第100回:諏訪湖周辺の冬(前半)
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第100回:諏訪湖周辺の冬(前半)

記録的な大雪が降った2月の中旬、長野県の岡谷市、諏訪市、諏訪郡下諏訪町にまたがる諏訪湖の湖岸は深い雪に覆われ、氷が張った湖面は西の山に沈んでゆく太陽に輝いていた。深い雪に足を取られながら湖面まで歩き、湖を眺めていた男性に挨拶すると、「時間が止まったような光景ですね」と男性は感慨深く言った。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:22 mm

大雪のため身動きが取れなくなっていた私は、予定より4日遅れて長野県のほぼ真ん中に位置する諏訪湖に向った。閉鎖されていた中央自動車道はまだ片道通行だったが、走る車は少なく快適なドライブで諏訪湖サービスエリアに到着する。上り線のパーキング場では雪かきが行われ、湖畔に見える建物の全ての屋根は雪に覆われている。この日はかなりの冷え込みだったが、サービスエリアから見る湖には氷が張っているようには見えなかった。サービスエリアで温かい蕎麦を食べた後、長野自動車道に入り岡谷インターチェンジで高速道路を降りて中山道を東へ走る。30年以上も前にアメリカに渡り日本国内のことは歳の割によく知らない私は、諏訪湖は何もない盆地にあるのだろうと想像していたが、道を走る車は多く建物も密集して建っている。諏訪地方の人口は縄文時代には日本一だったと、知人から後で教えてもらったのだが、諏訪湖は大昔から人を引き付ける何かがあるようだ。

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湖の南側に位置している諏訪湖サービスエリアで、下り線から上り線のパーキング場と諏訪湖を見下ろす。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:95 mm (50-150)
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:14.8 MP (3136 x 4704) | ファイルサイズ:16.54 MB

中山道を走って行くと交差する道に大きな鳥居が建っている。大きな鳥居をくぐって進むと、その先の旧中山道沿いに諏訪大社下社春宮(すわたいしゃしもしゃはるみや)が鎮座している。諏訪大社は、湖南の「上社本宮」と「上社前宮」、湖の北の「下社秋宮」と「下社春宮」の4箇所の社の総称で、上社と下社には社格に序列はないようだ。

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下社春宮の一の鳥居。境内入口までは約600m。鳥居をくぐる車のドライバーは鳥居を意識する様子もなく通り過ぎる中山道との交差点。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:9 mm
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境内に繋がる道は、武士達が流鏑馬(やぶさめ)を競った馬場で下馬橋(げばばし)と呼ばれ、下社では最も古い建物で道の真ん中に建っている。膨らんだ下馬橋の約100m先には御影石の大鳥居が見える。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:95 mm (50-150)
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手水舎から1656年建立と推定される御影石の大鳥居を見る。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:18 mm
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下社春宮の駐車場に車を停め、境内周辺を歩く。大雪のため境内はお参りに来た1組の親子がいるだけで静まり返っている。御柱(おんばしら)と呼ばれる社殿の四方に建つモミの木が目を惹くが、境内の外も神秘的な雰囲気が漂っていた。春宮の西を流れる砥川(とがわ)の中洲を通り、万治の石仏(まんじのせきぶつ)まで歩く。看板に書かれているお参りの仕方の通り、石仏に正面で一礼し手を合わせて「よろずおさまりますように」と心で念じ、石仏の周りを願い事を心で唱えながら時計回りに三周し、正面に戻り「よろずおさめました」と唱えてから一礼をする。

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拝殿に向かって左手前に立つ春宮二之御柱。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:18 mm
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下社春宮の横に流れる砥川(とがわ)の中州にある小さな浮島神社にも4本の御柱が建っている。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:18 mm
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春宮に石の大鳥居を造る際、石にノミを入れたところ、血が流れ出し石工達は恐れをなし仕事を止めた。その晩石工は夢枕で良い石材がある場所を告げられ、鳥居は無事完成し、石工が万治3年(1660年)に阿弥陀如来を祀ったと言われる万治の石仏。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:29 mm (18-35)
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春宮に戻り旧中山道を東へ少し歩いて行くと、「龍の口」と呼ばれる慈雲寺へ登る石段の前に出る。石段の横には旧横川村(現在の岡江市)の石工、山田金右衛門の作とされる竜頭の口から水が流れ出ている。近所に住むという散歩に来たご婦人が「この水は美味しいのよ」と言って水を飲み、旧中山道を歩いて行く。私は石段の途中まで登り、「矢除け石」と呼ばれる大きな石を見た後、慈雲寺までは行かなかった。

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慈雲寺に参拝する人のために作られた竜頭水口は、江戸時代、中山道を往来した人の喉を潤した。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:25 mm (18-35)
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慈雲寺へ登る石段の途中は、幾つかの神様が祀られている神秘的な林になっている。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:8 mm (8-16)
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「矢除け石」は、武田信玄が川中島の合戦に行く途中、石の上に立つ慈雲寺の僧に向かって弓の名手に矢を射らせたが、矢は岩にはね返され僧には当たらず、信玄は、矢よけの石の念力がこもった矢除札を受け川中島へ向かったという伝説がある。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:20 mm (18-35)
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幾つかの神様が祀られている林には小さな滝が流れ落ち、滝の前には注連縄が張られている。肉眼では白い紙に見えた紙垂(しで)の質感を捉えた画像は、神秘的な空気が刻まれていた。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm
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下社春宮の周辺を散策した後、春宮から1kmほど東の旧中仙道と甲州街道の分岐点に鎮座する下社秋宮に立ち寄った。秋宮の境内は底知れぬ神聖な空気に満ち溢れていたが、陽が傾き始めると急激に冷え込んできたので長居はしなかった。

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下社秋宮の一之御柱。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:18 mm
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雪かきをする巫女さん。境内の陽光の届かない所は冷え込んでいた。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:50 mm
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境内の建物から下がる氷柱に遅い午後の光が差す。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:76 mm (50-150)
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諏訪大社に献上された地元のお酒。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:35 mm (18-35)
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下社秋宮からは、諏訪大社下社の「木落し坂」へ向った。山から御柱としてモミの木16本(上社本宮・前宮、下社秋宮・春宮各4本)を切り出し、各地区の氏子の分担で人力のみで4箇所の各宮まで曳行し、社殿の四方に建てて神木とする御柱祭は1200年以上の歴史がある大祭だ。申と寅の年の4月に山から里まで曳き出す「山出し」、里から神社まで曳行し御柱を建てるまでの「里曳き」が5月に行われる。下社と上社は、木を切り出す山が違いその曳行も少し違うが、御柱は大きいもので直径が1m、長さが18m余り、重さは12,3トンにも及び、過去に死者も出ている。

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下社山出しの最大の見せ場である最大斜度35度、長さ100mの急坂を御柱が落ちる木落が行われる「木落とし坂」の上は雪に覆われていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:18 mm
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木を落す「木落とし坂」の上に生息する松には、注連縄が張られ神聖な空気感が漂う。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:18 mm
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「木落とし坂」からは、この日の宿がある諏訪湖東岸に移動した。

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湖岸は雪に覆われ、湖岸付近の湖面は氷が張っていた。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:50 mm
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東岸から見る湖面は、湖の真ん中ぐらいまで氷が張っているように見えた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:35 mm (18-35)
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湖岸に積もった雪が、柔らかい夕方の光に染まる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:35 mm (18-35)
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夕焼けにはならず暗くなった諏訪湖の夜。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:0.8秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:21 mm (18-35)
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昨年暮れに日本3大パワースポットと言われる能登半島の先端まで旅をして以来、私は日本のパワースポットに興味を持ち、糸魚川静岡構造線と中央構造線が交差する諏訪湖周辺に来たいと思っていた。諏訪湖は断層運動によってできたくぼ地に水が溜り生まれた断層湖で、特別なエネルギーがあると言う人がいる。私は、宿泊したホテルの露天風呂に浸かりながら、諏訪湖の氷の割れ目が盛り上がる「御神渡り(おみわたり)」が明日見られることを期待した。(後編に続く)

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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