シグブラ
第81回:初夏の中州ブラブラ

初夏の中州ブラブラ

May 30, 2016

駅前から路面電車に乗る。クルマと一緒に走り出した車両は、道路の凸凹を拾いながら、時に荒っぽく揺れながら進んでいく。天気は快晴で気温はかなり高い。あまりにも暑いので、開け放たれた窓から流れ込んでくる、僅かながら湿った風さえも心地よく感じた。大通りをいくつかターンし、川を越えると終着駅に辿りついた。今日はここからブラブラ撮影のスタートだ。

路面電車がたくさん停車している車両基地を眺めつつ、ブラブラと歩き始める。今日はSIGMA dp0 Quattroとdp3 Quattroの2台体制だ。この組み合わせはメリハリが効いてなかなか面白い。もちろんLVF-01を両方に装着している。今日のように晴れている日には必須だ。

線路沿いを来た方向に進む。ほどなく川に浮かぶ中州に着いた。川に挟まれた中州は寄り添うようにして2つあった。ここはかつて中州ごと遊郭だったという。まずは東側の中州をブラブラと歩き始めることにしよう。路面電車の音に気付いて振り返ると、干上がった川床を少女が歩いて中州に渡るところだった。

暑さのせいか人通りのない街を歩く。長さ約五百メートル、幅百メートルほどの中州には、かつての面影を残す建物がいくつも存在していた。そのどれもが長い年月を経て朽ちかけ始めている。

なかには崩れてしまっている建物もあった。雨を凌ぐためのブルーシートもかなり色褪せている。住んでいる人はいるのだろうか。

西側の中州に渡る。先端の宅地はキレイに更地になっていた。地面の基礎工事跡を見ると、以前は複数の住居が建っていたことが覗える。もっと早くここを訪れていれば昔ながらの建物を撮ることができたに違いない。自分以外誰もいない更地を、暑い風が砂埃を巻き上げて吹き抜けていった。

中州を貫く橋の下で小休止を取る。ここではじめて地元の人を見かけ挨拶を交わした。橋の下の階段を降りると川辺に出た。東側と違ってこちら側は水量が豊富で、モーターボートに引かれたウェイクボーダーが飛沫をあげて通過していくほどである。

橋の下には何ともいえない落書きが。壁から生えているパイプの取り回しもなかなか面白い。このようにしなければならない理由があったのだろうか。

路面電車の軌道がある橋と、国道の橋が架かる2つの中州をくまなく歩いたが、ここは昭和のまま時が止まっているような印象を受けた。少し上流に行けば有名な庭園公園やお城があるとは思えない雰囲気である。しかし、このコントラストがとても魅力的であった。そこかしこに少し昔の残滓があって、カメラを持って散策するにはいいところかもしれない。

三井 公一

プロフィール

三井 公一
1966年神奈川県生まれ。
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、Web、ストックフォト、ムービーなどで活躍中。
iPhoneで独自の世界観を持つ写真を撮影、その作品が世界からも注目されているiPhonegrapherでもある。
2010年6月新宿epSITEで個展「iの記憶」を開催。同年10月にはスペインLa Panera Art Centerで開催された「iPhoneografia」に全世界のiPhonegrapherの中から6人のうちの1人として選ばれる。
公式サイトはhttp://www.sasurau.com/
ツイッターは@sasurau

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