉱山と鉄道で栄えたタウン、ケルソー（Kelso）に繋がるケルソー・シマ・ロードを南に8 km走り、貨物列車が通る線路を渡るとダート道のシダー・キャニオン・ロードを東へ8 km行きブラック・キャニオン・ロードを南下した。

標高1,273 mのゴーストタウン化したシマ。数年前に来た時は建っていた家が崩壊していた。

ケルソー・シマ・ロードは、貨物列車が走る線路と並行していて、線路沿いには電信柱が規則正しく立っている。

ダート道のシダー・キャニオン・ロードを行く。

ブラック・キャニオン・ロードを5㎞ほど南に行くと、大きな岩が点在している。

岩が点在しているエリアに来ると陽が沈みかけ冷たい風が吹いてきた。ブラック・キャニオン・ロードから逸れてダート道であるワイルド・ホース・キャニオン・ロードを3 kmほど走りミッド・ヒルズ・キャンプ場に到着すると、辺りはすっかり暗くなっていた。サイトを探すためキャンプ場を一回りすると1台の車が奥の方に停まっていただけだった。標高1,700 mのキャンプ場は寒く、木に囲まれたサイトに車を停めるとすぐに薪に火をつけ長い夜に備えた。夜中になるとさらに冷え込み、秋の砂漠を体験しに来たつもりだったが冬の到来が近いと感じさせられた寒さだった。

乾燥しているので薪はよく燃えた。この夜はテントを張らず愛犬と車の中で寝たが、寒くて熟睡は出来なかった。

翌朝、寒さでよく眠れなかった体で車から外に出ると冷たい風が吹いていたが、愛犬のシベリアンハスキーには気持ちのいい風だったようだ。私は暗いうちにキャンプ場を後にし、岩が点在している周辺で陽が昇るのを待つことにした。

キャンプ場から東へ向って走る。

陽が昇る前、東の空がオレンジ色に染まり、風向風速計が激しく回転していた。カメラを三脚に据えスローシャッターで撮影。

朝陽で私と愛犬の影が長く伸びる。

大口径標準ズームレンズで朝陽が染まる錆びたブリキにフォーカスした。高画質なセンサーには、ブリキの質感と同時に朝陽の暖かさも残されていた。

朝の光に染まる砂漠の花。

風で激しく揺れていたが、風の弱まった一瞬を待って撮影した。

前日に走って来たダート道を引き返してケルソー・シマ・ロードに戻り、かつてシマまで上って来るのに蒸気機関車にとっては大変な区間だった線路と並行している道をケルソーまで南に下った。ケルソーにはビジターセンターが建っているが、シマと同じようにゴーストタウンに見える。

ケルソーに立っている朽ちかけたバスケットゴール。ボールを当てると落ちてしまいそうだ。

ケルソーからは、南にある砂丘まで行きかけたが、風で砂ぼこりがひどそうだったので、ケルベイカー・ロード（Kelbaker Road）を北上し、フリーウェイI-15に入りモハベ国立保護区を後にした。

ジョシュア・ツリーの間を木の柵がどこまでも続くように見えた。彩度を落とし乾燥したこの地の空気感を強調。

モハベ国立保護区の北東部には噴石丘と溶岩が見られる。

舗装された道から逸れて行くと、計算されて造られたような土手があった。

犬と共に土手を上ると黒い大地が広がっていた。

カリフォルニア州サンバーナディーノ郡の州間高速道路15号（I-15）と州間高速道路40号（I-40）の間に位置するモハベ国立保護区は、ジョシュア・ツリーをはじめ多くの砂漠の植物が見られ、キャンプ場で夜を過ごすせば大地と一体になった気がする。この保護区には何度か違う季節に来てみたが、訪問者はいつも少なく自由に動きまわれた。次回は、沢山の花が咲く春にテントを張ってみたい。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。