シグブラ
第65回:風と坂の街ブラブラ

風と坂の街ブラブラ

September 30, 2015

ふだんあまり利用していない航空会社からメールが来た。「9月いっぱいでマイルが失効します」という内容だった。ちょうどポッカリ空いた時間があったので、マイルで航空券を取って出かけることにした。といってもわずかなマイルしかないので遠くには行けず、再び北陸方面に飛ぶことになった。

ノープランで空港に降り立つ。ひとまず空港から駅に向かうバスに乗り込み、iPhoneで近隣の情報を収集する。事前にしっかりと下調べをして旅を楽しむのもいいが、行き当たりばったりで気ままにブラブラするのもいいものである。何となく行き先が決まったところでバスは駅に到着した。ここからは列車の移動だ。30分ほど揺られて川沿いにある街に辿り着いた。

小雨の中を歩き出す。道は川に沿って徐々に高度を稼ぎ、気がつくと先ほどまですぐ横にあった川面がかなり下の方に見えた。趣のある路地をブラブラと進むと大きな寺に行き当たった。雨脚が強まったので、しばしの間軒先を借りて雨をやり過ごすことにした。

雨が小降りになったのでレインウェアを着て再び歩き出す。この街はほんの何日か前は盛大な祭りですごい人出だったようだが、今は人影まばらである。

祭りの名残がいたるところに残っている高台に立った。街と川の境界はまるで城壁のような印象を受ける。手すり越しに下界を眺めていると、ときおり吹く強い風で雨が頬を叩いた。

石畳のゆるやかな坂を登っていく。品良く美しく整えられた街並みがとてもいい感じだ。ここまで誰も見かけなかったが、ようやく地元の人が立ち話をしているのを見つけてなぜだかホッとした。

石畳の道を振り返る。天候のせいもあるが真っ昼間だというのに全く人がいない。なんだか映画のセットを歩いているような気がしてきた。江戸時代からの町人文化が今も息づいている街なのだが、昔からこんな感じなのであろうか。しかし日本の道100選に入っているだけあって味わいのある道である。写真の撮り甲斐があって嬉しい。

行ったり来たりと街中を撮り歩く。懐かしい雰囲気の喫茶店でコーヒーを飲んだあとは、いよいよ坂を下りてみることにした。店を出て適当に路地に入ると階段が現れた。かなりの急勾配だ。ゆっくりと階段を下りきって坂道に出た。が、ここもなかなかの下り勾配である。自転車に不慣れなのか、子どもが自転車を押して歩いて下っていく。冬に雪が積もったら、ここを行き来するのはかなり大変そうだと思った。

坂を下りきって川を渡って対岸に出た。こちら側から眺めると坂が壁に見える。なかなか壮観な眺めだ。子どもたちが自転車を押して急坂を上がっていくのが見えた。あてもなく訪れた街だったが、美しい道を静かに楽しむことができた。さて次はどこをブラブラしようかと考えながら、駅に向かって歩くことにした。

三井 公一

プロフィール

三井 公一
1966年神奈川県生まれ。
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、Web、ストックフォト、ムービーなどで活躍中。
iPhoneで独自の世界観を持つ写真を撮影、その作品が世界からも注目されているiPhonegrapherでもある。
2010年6月新宿epSITEで個展「iの記憶」を開催。同年10月にはスペインLa Panera Art Centerで開催された「iPhoneografia」に全世界のiPhonegrapherの中から6人のうちの1人として選ばれる。
公式サイトはhttp://www.sasurau.com/
ツイッターは@sasurau

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