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新しい、魔法の世界を開く50mm

ART
50mm F1.4 DG DN
Special Impression

by マイケ・ヴィットレック|Maike Wittreck

それは、12月に入って最初の朝でした。私は暖かいベッドをかなり早くに出て、近所の湿原を散策しながら新しい月の訪れを感じていました。頭をすっきりさせるのに、これ以上の方法はないでしょう。液晶画面やスケジュール、締め切りなど日々の煩わしさから離れ、湿原の中に深い静寂を見出すことで私は気持ちを落ち着かせることができるのです。

外は身震いするほどの寒さで、肌を刺すような凍てついた空気が私を包みました。しかし、そんなことは気になりません。爽快な空気を吸い込む時、私は日常の疲れが消えていくのを感じます。まるで霧に消えていく木道のように。

そこには完全な静寂がありました。世界はまだ深い眠りの中にいて、春や夏にここで繁殖し、巣を作るはずの鳥たちは、暖かい海岸を求めてすでに南へ移動し、私たち羽のない生き物だけが、冬の厳しい寒さのなかに残されました。

細い白樺の木が道を縁取り、後ろには白い霧に半分隠れた湿原に生える潅木や樹木がわずかに見えるだけです。私は自然が創り出すおとぎ話のような光景が大好きです。そしてそのような瞬間をカメラに収めることを大切にしています。私の風景写真のインスピレーションは、本で読んだり、映画で観たりした物語からきていると思います。神秘的な生き物や、深い、時には暗い秘密がある広大な土地についての物語。もし、「ロード・オブ・ザ・リング」を読まなかったら、私の写真の撮り方はまったく違ったものになっていたでしょう。

*撮影データの記載なき写真はSIGMA 50mm F1.4 DG DN | Art以外のレンズで撮影されています。

湿地のあちこちに点在する池の一つを通り過ぎ、私はさらさらとした水の音が聞こえる場所で立ち止まりました。静まり返った水面に伸びた裸の木の枝から、小さな水滴が落ちているのです。その音は心地よく、私はしばらくの間、周りの風景と同じように静かに、ただそこに立ち、見守り、耳を傾けていました。

霧と雲が陽を覆い隠すなか、ひっそりと朝が明けていきました。物憂げながらも妖しく、美しく。まるで、世界がまだ目覚めたくないかのように。

私が歩みを進める世界は、青と灰色の冬に支配されていました。しかし、12月のどんよりとした朝でも、色彩を見つけることはできます。例えば白樺の木々の間に生える淡い紫色の靄のようなギリュウモドキ。まるでラベンダーの絨毯の上に木々が立っているかのようです。

枝には最後の紅葉が、今年に別れを惜しむように、しがみついています。自然の中での撮影における葉っぱは、私の好きな被写体のひとつです。葉っぱでカラフルなボケをつくり、黄色やオレンジの色彩を画に加えるのです。

一歩一歩、霧が最も濃い森の奥に入っていきます。深い霧が漂い、もはやその輪郭しか見えない木々が、12月の朝そこを行き来するものたちを静かに見守っています。

あまりに重苦しい静けさに飲み込まれるように、私自身も息を潜めました。木々や茂みがもたらす静寂を邪魔しないためとでもいうように。私は切り株の上に腰を下ろし、寒さでかじかむ手を熱い紅茶で温めました。周囲には誰もおらず、私は独り至福の時を過ごし、しばらくの間、世の中の問題から完全に隔絶することができました。私はただ存在することができたのです。


説明の出来ない魔法がかかっていました。あの朝、森には何か不思議なものが宿っていました。森や丘や山や海に逃げ込むことができない世界だったら、私たちの存在はもっと荒涼としたものになるだろうと、何度も気づかされるような、自然だけが作り出すことのできる魔法です。私は、人々が足を止め、自分の生き方について考え、健全な環境にどのように貢献しているか、貴重で壊れやすい生態系を守るためにどうすればよいかを見つけ出してほしいと思っています。そのために私の写真が少しでも世の中の役に立てばと思います。

周りを見渡すとき、私は小さなものに目を奪われます。写真が私に教えてくれたことは、草の葉についた朝露のしずくや、シダの複雑な生え方、苔むした林床の細部の美しさに目を留め、それらを愛おしむことです。私たちは時に、壮大な自然に目を奪われ、見過ごされがちな小さな自然の一部なしでは、その壮大ささえも存在しないことを忘れてしまうのです。大木も、苔とキノコから育つのです。


自然の芸術作品の中の小さなディテールは、高い山やそびえ立つ崖の側面と同じくらい、あるいはそれ以上に、私を魅了します。私が最も興味をそそられるのは、林床です。ノームが住み着くような世界。クローバーの花びらの下を歩いたり、極小のキノコの傘の下で雨宿りしたりと、自らも縮んで迷い込んでしまいたくなるような世界。私の写真はそんな世界に逃げ込ませてくれ、良いレンズはそれをよりリアルな体験にしてくれます。なぜならそれは、人間の目が見える以上のものを写すから。SIGMA 50mm F1.4 DG DN|Artは、そんな世界を鮮やかに写し出すレンズなのです。

自然を満喫しているとき、光は急速に変化することがあります。太陽が周囲のすべてを照らしているかと思えば、暗雲が立ち込めてきたり、それによって撮影の仕方が変わってきます。SIGMA 50mm F1.4 DG DN | ArtはF1.4という明るい開放F値で光を多く取り込めるので、光量の少ない状況にも対応できます。

風景写真の撮影に単焦点レンズを一番に選ぶ人は少ないかもしれません。多くの人は、F1.4はあまりお勧めできないと言うでしょう。しかし、私はSIGMA 50mm F1.4 DG DN|Art の柔らかいボケに魅了されました。夢のような背景と前景を作ってくれるので、注目してほしい被写体に美しくピントが合い、邪魔なものはふんわりとぼかしてくれるのです。

ですから、ぜひ風景写真について改めて考えてみてください。50mmのレンズで、いつもはポートレートで使っているような絞りを選んで、挑戦してみてください。きっと、まったく新しい、不思議な世界が開くことでしょう。

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ABOUT

マイケ・ヴィットレック

アウトドア&トラベルフォトグラファー

西ドイツのビーレフェルトを拠点に活動する写真家。冬の山々は彼女を幸せにし、海の音は彼女のお気に入りの曲であり、自然よりも優れた芸術家はいないと信じている。彼女はただ、自分の作品を後世に残すために冷凍保存し、私たちの家である自然がいかに美しくも儚いものであるかを見せようとしている。彼女の写真への情熱は、2013年にニュージーランドのアオテアロアで1年間暮らしたときに芽生えた。それ以来、彼女はカメラと、近く遠くと多くの冒険を共にしている。森や山を探検していないときは、愛犬とギター、そして十分な量のカイザーシュマーンとソファで過ごしている。