dpのレンズを設計する上で大事なことはたくさんあるが、それをひとことで言えば、「Foveonセンサーの性能を完全に引き出すものであること」となる。「センサーに合わせてレンズを設計し、それをボディに固定させる」という方法は、そうすることでしかこのセンサーの性能を100%引き出せないという判断からだった。
dp0の製造現場では、作られたボディとレンズをマッチングさせる際、センサーのアライメントを撮像を見ながら1台ずつ調整して出荷している。どれほど厳しい品質管理がされていても、作られたパーツにはごくわずかな「ばらつき」が必ず発生する。個々のレンズとボディの組み合わせを決められないレンズ交換式のカメラの場合、このばらつきは誤差として無視するしかない。逆に言えば、無視しても構わない程度の誤差ということだ。しかしdp0はレンズとボディを一体化させたカメラである。これを無視したらその意味がなくなる。Foveonセンサーはこの誤差を許容しないのだ。通常はセンサーアライメントのばらつきが0.06mm以内であれば誤差として許容できるところを、dp0では0.012mm以内まで追い込む。どんなに手間がかかろうとも省略できない工程である。
もう一つ。「MTF曲線」というものがある。簡単に言うと、被写体のもつコントラストを、レンズがどれだけ忠実に再現しているかを表し、レンズの性能を評価するものだ。シグマで使用しているMTF測定器には、実はFoveonセンサーが搭載されている。つまり、Foveon用に設計したレンズは、もはやFoveonでしか測定できないということだ。それほどまでに、dpのレンズはFoveonセンサーに特化している。また、各メーカーのマウントに合わせて製造する交換用レンズも、この測定器を使って設計している。普通の測定器では測ることができない小さな粗まですべて見えてしまうため、自ずとシビアな設計が要求される。結果的にFoveonではない通常のセンサーに対してはオーバークオリティとも言えるレンズが出来上がるが、Foveonセンサーを採用したdpシリーズ、あるいはSDシリーズで培った設計技術が、シグマ製レンズ全体の性能の底上げにつながっている。
2015年7月10日、SIGMA dp0 Quattro発売。技術者というのは、設計が終わってもそれが実際に世に出るまでは安心できないものだ。この日を迎えて、幸野、冨永を始めdp0の開発に携わった者はみな、やっと安堵のため息をつくことができた。しかし、世に出た後も改良・改善は続けられる。次なる商品の準備も待っている。さまざまな基礎研究も急がなければならない。チャレンジは、まだ続く。