シグブラ
第8回:思い立って遠州灘ブラブラ

思い立って遠州灘ブラブラ

May 17, 2013

ゴールデンウイーク明けの高速道路は週末に関わらず空いていた。行き先を決めずにカメラを持ってドライブだ。途中サービスエリアのコーヒーショップで熱いブラックコーヒーを胃袋に流し込み、左手に海を見ながら新しい道路を走った。まだまだ走り続けてもよかったが、ふと思い立ってターンシグナルを点滅させ、出口へとステアリングを切った。

高速道路を降りるとそこは川べりだった。クルマを少し上流に走らせ高台に登る。大井川が大きく蛇行し幾つかの橋を潜り、太平洋へと進むさまが見えた。雲がゆっくりと海からこちらへと向かってくる。ここまで目的もなく西進してきたが、ここからは南下して遠州灘に向かうことにした。

アップダウンを繰り返す地形を走る。美しく刈り込まれた茶畑が丘全体を覆い、まるで生き物のようだ。そういえば新茶のシーズンだ。街道沿いの店舗には幟が立ち並び、新茶を買い求める観光客で賑わっていた。

浜岡原発の前を通り遠州灘に出た。ところどころ浜辺に出られる道があるので立ち寄る。関東の海と違いワイド感と波のパワーが迫力あって水平線が広く感じた。海と陸地との境界線上空で雲が湧いていて、見ていると面白く飽きない。御前崎灯台の向こうで雲がのたうつ。

磯遊びをする家族連れや、散策するカップルなどで浜辺はそこそこの人出だ。スケールは異なるが、カリフォルニアのレイズ岬の雰囲気になんとなく似ている。あちらは延々とクルマを走らせ、サンアンドレアス断層を越え、断崖絶壁が視界の果てまで続くというダイナミックさがあるが。

遠州灘から駿河湾に入り込む。点在する海水浴場では気の早い若者が泳いでいるのを見た。たしかに今日は暑い。クルマの窓を全開にして、風を味わいながらゆっくりと知らない街を流すのが心地よい。気がついたら大井川の河口に辿り着いていた。川幅が広い。堤防を駆け上がると多くのネコたちに歓迎された。

川が海と交わる場所までカメラを持って歩く。水際まではこぶし大の石が続いて歩きにくい。波が砕け飛沫が霞状になって辺りを覆っていく。傾いた日がそれを靄のように演出し遠くがぼんやりとしている。釣り人が遠くを見つめたまま動かないが、何を考えているのだろうか。

何処かで野宿しようと思ったが、急に仕事が入り帰ることになった。朝降り立った場所へと大井川を遡る。途中蓬莱橋に寄った。ここに来るのはとても久しぶり。897メートルの木造有料橋は本当に美しい。日没間際だったが、アジアからの観光客が多く訪れていた。日が完全に沈むまで橋を眺め、次のブラブラを考えつつクルマに戻って東京に向かった。

三井 公一

プロフィール

三井 公一
1966年神奈川県生まれ。
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、Web、ストックフォト、ムービーなどで活躍中。
iPhoneで独自の世界観を持つ写真を撮影、その作品が世界からも注目されているiPhonegrapherでもある。
2010年6月新宿epSITEで個展「iの記憶」を開催。同年10月にはスペインLa Panera Art Centerで開催された「iPhoneografia」に全世界のiPhonegrapherの中から6人のうちの1人として選ばれる。
公式サイトはhttp://www.sasurau.com/
ツイッターは@sasurau

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