シグブラ
第47回:年末の団地ブラブラ

年末の団地ブラブラ

December 24, 2014

かなり昔の幼い頃に、内部に巨大な空間を持つ団地を訪れたことがあった。その中では多くの子どもたちが遊び回り、併設された商店もとても活気があったのを何となく覚えていた。ふとそのことを思い出して調べてみると、当時住んでいた場所からさほど遠くない場所にその団地はあった。もう忘れてしまったが、きっと誰かが住んでいたか何かで訪れたことがあったのだろう。そうだ、久しぶりに行ってみよう。と、年末の慌ただしい中、カメラを抱えてその場所に行ってみた。

そこにかつての面影はどこにもなかった。小雪が舞いそうな寒空の下というのもあるが、その場所に活気というものがどこにも存在しないように思えた。シンボルである団地内の空間を冷気が通り過ぎて行く。行き交う者は年老いた人が殆どで、昭和当時のように多くの子どもたちが遊び回るという光景は見られなかった。

しかしこの建造物はとても魅力的だ。著名な建築家の設計なので、訪れているときも建築ファンがカメラを片手に歩いているのを見たほどである。空間の真ん中に立ち、上を見ると四角い青空を白い雲が横切っていった。

内部構造も興味深い。初めは迷路のように感じたが、しっかりと規則性があって設計者の意図が伝わってくるようで面白い。本当にかすかな記憶を頼りに、昔訪れた辺りを探してみたが、何も発見することはできなかった。

当時のように人で溢れかえってはいないが、この団地には今でもかなり多くの人々が暮らしているに違いない。いったいどれくらいの人が住んでいるのだろうか。長い通路と深い吹き抜けを見てそう思った。

通路から外を見ると小雪が舞っていた。荒々しい雪雲が西の空から団地に近寄ってきているのが見えた。寒い。

再び地上に降りる。空間の下まで小雪が舞い降りてくるのを期待したが、残念ながらそれはなかった。大雪の時はどうなのだろうか。

遠くで子どもの遊ぶ声が聞こえた気がして、先ほど吹き抜け上から見た部分に行ってみた。小学生だろうか、数人子どもが遊んでいる姿を見ることができた。なぜだかわからないがホッとして団地をあとにすることにした。

いつの間にか雪雲は去り、僅かだが西日が差してきたようだ。外から団地を改めて見るとその存在感に圧倒される。まるで要塞か何かのように見えた。久しぶりにここを訪れて記憶の上書きができたが、帰路にまた別の記憶が蘇ってきた。「次はそこをブラブラしようかな」と思いつつ、停留所で帰りのバスを待った。

三井 公一

プロフィール

三井 公一
1966年神奈川県生まれ。
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、Web、ストックフォト、ムービーなどで活躍中。
iPhoneで独自の世界観を持つ写真を撮影、その作品が世界からも注目されているiPhonegrapherでもある。
2010年6月新宿epSITEで個展「iの記憶」を開催。同年10月にはスペインLa Panera Art Centerで開催された「iPhoneografia」に全世界のiPhonegrapherの中から6人のうちの1人として選ばれる。
公式サイトはhttp://www.sasurau.com/
ツイッターは@sasurau

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