徒歩圏内の夏の冒険
CONTEMPORARY
10-18mm F2.8 DC DN
Impression
by ニコラ・ビュフ|Nicolas Buffe
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新型コロナウイルス感染症がもたらした危機は、世界中の何百万人もの人々の生活様式を一変させました。私の遠方への長旅も、近所での短い散歩に取って代わったように。ただ幸運なことに、この時期は私の末の息子が歩き始めたタイミングと重なっていたので、散歩は彼の歩く練習にぴったりでした。それを機に、私たち親子は小さな冒険を全力で楽しむコツを身に着けます。時には夕食の買い出しのため、時にはこれといった目的なしに。さながら偵察モードに入ったかのように集中します。
偵察には装備が重要です。息子はお気に入りのおもちゃか途中で拾った小枝を持参。そして私はカメラを片手に、小さな冒険へ出発します。たとえ小規模な探検であっても、補給はおろそかにできません。お菓子の詰め合わせ、アイスクリーム、冷たい飲み物を確保しながら冒険を続けます。
子どもにとって、世界は驚くべき発見であふれています。地面にひっくり返ったセミや、アヒルの家族、木からぶら下がるセミの抜け殻、自分の10倍もの大きさの虫を運ぶ忙しいアリたち......そんなどこにでもあるようなものが、彼らに新鮮な驚きを与えてくれます。もっと大きなものでは、消防車、電車、滝のように見える階段、お城の形の滑り台、そして、川や空、そこに浮かぶ雲、賑やかな街を取り巻く木々など、ありとあらゆるものが驚きの対象です。
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*撮影データの記載なき写真はSIGMA 10-18mm F2.8 DC DN | Contemporary以外のレンズで撮影されています。
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そんな出会ったものたちについて思い返すとき、色や音、香りが浮かんできます。そうして呼び起される五感のうち、ことイメージに関して言えば、記憶は一体何色で彩られているのでしょうか。あのとき見たセミや階段、滑り台の色は?
ミシェル・パストゥローは著書「The Colours of Our Memories(われわれの記憶の色)」の中で、個人の記憶と特定の色との特別な結びつきについて触れています。これは、私たちの記憶に深く刻まれた物や出来事の色を、実際には私たちはどれほど正確に思い出せているのか、という疑問を提起しています。
私の芸術的研究で長年中心的な役割を果たしてきたのが、「Serio Ludere」という概念です。この言葉はラテン語で「真剣に遊ぶ」という意味で、エラスムスやルネサンスの思想家たちによって使われたオキシモロン(矛盾語)です。このフレーズが伝える通り、真面目なテーマに対してであっても、自由にアプローチすることが可能です。一方で、正しい視点さえ持っていれば、些細でつまらないと見なされることでも重要な意味を持ち始めます。そういった考えに基づき、私の作品では一見対照的なポピュラーカルチャーとクラシックカルチャー両方の要素やアイデアをあえて組み合わせています。
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今回の撮影のために、家の中を歩き回りながら末っ子の飛び跳ねるような遊びのリズムについていくのは新鮮な経験でした。私が最近手がけた多くの作品と同じように、今回の写真たちも、こうした日常の瞬間や出会った人々、空間からのインスピレーションに基づいています。写真に施した半カラーと半モノクロームの手法は、私の絵画やスケッチの延長線上で生まれたものです。モノクロームによるグラフィカルな視点と、色の弾けるような鮮やかさの統合を意図しました。息子が遊ぶのに合わせて、形や光、色を使った私の遊びも続きます。今回は特に、感覚、遊び心、子供時代の記憶の呼び起こすものに着目し、特定の色を残すことで写真の中で重要な部分の強調を試みています。
言うまでもなく、たとえ数秒であっても、遊んでいる息子にポーズを頼むことは非常に困難な交渉になります。いつも成功するはずもなく、あっという間に走り去ってしまうこともあります。そこで考え出した解決策のひとつは、広角で撮ることでした。数年前からFUJIFILM XF16mm F1.4 R WRを使い始めましたが、換算24mm相当の画角は建築、風景、動く子どもを撮るのに便利です。そのような経験もあり、SIGMA 10-18mm F2.8 DC DN | Contemporaryも自然に使うことができました。加えてこのレンズは、単焦点レンズでは不可能な素早い画角の切り替えも可能にしてくれます。
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さらにこのレンズは、近接撮影も広角でのフレーミングも簡単にできます。まるで2、3本の単焦点レンズが1本になっているかのように便利で、ズームリングの操作感もスムーズで気に入りました。また、私が3人の子どもの父親だということも、広角レンズを使う理由のひとつです。もし子ども達がバラバラの方向に走っていっても、広角であれば構図に収めるチャンスが増えますから。こういった状況に対処するには、コンパクトなSIGMA 10-18mm F2.8 DC DN | Contemporaryのレンズとミラーレスカメラは非常に心強い組合せです。
広角レンズがもたらすパースのおかげで、構図の中で対角線を強調することができました。冒険が終われば、現像という次のゲームの始まりです。おそらくデッサンと絵画の経験が関係していると思うのですが、私にとって現像は、写真により強い視覚的存在感と深い意味を持たせるために必須の工程です。このレンズが非常に満足のいくコントラストと色彩で捉えてくれたおかげで、それらの特性を存分に活かして作品に仕上げることができました。
10mmの広角がもたらす印象的な視野に加え、11.6cmと非常に短い最短撮影距離によって、息子を間近から撮影しながら構図に風景を取り入れることができました。もちろん、撮影者はこのような広角ズームレンズの特性と制約を理解し、その潜在能力を最大限に引き出すことが求められるでしょう。
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このレンズでの撮影は楽しい経験になりました。18mmまでズームさせ、素晴らしいF2.8の明るさを活かせば、被写体を背景から引き立てながら美しいボケ効果を生み出すことができます。SIGMA 10-18mm F2.8 DC DN | Contemporaryは軽量で、レンズフードを着けたままでもコンパクトです。持ち運びしやすく、さっと使える設計になっています。
初めてプッシュオン式レンズフードを取り付けようとしたときにはやや手間取りましたが、押し込む取り付け方に慣れてくると、素早く確実にできるようになりました。子どもと冒険に出発するときなど急ぐ場面では、このフードがそんな貴重な時間を節約してくれます。
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ABOUT
ニコラ・ビュフ
アーティスト
フランス出身のアーティスト。パリ国立高等美術学校を卒業後、2014年に東京藝術大学で博士号を取得。2018年には芸術文化勲章シュヴァリエを受章している。2007年からは東京を拠点に活動中。
幼少期から日本のポップカルチャーに親しみを持つ一方で、学びや研究で習得した中世、ルネサンス、バロック時代の要素も組み合わせることで、作品では博識と大衆文化を融合させた多面的で学際的な世界観を表現している。
2014年の東京、原美術館での個展をはじめ、ヨーロッパやアジア各国で数多くの展示を行っている。東京GINZA SIXでは壮大なインスタレーションを手がけたほか、近年の活動範囲は美術領域以外にも拡大し、ファッション、ラグジュアリーブランド(エルメス、コムデギャルソン、ピエール・エルメ、新政新政酒造)とのコラボレーション、建築(マイアミ・デザイン地区の"Museum Garage")、製造業者(Sèvres、Limoges、Aubusson)やオペラのアートディレクション(パリ・シャトレ劇場)など多岐にわたる。