第226回:新元号「令和」ゆかりの地・太宰府 Dazaifu, a land related to the new era 'REIWA'
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
1982年、2年の留学予定で渡米。1984年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更し広告写真スタジオで働き始める。1991年フォトグラファーとして独立。1995年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移しエンターテインメント関係の撮影中心に活動。2018年より日本とアメリカの二重生活。近年は旅写真にも力を入れている。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第226回:新元号「令和」ゆかりの地・太宰府 Dazaifu, a land related to the new era 'REIWA'

5月1日、令和初日の午後、福岡県太宰府市にある坂本八幡宮には参拝を待つ人の長蛇の列が、大宰府政庁跡の西側を通り南北に伸びる道にでき、新元号「令和」ゆかりの地として突然世間の注目を集めた小さな神社は、途切れなく訪れる参拝客の対応に追われていた。

使用機材:SIGMA sd Quattro H + SIGMA 24-70mm F2.8 DG OS HSM | Art | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:モノクローム | シャッター速度:1/160 秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:37mm

4月1日、平成に代わる新元号は「令和」と発表された。「令和」の引用素となった「万葉集」の「梅花の歌」は、大宰帥(だざいのそち)、今でいう大宰府の長官であった大伴旅人(おおとものたびと)邸で開催された「梅花の宴」で詠まれ、福岡県太宰府市にある坂本八幡宮周辺は、大伴邸宅跡の可能性が高いと報道された。元号が「令和」になった5月1日、私は羽田から福岡へ飛んだ。11年ぶりに福岡空港に降り立つと、車で迎えに来てくれた太宰府在住の親類に頼んで坂本八幡宮へ連れて行ってもらった。普段は宮司が常駐せず、祭祀の時に太宰府天満宮から宮司が派遣されると聞く小さな神社に到着すると、参拝客が予想以上の長い列を作っていた。年配の氏子が、「御朱印はお一人様一枚でお願いします」と繰り返すアナウンスが響き渡り、おめでたい空気に包まれてはいるが非常事態だと、氏子の慣れない対応を見て感じる。「令和」初日、参拝も御朱印も数時間待ちのようだったが、小さな境内に入って参拝せずに帰る人も数人見かけ、私もそのひとりとなった。境内には特別な物は見当たらず、陽も傾いて来た神社に長居はせず、坂本八幡宮北東の高台に建つホテルでチェックインを済ませ、11年ぶりに会う親類と夕食に出かけた。食事からホテルに戻り、坂本八幡宮で配っていた「令和は、ここ坂本八幡宮から生まれました。」と書かれたパンフレットを見ていると、今後は宮司の常駐が必要だなと思った。

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小さな境内にある万葉歌碑、その後方には参拝を待つ人の長蛇の列。神社のパンフレットによると大意は、「私の住む岡に牡鹿(おじか)が来て鳴いている。今年初めての萩の花が咲き、牡鹿がやってきて妻問いをしていることよ。」となり、太宰府旅赴任後間もなく妻を亡くした大宰帥(だざいのそち)大伴旅人の暮らしは心淋しいものだったようだ。

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長い列を待って社殿前で参拝する光景に特別なものはなかったが、めでたい空気に満ちていた。

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大宰府政庁跡の西側を通る道から、西陽が差す坂本八幡宮の境内へ入る参拝客。長く待たされても参拝客は皆嬉しそうな表情をしていた。

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坂本八幡宮で配布していたパンフレットには、坂本八幡宮についてのものと、太宰府についてのものがあり、太宰府の方にある地図上で「歴史の散歩道」という道を見つけた。翌朝、私はホテルから「歴史の散歩道」へ歩いて向かった。東から九州の寺院を代表する観世音寺(かんぜおんじ)周辺まで歩いて来ると、左手には平らな土地が広がり、右手には四王寺山(しおうじやま)が控え、かつて7世紀後半から12世紀前半にかけて地方最大の役所である「大宰府」が置かれた地域の地形が少しずつ見えてきた。

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宿泊したホテルから「歴史の散歩道」へ向かう途中、車道から逸れて地元の人の散歩コースになっている道を歩く。

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路上で見かけた小さめのマンホールの蓋。太宰府市の市の花である梅模様が彫られてある。

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初夏の様な陽気、草木が茂る地元の人が歩く散歩道でトンボを見かけた。

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この日の「歴史の散歩道」のスタートは、自然石を祀ってある朝日地蔵前から。ここは歩行者も車の往来も多い通りだ。

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この辺りから「歴史の散歩道」らしい雰囲気になった。大きな木の左は猿澤池跡で、その奥は九州の寺院を代表する観世音寺(かんぜおんじ)の境内。

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「歴史の散歩道」の北側に面して鳥居が建っていた。登っていく参道に惹かれ日吉神社の境内へ向かった。

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観世音寺北の小山にある日吉神社の境内へ登り、社殿の後方を撮影。この神社は観世音寺の鎮守社で、豊臣秀吉が陣を張ったことで知られている。

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日吉神社がある小山は生命力に満ちた樹木が茂り、どの木も御神木に見える。

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創建は7世紀後半とされる天台宗の寺院、観世音寺。建物はすべて近代に再建されている。

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観世音寺の境内を南へ歩き、交通量の多い政庁通りに出て761年に観世音寺の境内の西南部に創設された戒壇院(かいだんいん)へ向かう。開基は、唐僧の鑑真、聖武天皇(勅願)。

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戒壇院の境内外から大きな木の影に入り本堂を見る。戒壇とは、仏教僧に戒を授ける場所で、戒壇院は、奈良の東大寺と下野(栃木県)の薬師寺と共に天下三戒壇のひとつ。

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観世音寺から西へ少し歩くと万葉歌碑が建っていたが、立ち寄る人もまばらで、「歴史散歩道」を歩く人も思ったより少なかった。

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九州の政治・文化の中心地で、国の外交や対外防備の拠点だった大宰府の中枢、太宰府政庁跡の正殿跡と後方の四王寺山。

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坂本八幡宮に近い太宰府政庁跡は人出がさほど多くなかったので、前日に続き再び坂本八幡宮に近づいてみたが、令和2日目も参拝を待つ人の長い列ができていた。疲労のためか無愛想だった年配の氏子によると、御朱印は3時間待ちだった。この日は初夏のような陽気で気温が高かったせいもあると思うが、令和初日と比べると他の氏子も前日見せていた笑顔が少ないように見えた。

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令和初日の前日同様、この日も参拝客が長蛇の列をつくっていたが、前日よりごった返しているように見えた。

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「歴史の散歩道」から坂本八幡宮の正面を見る。

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新元号「令和」で大勢の人が押し寄せている坂本八幡宮からは、1300mほど南に位置し、親類に「菅原道真が晩年過ごしたことで地元では有名だから行ってみたら」と言われた榎社へ向かった。榎社は、901年に菅原道真が大宰府に左遷され903年に逝去するまで住んだ跡地で、当時、府の南館があったと云われる。1023年に道真の霊を弔うために浄妙院を建立したのが始まりで、境内に榎の大樹があったため「榎寺」と呼ばれるようになったと伝わる。榎社からは、観世音寺の境内から600mほど北の四王寺山の南麓にあり、地図上では「観世音寺子院跡」と記されている「推定金光寺跡」へ歩いた。寺院跡を見た後はまだ明るかったが、この日はかなりの距離歩きお腹も空いていたので、一旦ホテルに戻ってカメラリュックを置き、身軽になって電車で天神まで行き早めの夕食を親類と楽しんだ。

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菅原道真が亡くなるまで暮らした榎社の境内に30分ほどいたが、歴史好きそうな老人が1人と1組のカップルが境内を通り過ぎた以外、訪れる人はいなかった。

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中世寺院跡と思われる数多くの遺物が出土し、字名等から「金光寺跡」と推定された場所。地元の少年達が裏山へ駆け上がって行った以外、人影はなかった。

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翌朝、6時過ぎにホテルを出て、菅原道真を祭神とする太宰府天満宮へ歩いて行った。901年、右大臣であった道真は、左大臣の藤原時平らの陰謀により大宰府に左遷(実際には流罪に近い)され、903年に現在の榎社で死去した。死後、道真の遺骸を牛車で安楽寺へ葬送中同寺の門前で牛が動かなくなり、これは道真の遺志によるものと考えられこの地に埋葬され、905年、その場に廟社(びょうしゃ)が建てられ天原山庿院安楽寺と号した。それより都では、疫病、飢餓、異常気象が発生し、藤原時平らが相次いで亡くなり、不吉な出来事が続いた。朝廷は「道真の祟り」として恐れ、919年、道真の墓所の上に社殿が建立され、安楽寺天満宮の創祀とされる。しかし、その後も「道真の祟り」は収まらず、道真は右大臣に復され幾つかの位を与えられ、そして天満大自在天神となった。現在、学問の神様として知られる太宰府天満宮は、もともとは安楽寺の敷地内に建立された。安楽寺と天満宮は共存し神仏習合で、安楽寺天満宮と呼ばれていたが、明治維新の神仏分離で多くの建物や仏像は売却又は破壊され安楽寺は廃寺となった。

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ホテルから歩き、朝日を浴びて西から境内に入る。

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朝から多くの参拝者が渡る心字池にかかる太鼓橋。

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本殿ヘ向かい桜門を潜ってすぐ左側の立派な楠木に朝陽が当たる。

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本殿裏にかかる絵馬を撮ろうとカメラを構えたら、その前を次々と巫女さんが足早に通ってゆき、巫女さんの朝の出勤風景になった。

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太宰府に来たら逃すことの出来ない場所である太宰府天満宮に長居はせず、ホテルに戻って朝食を済ませた後、太宰府を後にした。海外生活のほうが長く、この数年やっと日本を少し旅するようになった私にとって、「令和」初日から、そのゆかりの地・太宰府を訪れることが出来たのはとてもラッキーだった。実は、新元号が「令和」と発表される少し前から、5月1日にしばらく会っていなかった親類に会いに太宰府へ行くことは決めてあり、福岡行きの飛行機チケットも購入してあった。「令和」の時代、いいスタートが切れたので新しい日本が見えてくるかもしれない。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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